XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年3月29日から4月1日の放送では、カードゲームを通じて食品ロス(まだ食べられるのに捨ててしまうもの)問題を自分事化する「食べ残しNOゲーム」のCXを紹介した。食べ残しNOゲームは、当時小学6年生だった栗田哲氏が未来価値創造大学校のアドベンチャーコースで食品ロスの課題を知り、解決策として思いついたアイデアだ。
放送では、未来価値創造大学校の中尾榛奈氏に、食べ残しNOゲームが生まれた経緯や利用したユーザーに生まれている変化、今後の展開などを伺った。
本記事では、放送の内容をまとめて紹介していく。
カードゲームを通じて、食品ロスに対する意識改革を促進
――最初に、食べ残しNOゲームの概要について教えていただけますか?
最大9人で楽しめるアナログのカードゲームで、プレイヤーはパン屋さんやパスタ屋さん、お寿司屋さん、ラーメン屋さんのどれかを担当し、来店するお客様が食べ残しをしないようにメニューを提供します。最終的に、食品ロスを減らし、売上の高いお店屋さんが勝ちとなります。
このゲームでお客様に食べ残しをさせないよう考えることで、自分が実際に外食するときにも、食べられる量を考えて注文する行為につながると考えています。また、お客様の所持金とメニュー金額の両方を合わせる必要があるため、計算の練習にもなります。他にも、「マルチタスクの能力も身につく」と、実際にゲームを体験した方から伺いましたね。
――具体的にどのように食品ロスのことを知ることができるのでしょうか。
たとえば、お客様が食べられる量と同量のメニューを提供できるとボーナス3000円がもらえます。逆にお客様が800グラム食べられるのに対して700グラムしか提供できなかった場合、お客様の満足度が減ってしまうため、1000円の罰金となります。また、お金をたくさん持っているお客様が来たときにも注意が必要です。お金があるからといって「これも食べて」とたくさん提供し、食べ残しを発生させるとマイナス5000円の罰金があります。
その結果、プレイヤーは「絶対お客様に食べ残しをさせないぞ」という気持ちが芽生えてきます。この気持ちが、自分が飲食店に行くときに「食べ残しをしないよう注文しよう」とする意識につながり、自然と食品ロスの問題が自分事化されていくと考えています。
始まりは小学6年生の男の子が行ったフィールドワーク
――食べ残しNOゲームを考案したのは、当時の小学6年生だそうですね。
はい。栗田君という小学6年生の男の子でした。お父さんが大阪で飲食店を経営しています。当時の粟田くんは、お父さんの会社を継ぐことが夢だったんです。
私たちが大阪市内で運営するフリースクールでは、「自分が何とかしたい」と思う社会課題を子どもたちが見つけ、自ら解決する方法を考える授業をしています。栗田君はお父さんの会社で「困っていることがあるのではないか」と思い、フィールドワークとしてお店に行ってみたんです。そこで発見したのは、お客様の食べ残しがとても多いことでした。
お父さんが経営するお店のひとつにとんかつ屋があり、そこではキャベツのおかわり無料をサービスとして提供していました。しかし、お客さんおかわりしたけれど、結局食べずに残っている。この現状に「なんてもったいないことをしているんだ」と感じたそうです。
そこで、この問題がなぜ起きているのかを調査し、自分の食べられる量と注文する量に差があるからではないかと、栗田君は仮説を立てました。この差をなくせば、食べ残しは減るのではないか。どうやったらできるかを考えた結果、カードゲームにたどり着きました。
――色んな方法が考えられると思うのですが、なぜカードゲームだったのでしょうか。
栗田君は考え始めて1発目に「カードゲーム」と言いました。あとから聞いた話では、課題と自分の好きなことを掛け合わせた結果だったとのこと。また、粟田くんと同世代の子どもに食品ロスの問題を知ってもらうためには、良いきっかけ作りになると考えたそうです。
ゲームが完成し、体験会を行ったところ、小学生から高齢者まで幅広い年代から申し込みがありました。SDGs、食品ロス、カードゲームなど、様々な切り口から関心を持ってくださり、体験会に来てくれます。カードゲームなので敷居が低く、「楽しそうだし、ちょっとやってみようかな」という気持ちになりやすいからだと考えています。
たとえば、出張授業に行くときは、授業が始まる前に机の上に全部のカードを広げておくんです。そうすると子どもたちが教室に入ってきた瞬間、もう目が輝いて「うわ、きょう何するの?」「これは何?」と、たくさん質問が飛び交います。そうして興味を持ってくれるので、授業が始まると私の顔を見て、しっかり話を聞いてくれます。
体験会を通して、新たな議論やアクションが生まれていく
――食べ残しNOゲームは、家庭でもプレーできるように一般発売もされていますが、体験会や出張授業も行われているんですね。
はい。小学校5~6年生の総合学習や環境の授業に呼んでいただき、座学だけでなく、体験を通して食品ロスを教えています。また、SDGsへの関心も高まっており、企業からも研修のご依頼をいただくことも増えています。食品ロスは、SDGsの目標12番「つくる責任、つかう責任」に当たります。これは誰もが当てはまることなので、今後は企業として何かを提供するときは、「つくる責任、つかう責任」に配慮することが大切です。そこで、まずは身近である食から理解してもらうために、食べ残しNOゲームを利用いただいています。
――実際に体験したユーザーの中には、これをきっかけに新しい体験の提供やアクションが始まった人たちもいらっしゃるそうですね。
体験してくれたお子様が、給食の食べ残しを減らすために「給食品ロスを減らそうシールアクション」をクラスで始めてくれました。給食で食べ残しをしなかったらシールを貼るポスターを考えて創りました。シールを貼ったら、自分の名前も書きます。それを1週間続けたら、ポスターがシールだらけになって、みんな頑張ったことが可視化できたんです。自分で考えて行動したことをお母さんからご報告いただき、非常にうれしかったですね。
製薬会社で行った体験会では、自分が働く業界にも「メディカルロス」があることに気づかれました。食品ロスと同じように、お薬も期限が切れたものは捨てなければいけなかったり、パッケージが崩れたものは売れなかったりすることがあるのだそうです。その場で新たな言葉が生まれ、「こういう発展の仕方もあるんだ」と私自身も発見がありました。
「47都道府県にこのゲームを届け、食品ロスを減らしたい」
――食べ残しNOゲームが発信するメッセージは今後どのように広がるのでしょうか。
4月から英語版を作っています。大阪にある羽衣国際大学とコラボし、学生が主体になって日本語版から英語版にしているんです。私たちはカードゲームをするだけではなく、食品ロスの削減に向けた啓発やSDGsの講座も行っています。学生と一緒に作り、海外の方にも食べ残しNOゲームを通して、食品ロスの削減を考えるきっかけを作りたいです。
日本語版の第2弾も考えています。第1弾はお店屋さんの立場でしたが、第2弾は消費者の立場となり、家庭でできる食品ロスの削減などを伝えていけたらと話しています。
――多言語化されて、この体験が世界のスタンダードになったら素敵ですね。
自分が解決したい課題を見つけ、何とかしたいと思う気持ちは、今後自分がどう生きて、どんな仕事をしたいのかなど、人生を考えるきっかけになると思います。小さい頃からその種ができると、そのことやそれに関連することに常に興味を持ち、アンテナが張られるようになったりするので、どんどん情報をキャッチしていきます。自分の中に情報がたくさん溜まり、さらに答えを出していく。それが当たり前にできる学生が増えてきていると感じます。
もっと食品ロス削減を啓発するためにも、食べ残しNOゲームをより多くの方に知っていただきたいです。私たちは、食べ残しNOゲームで全国制覇をしたいと思っています。まだ食べ残しNOゲームの体験会をしたのは7都道府県なので、まだ40府県ありますが、最終的にはすべての都道府県をまわり、食べ残しNOゲームを通して一緒に食品ロスを削減していきたい。2025年、大阪万博の開催までに達成したいです。
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