ジュエリー・アクセサリーを展開する「JAM HOME MADE」は、ブランド創立20周年を節目に、「リアルとヴァーチャルの融合」という新しいコンセプトの旗艦店を東京の千駄ヶ谷にオープンした。
「お客様ひとりひとりを大切にしたい」という想いで20年間ブランドを運営してきたJAM HOME MADE。オンラインでの買い物が一般的になり、実店舗のあり方への考え方が変化していく中で、「リアル店舗の来訪客もオンラインショップの来訪客も同じようにおもてなしをしたい」という想いが新店舗では体現された。
リアルとヴァーチャルの融合。それをどう実現するかの構想を練っていた昨年の11月、プレイドが「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」を発表したことにより、一気に具体化していくことになる。
カルテガーデンは、オンラインショップの訪問者を仮想空間の店舗で具現化する実験的な取り組みとして発表されたもので、来訪者を数字ではなくそこにいる人として感じてもらうために、サイト内での回遊が実際の店舗での動きのように表現されている。リアルタイムであることにもこだわった。
偶然にもJAM HOME MADEが実現したかったことと、プレイドが表現したかったことがリンクし、リアル店舗におけるヴァーチャルの表現に全面的に採用されることになる。出来上がった店舗では、壁三面にJAM HOME MADEのオンラインショップの“いま現在の来訪者”が映し出される形になった。
リアルとヴァーチャルのそれぞれの訪問者が対面する不思議な空間だ。
今回は、JAM HOME MADEでEC統括マネージャーの古屋氏と、カルテガーデンのプロジェクトリーダーである秋山氏に、このコンセプトが実現した背景とその根底にある想いを聞いた。
カルテガーデンとの出会い
古屋:これまで旗艦店は原宿にあったんですが、昨年の夏が明けたぐらいに、不動産の契約の関係で「移転」という話が出ていました。
たぶん内部ではもっと前からその話があったと思いますが、僕に話が伝わってきたのが秋口ぐらいでした。
そのタイミングで、新しいお店を作る必要があったんですが、ブランド20周年という節目でもあったので、ディレクターの中でこれまでとは違う流れを入れていかなければならないと考えていたようです。
雑談の中で「古屋くんさ、新しいお店のことなんだけど。普通に考えるとリアルなお店を20年やってきたブランドが新しくお店を出すって感覚なんだけど、20年間ネットショップをやっていた人がお店を作るとしたら、どういうお店になるのかな」と聞かれたんですよね。
一般的にリアル店舗からネットショップが派生しているようなイメージがある中で、ネットショップを20年間やっていたブランドが実店舗を作るって考えると、結構面白いですよね。
漠然と「リアルとネットの融合」なんてことを考えているときにカルテガーデンの記事を見て、そこでがっちゃんこしたんですよね。全く別のイメージをしていたんですが、「20年間やっていたらこれ組み込むな」と、本当にシンクロした感じでした。
タイミング的にも奇跡的だなって思いましたね。
秋山:最初に問い合わせいただいた時のことをよく覚えています。年末のすごいタイミングでしたよね。実はカルテガーデンは私にとってプレイドでの一発目の仕事だったんですよ。
いろいろなメディアで取り上げていただいて嬉しかったんですけど、リアル店舗で活用してもらうようなことは正直想定していませんでした。
問い合わせいただいた時は本当に嬉しかったんですけど、まだ僕の中ではカルテガーデンの完成度って構想の10%ぐらいしかなかったんですよ。
それが果たして、古屋さんの望むものに叶っているのかどうかってところが不安でしたね。
それで最初にデモをさせてもらって、「すみません、いまこの程度のことしかできないんです」って正直にお話しして。
古屋:でも、結構衝撃的でしたけどね。デモ良かったですよ。
今回の店舗実現に至ったJAM HOME MADEの想い
―― 実は古屋氏がJAM HOME MADEと出会ったのは、建築関係の仕事をしていた時代に「すごい店がある」と話題になっていたことから、当時千駄ヶ谷にあった店舗に興味を持って訪れた時だったという。
その店舗は、吸音材を用いた白い壁に囲まれた無音の空間に店員が一人いるという、異質で圧倒される雰囲気があったそうなのだが、当時の“裏原ブーム”では考えられないような、すごく親切で細部まで気を使ってくれる接客に感動して、古屋氏は一気にJAM HOME MADEのファンになったのだそうだ。
その後、入社した古屋氏はその想いを受け継ぎ、今回の店舗の実現に至っている。
古屋:一人のお客さんを大事にしなきゃいけないとか、初代店長の接客スタイルを僕も受け継いでいます。JAM HOME MADEには最初店頭の販売員として入ったんですが、そこで3年間やったときに持った感覚が、会社の辞令で「オンラインショップの担当になりなさい」と言われたときに、運用してみて右も左もわからずにやっている中で、すごくギャップを感じたんです。
「お店でできることがウェブだとできない」とか、「その間隔を埋めるためにたくさんのお客さんを入れなきゃいけない」とか、数字の話にどんどんすり替わっていったんですよね。
僕もいまネットの担当になって7年になりますが、カルテガーデンで本当にまたもう一回気づかせてもらえたって感じですね。
僕としても原点に戻してもらった感覚というか。もちろん、ウェブの知識とかは独学なので、勉強をされている方と比較するとたいしたことないかもしれないんですが、店頭を経験したうえでやるオンラインショップの運営って、すごいギャップが強いですよね。
それが、さっきも話をしていたんですが、入り口から入ってきたときに見てもう鳥肌が立ったんです。「一人のお客さんだよな、これ」みたいな(笑)
秋山:僕らもいろいろ試行錯誤してやりましたが、やっぱり最初に映し出された時は嬉しかったですよね、人がこっちから来るというのが。もちろん、頭でイメージはしていたんだけど、実際見ると違いますよね。
古屋:そうですよね。感慨深いというか。最初は取り組みとしても、お客さんに対して「ちゃんとこれだけのことを考えているよ」みたいな部分でやっていたのが大きかったんですが、実は一番価値があるのって、僕らオンラインショップを運営する側が「ウェブに来ているお客さんを一人のお客さんとして認識できる」というところにあるのかもしれません。強制プログラム化したほうがいいと思うぐらいですね。
「いま来ているこのお客さんのために何かできないかな」って感覚になるというか。そこは、本当にすばらしいですね。
秋山:本当にそうですね。今のウェブマーケティングに、ちょっと違和感を感じちゃっている人って、たぶんいると思うんです。そういう人に1回来てほしいですよね。
古屋:本当にそうですね。
秋山:もしかしたら、これを見ることでその違和感とか、欠けているピースが埋まる人がいるんじゃないかなって気がしているんですよ。全員には刺さらないかもしれないけど、確実に何かに気づく人はいると思います。
古屋:それはありますよね。最初から数字の話ばっかりで運営している人には、どう刺さるかとわからないのですが、そこでも絶対気づきがあるぐらい、本当に衝撃的でしたね。
リアルもウェブも一人の客としてみるべきことに変わりはない
秋山:いや、嬉しいです。本当にJAM HOME MADEさんは数字ではなく本質を見ているのだなって感じますよ。
売り手と買い手というものが、別にウェブだろうとリアルだろうと、それは全く関係がなくて。そこには伝えるべき想いだとか、接し方とか、いろいろなものがあると思うんです。ただウェブがそこに追いついていないだけであって、本質的に持っているものは常に変わらないですよね。まだ未熟なだけですよ。
言い換えればウェブのポテンシャルだったりするので、そこで表現し切れていないのだと思っています。そこに課題を感じている人というのはまだ少ないとは思いますけど、確実にいて、それはすごく大きなことだと思います。
古屋:ウェブって過去の数字にとらわれがちですよね。「過去にこういうことをやったら、これだけの反応があった」とか、「これには過去にこの金額をかけたら、これだけの人が来たから、これだけの効果がある」とか。
秋山:基本的には、ウェブマーケティングって乱暴な言い方をすると統計学みたいなもので、何でもアルゴリズムに落とし込みたがるんですよね。
ただ、そこに何が要因として働いたのか、というのはわからないんですよ。わからないけど、何かこういう手を打ったら、こういう跳ね上がり方をしたとか。
それは確かにあるし、大事だとは思うんですが、その数字集めだけにだいぶ寄りすぎちゃっているのはどうなのかなと。
それこそ、古屋さんも言われた「原点」というのは、「接客」とか「物を売る、買う」で出会った人たちが、そこでどういうコミュニケーション、どういうお互いの背景を共有できるかっていうところがありますよね。それがJAM HOME MADEに入るきっかけにもなっちゃうぐらいな。
そういうものを、いまのウェブでやれているのかというと確実にやれていないですね。
古屋:会社としてもカルテガーデンに投資をして入れてもらったことを、僕が一番感謝しているぐらいなんですよ。
接客の第一歩目というのは、その人をお客さんとして認識することだと思うんですよね。過去の数字にとらわれがちというのも、朝に来て集計する時に「昨日のお客さんが何人来て・・・」とかやっている、それがもう完全に過去の話で。これから来るお客さんのための準備って、あまりないんですよね、正直。
秋山:過去の類推でしか考えないというね。
古屋:カルテガーデンがあると、次に入ってくるお客さんが、「どういうお客さんなんだろう」とか、ちょっとだけわくわくするみたいなところがありますよね。
例えば、「明日はどういうお客さんが来るんだろうな」というような感覚をウェブでも持てるって思います。やっぱり接客って想像力が必要だったりするんですよね。
「どういうお客さんが来るのだろう」とか「どういうお客さんに来てほしい」とかまで。どういうお客さんが来ても接客したいとなったときに、その想像力がないと対応し切れないんですよね。
―― 自分自身が、店舗に訪れたたった一度の体験でファンにさせられた経験がある古屋氏だからこそ、その大切さがわかるのかもしれない。
その大切さはウェブでも変わらない。
古屋:「KARTE」というプラットフォームをベースに、普通では考えられない情報をちゃんと僕らが持てるんですよね。
それをちゃんと接客に活かせたら、もう最強と言っていいぐらいのものになりますね。
お客さんにもストレスをためさせないで、さらに快適な接客ができて。こういうタイプのものができるとなると、もうウェブでもリアル店舗と同じことが可能になるのだという。可能性として、もう本当に近い状態が来ているみたいな。
秋山:古屋さんの話を聞いていて思うのは、もう実店舗で働いている店員さんでもないし、ウェブマーケターでもないなという。
古屋:もうすごく中途半場。(笑)
秋山:中途半端というか、両方知っていて行き着いている答えが普通と違いますよね。どっちかを極めていると絶対にたどり着けないところにいるなというのを、いまの話を聞いていてすごく思いました。
古屋:大層なものでは全然ないです。
秋山:いや、絶対そうだと思います。どっちが良い悪いの話ではないんですよね。
リアル店舗の接客がいいのか、ウェブのマーケティングがいいのか、どっちがいい悪いなんてどっちも一長一短ですが、やっぱり双方に確実に欠けている部分があって。そこをどう現在のテクノロジーで補っていけば良いのか。
あるいは、欠けていてもいいけどそれ以上の価値をどう出していくかってところが、割と不完全な世の中では重要な考え方かなと思うんですよね。
その辺をすごく本質を捉えているのではないかなと思います。しかも両方知ったうえで。だから、それはすごく面白いなと思うんです。
おそらくウェブマーケターにも古屋さんのお話は刺さるけど、実店舗で店員さんをやっている人たちにも刺さる。この話をできる人はそうそういないよなっていう。
古屋:結局、疑問に思ったことを解決する術が自分しかいなかったんですよ。しばらく1人でウェブを担当していたので、端から見たら何をやっているかわらかないみたいな状態で。
結構、ウェブの担当者の苦悩みたいなものがあると思うんですが、そういうときに「いや、でもお客さんが待っているし」とか、そういう感覚は販売員だったから持てていたのかもしれないですね。
「これって何のためになるのだろう」と考えることだけは忘れたことはなかったですね。それがお客さんのためとなったら、こういうふうにするのがいいかなとか。もちろん今回のカルテガーデンもそうですが、自分のためというか、何のためと考えていくと、こんな感じになっちゃった(笑)
秋山:本当に珍しい。珍しいという言い方がいいのかわからないけれども、これは古屋さんが自分でいろいろな環境に身をおいて、自分で考えたからこそ出せた答えなのかなと。他に同じようなことを言っている人は、僕は聞いたことがないし。
オンラインでも大事なことは商品を手に取ってくれるかどうか
―― そんな古屋氏はオンラインショップをどのような場であるべきと考えているのだろうか。
古屋:リアル店舗とフラットにできたら一番いいなというのが正直ありますね。最新の技術を使ってデコレーションされたかっこいいサイトがいっぱいある中で、何かそうじゃないところに力を入れていきたいなというのは、感覚的にあるのかもしれません。
変な話、お金をたくさんかければそういうサイトはできるし、話題にもなるのだけども、一番大事なところは、来てくれたお客さんがうちの商品を手に取ってくれるかどうかであって、その確率がすごく高いサイトであることなのかなと。オンラインショップの本質としてなんですけど、それが正解だなと思います。
知名度があっても人気がなきゃブランドってずっと長く続いていかないですよね。かといって人気ってどうやってつけるのかというと、やっぱり商品をお客さんに届けて、手に取ってもらって、体感してもらわなきゃいけないですよね。そういう部分で接客は外せないと思います。
ここの限界値を解除するのが接客な気がしますね。
秋山:そうですよね。アクセスログで見ると、ただの数字の1で、その1がどのぐらいの熱量を持っているかがわからないですよね。
熱烈なファンの1なのか、たまたま訪れた1なのかっていうところが。
古屋:本当に、アクセスログではわからない部分ですね。きっかけを与えてもらえると、お客さんも帰ってきてくれますし。
そもそもキャッチボールが生まれないとお客さんとの関係も築けないですし。そこはウェブでもあまり変わらないですよね。「あのお客さん戻ってきてくれないかな」って感覚ってちょっと恋っぽい感じがあるんですよね。(笑)
秋山:そういう感じですよね。
古屋:「お客さんあの商品を渡したあと大丈夫だったかな」みたいな想像する部分は、ウェブにも全部広がっていると思うんですよね。
秋山:本当、そうですよね、そこね。
古屋:ポチッと買って、それがペアリングで、ラッピング希望で、お届け希望日これで、午前中指定になっていて。「これ午後には絶対何かあるよな」と。
秋山:(笑)
古屋:そういう想像しちゃう部分っていうのがあります。「この人は問い合わせのメールまでくれているから相当焦っているのだな」とか。確実に届けなきゃみたいな。
そのお客さんが10人集まったり100人集まったりすると、それが数字に変わっちゃったりする中で、改めて「一人のお客さんなんだよ」ということ、絶対にその先にも広がっているものがあるということを考えるべきですよね。
『名もなき指輪』もそうですけど、届けたあとにお客さんが発信してくれて、うちにまた戻ってきてくれるという、その好循環というのが、ネットのすごくいいところだと思うんです。ただ、元をたどっていくとやっぱり一人のお客さんにちゃんと商品を届けて体感してもらうというところが大事であって、今後やっていきたいところですね。それは、昔からあんまり変わっていないんですが(笑)これからやりたいこともあんまり変わらないのかな。
秋山:だから、ずっと本質なわけですよね。
古屋:そうですね。そこは抜けない部分ですね。
―― これからオンラインでどのようなことを実現していきたいのかに話は移る。
古屋:やっぱりお客さんとのコミュニケーションは絶対ですよね。自分たちでできる範囲ということになりますが、どういう形であれコミュニケーションは取っていきたいと思っています。
あとは、お客さんのことを知りたい。ウェブのお客さんって、知り合ったばかりのような状態なんですよ。距離を感じないし、時間もそんなに気にしなくてもよかったりする中で、この人こんなところに住んでいるこういう人なんだ、みたいな。
ウェブでも気になる部分をちょっと知れるようなことができていくといいと思います。もちろんテクノロジーがどんどんと進化してわかるようになってきていると思うんですが、もっと引き出したい(笑)
秋山:やっぱりウェブって、かなり便利になったところがあるんだけれども、その反面、リアル世界の当たり前がまだ全然ウェブ上で実装されていない部分はありますね。
今後はそこが余計に重要になってくると思います。もう、手軽に商品の画像とかを見れて、注文をポチッとやれば買えて、すぐ届くというのはわかったけれども、それが当たり前になってその次に何が大事なのかというと、古屋さんが言われているようなもうちょっとエモーショナルな部分、人と人というところの接点をどう作っていくかと言うのが、肝にはなっていく気はしますね。
古屋:アクセサリーとかだと、本当にかけがえのない商品に出会おうとしている人がいたとしても、やっぱりウェブだとみんな並列になってしまうところがあって、そこはコミュニケーションを通さないと解決できないことだと思います。お客さんが本当にどういう想いで来ているのかと。
秋山:ウェブってお客さんのフィードバックがないから、売り手側が勝手な主張をしがちですよね。例えば「いまこの商品が売りたいから」とか「たぶんこの人はこれ好きだろう」みたいな。どっちかというと、押し売りに近くなっちゃっているところがあると思います。
実店舗だと「これどうですか?」と反応を見て、今度は次の手を、やっぱりこっちかな、とか考えられると思うんですけど、そこのキャッチボールがないから。
古屋:あなたのおすすめってこれですよ、これですよ、って押していくうちに、お客さん的に潜在的に「これが俺、気に入ってたのかも」みたいにさせちゃう、みたいな。
秋山:そういう悪い側面はありますよ。お客さんにとって、良かったとしても悪かったとしても
古屋:それだけお客さんが、満足していただけるんだったらいいんですけれども、僕も満足していただく商品に、「これだ」「これにします」と言わせるというか、そこまで持っていけたらいいかもって思いますね。これがどう変わっていくのか、「KARTE」でぜひ実現してください。
秋山:そこは「KARTE」でもっと求められているところというか、変化していかなければいけない一つではありますよね。
古屋:ある程度の自動化は必要だとは思いますが、最終的に「これにします」と言ってもらうのが人としての醍醐味の一つだし。是非実現して欲しいです。
―― ありがとうございました。
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撮影/伊藤圭