XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年4月4日から4月8日の放送では、棚ごとに本の“売り主”が異なる、小さな本屋さんの集合体「ブックマンション」について紹介した。 JR中央線吉祥寺駅から徒歩約5分、洋食屋が入っていた小さなビル一棟。Twitterで協力者を募ってリノベーションをしたり、クラウドファンディングで支援者を集めたりと、多くの人が関わって作り上げられたのが特徴だ。
放送では、店主の中西功氏に、ブックマンションの仕組みや、シェアする本屋だから生まれるコミュニティ、全国に店舗を増やす取り組みなどについて語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
本屋を80人でシェア。3850円の賃料で、好きな本を販売可能
――「本屋をシェアする」というユニークな運営をされているブックマンション。最初に、運営の仕組みについて教えてください。
ブックマンションでは、本屋をやりたい方や本好きな方が月々3850円の賃料を支払うことで、32cm四方の棚に好きな本を置いて販売できるようになっています。特徴的なのが、「店番」の仕組みです。店番のシフトは棚を借りた方々の中で組みます。店番を担当した人が、その日店主になれるようになっているんです。
近年、お店をシェアする考えがありますが、実は古本屋では昔から常連お客さまに棚を貸す文化があったようです。その文化を知ったことが、本屋をシェアするスタイルに取り組むきっかけとなりました。店を立ち上げる際は、クラウドファンディングを実施。支援のリターンには棚を借りられる利用権を設定しました。合計328人に支援いただき、80人の方が棚を借りることになりました。スタート時から棚の借主が決まっている状態でしたね。
――ブックマンションにはどのようなお客さまがいらっしゃるのでしょうか。
2通りのお客さまがいらっしゃいます。本好きでブックマンションを知っている方と、棚を借りている方のSNS投稿を見て来られる方がいます。少し前にサウナの本を特集する日を設けたら、多くのサウナ好きが集まって、楽しそうに話をされていたのが印象的です。
ある特定の書店員一人がトップダウンで作った世界ではなく、棚を運営している80人それぞれのネットワークに紐付いてお客さんが来る。それぞれの触手が多方面に、だんだんと広がっているような感じです。コミュニティ形成が自然な流れで行われている気がします。
3か月に1回の店番担当で設けられている、あるルールとは
――お店は本の販売だけでなく、コミュニケーションの場にもなっているそうですね。
はい。ブックマンションに関わる人は、店の運営・管理をしている私と棚を借りて販売している人、あとはお客さま。この三者が混じるような感じになっています。
私ももちろんお客さんとして本を買います。同様に棚を借りている人も、本を補充にしに来たにも関わらず、補充した以上の本を買って帰ることもあります。通ってくださったお客さまが棚の借主になる場合もある。「吉祥寺が消費する場所から、立ち寄る場所になった」とおっしゃってくださった方がいて、嬉しいなと思っています。
棚を借りている方がふらっと店に来て、店番とおしゃべりをする。店番とお客さまやお客さま同士の会話も歓迎しているので、静かに本を選ぶだけでなく会話がよく起こります。思わず何かを語りに寄りたくなるような場になっているのかもしれません。
――本棚をシェアしているからこそ生まれるつながりですね。店番をする際には、何かルールのようなものはあるのでしょうか?
店番を担当する方の好きなように場を活用していい、というルールがあります。人は好きなものに吸い寄せられる部分があり、共通項があるだけで話が弾むため、3か月に1回店番をしてもらうときには、「自由に場を使っていい」ということにしました。
たとえば、デザイナーの方は「デザインの相談受けつけます」と相談会を設けたり、小学校の図工の先生は図工のワークショップをやったり、バイオリンを弾ける方は、バイオリンの演奏会をしたりていました。コロナ禍で職場に行く機会が減ったり、飲み会もなかなか難しかったりする中で、人と会う機会が少なくなっている。その中でちょっとふらっと立ち寄って、数分だけでも話ができる場は、心の支えになっていると思います。
販売する人と買う人だけの関係性は作らずに、お店があって、販売に参画してくれる人がいて、お客さまもいる。三者が混ざっていく関係性を維持していきたいと強く思っています。
本との偶然の出会いをなくさないために本屋をシェアする
――2020年12月に吉祥寺店のジュンク堂とコラボ企画を展開されました。どのようなきっかけで、コラボ企画を実施することになったのでしょうか。
ジュンク堂さんから「棚の借主が選書した本を置く」という企画のお話をいただいたことがきっかけです。ブックマンションはクローズドのコミュニティではなく、開かれたコミュニティであった方がいいと思っているので、とても良い機会だなと思いました。また、さまざまな本屋のあり方を考えるきっかけにもなるかなと。
このコラボの準備は管理者である私がやったのではなく、「やりたいです」と言ってくれた棚の借主たちが全部準備をして、回してくれました。自分たちの興味とのつながりはもちろんあったと思いますが、「みんなで場を運営してこう」「みんなの知見をもっと共有していこう」という意識の強い方たちが多いので、企画がうまくいったのだと思います。
――コラボ企画の反響はあった一方で、街にある本屋は徐々に減っており、電子書籍市場が大きく拡大しています。本を取り巻く状況については、どのように考えていますか?
私自身は、電子書籍も紙の本もどちらも好きなので、どちらもあっていいんじゃないかなと思っています。ただ、唯一あるとすると、本屋には偶然の出会いが、あるということです。そもそも自分が知らない世界は電子書籍だとたどり着くのが難しい。でも本屋に行けば、歩きながら書棚を見ている中で、偶発的な出会いが生まれる可能性があります。
もちろん電子書籍は便利なので、利用者が増えるのも分かります。そして、そんな中では書籍文化の造形に深い方が運営する本屋さんの存在は希望です。ただ、そういう方が数多く現れるのを待つだけではなく、みんなで運営する本屋さんのスタイルを選択肢として提示したいと思っています。
「本屋をシェアする仕組みを、全国に広げていきたい」
――現在、ブックマンションのようにみんなで場をシェアする仕組みを使い、全国に本屋を増やそうと取り組んでいるんですよね。
はい。私の8歳の息子が大人になったときに、本屋が全くない日本と、本屋がたくさんある日本を考えたときに、後者の日本の中で育ってほしいと強く思っています。でも、実際は本屋を一人でやるのは継続しにくい。だからこそブックマンションのようにみんなで運営する本屋のスタイルを広めていきたいです。すでに直接教えて作られた店舗が都内に3店舗、全国でも10店舗あるので、2年以内に100店舗、少し先の4年以内には1000店舗まで増やしていきたいです。
――シェアする仕組みで、本屋を運営する際にリスクはあるのでしょうか。
ブックマンションの仕組みは、実施するときのリスクがあまりないのが特徴です。通常はお店を開く際に家賃や人件費、仕入れの費用がかかってきます。ブックマンションの場合は、参加する方で家賃をシェアし、運営もみんなで行うので人件費は発生しない。仕入れはそれぞれが本を持ち寄って運営するため、金銭面で大きなリスクが発生しづらいんです。
たとえば、地方の商店街にある空き家を10万円で借りるとする。20人の参加者がいて、一人あたり5000円持ち出し、それぞれが本を持ち寄れば、本のある空間ができます。場ができることで、地域にいる本好きの方々が集まってきてくれると思います。そういったかたちで本屋を作るのも、本屋のあり方の提案としてあるのではないでしょうか。
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