XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年11月1日から11月4日の放送では、アートに関するコンサルティングやオークションなどのイベントを手がける「AGホールディングズ」のCXを紹介した。同社は、若手アーティストの作品を1万円からオークションする「まちの気楽なオークション」を主催している。
放送では、AGホールディングズ代表の柴山哲治氏に、創業に至るまでの経緯や、オークションでの体験、アートの楽しみ方などについて語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
ロックフェラー家は築いたアートのエコシステムを目の当たりにする
――柴山さんがアートに興味を持たれた原点を教えてください。
1990年から1995年まで、ロックフェラー家のファミリーオフィス「ロックフェラー・アンド・カンパニー」の金融部門に勤めていました。そこでは、ロックフェラー家が巨大な富を社会に還元しようと、文化芸術・科学技術の基礎研究に力を注いでいました。
その一つが、アートのエコシステムの構築です。企業や個人が無名アーティストの作品を購入し、企業内で展示をする。さらに10〜30年経って大成するアーティストが誕生したら、MoMAやThe Museum of Modern Artに寄贈して飾るというものです。
――柴山さんはその後、世界最古で最大のオークション会社「サザビーズ」に転職されています。そこでは、どのような気づきがあったのでしょうか。
日本の美術大学は80校もあり、美術教育が整っています。しかし、無名アーティストの作品を購入してサポートする人は非常に少ないと感じていました。有名で高額な絵は手に入らなくても、駆け出しの無名アーティストの作品であれば購入できるはずですが、作品を購入する習慣がなかったんです。
今は購入する人が若干増えてきましたが、その習慣を根付かせるために、AGホールディングズを創業しました。
グローバル・スタンダードなオークションを、もっと身近に
――現代アートを手に入れる時のポイントは、どのようなものなのでしょうか。
人の真似をして買わないことです。有象無象の作品を高価格で購入する、アートバブルが起きてしまうからです。
現代アートは5~10万円程度と安価ながら、非常に優れた作品があります。安価に手に入る無名の作品でも、購入者が100人集まれば、1人のアーティストを1年間支えられる。まずは、自ら探しにいくことが大切なのではないでしょうか。
――アートの敷居を下げるために、2020年には鎌倉で「まちの気楽なオークション」を始められたそうですね。
サザビーズを退職後、都内で1万円からスタートする「まちの気軽なオークション」を行っていました。しかし、新型コロナウイルスの影響により、やむなく中止に。たまたまご縁あって、鎌倉のギャラリーカフェで再開しました。
――オークションでは、どのような体験が待っているのでしょうか。
「まちの気楽なオークション」は、無名アーティストの作品を1万円からオークションできます。数百万、数千万するオークションとは違い、気軽に始められるのが特徴です。
実際にオークションの練習もあります。「オークショニアの柴山が1万円と言ったら、みんな手を挙げてみましょう」といったところから教えていますね。
オークションのやり方は、世界共通です。270年続くサザビーズのオークションと全く同じやり方ですが、0の数は4つくらい少なくなります。それくらい本当に気楽なオークションなんです。
さらに、出品された作品を自分で判断した値段で買うことにも取り組んでもらっています。初めて落札された方の感動は大きくて。思わずハイタッチしたくなるくらい、非常に喜ぶ方が多いです。
アートを購入する楽しみを知り、アーティスト支援につなげる
――まちの気楽なオークションでは、オークションだけでなく、アートの買い方も教育していると伺いました。
ギャラリーでは、1人のアーティストに対して、2点の作品を取り扱っています。1点はオークション用、もう1点はギャラリー用です。
無名アーティストの場合、5万円という値段がついていても、果たしてその価値があるのか判断しづらい。そこで、同じアーティストの異なる作品をオークションにかけることで、購入までのプロセスを楽しんでもらえる。その結果、両方の作品を買われる方が多いんです。
「まちの気楽なオークション」は、無名アーティストの作品をより多く購入してもらい、支援する大切さを知ってもらう。、同時に、アートの購入方法を学んで楽しめるようになることが、重要な要素の1つです。
――実際にオークションで作品を落札した方は、どのようにアートを楽しまれているのでしょうか。
自分が購入した作品を部屋の背後に置いて、オンラインミーティングに参加される方もいらっしゃいます。マイ・アート・コレクションがビデオ会議に映ることで「今日は絵が飾られているけど、どうしたの?」と会話が生まれ、場が和みやすくなりますね。
特にグローバル企業では、アートをさりげなく飾ることが最近のたしなみになっているように感じています。
アート作品の“地産地消”を目指し、CO2削減に貢献する
――新型コロナウイルスの影響によって、アートビジネス界にも変化が生まれているのでしょうか。
家の中で過ごす時間が多くなり、今まで絵を1点も購入したことがない方がアートを購入するチャンスが生まれています。もちろん、有名で高額なものはなかなか所有が難しいですが、美大を卒業さればかりだったり、在籍しているアーティストの作品であれば安価に良いものを手に入れられます。
無名アーティストの作品をより多く購入することで、アーティストの支援にもつながります。この仕組がわかれば、ご自身の楽しみが増えることはもちろん、世の中のためにもなります。波及効果によって、美術マーケットを再創造することにつながると感じています。
――最後に、AGホールディングスの今後の展開について教えてください。
「まちの気楽なオークション」はこれからも続けていきます。周囲には、アーティストのアトリエも多く、また鎌倉に住むアート好きな方も定着していて、アートの地産地消のような形になっています。
最近では、400年の歴史と伝統がある窯元である「膳所焼窯元 陽炎園」の代表にも就任しました。今後は、現代アートと陶器のコラボも行っていきたいと思います。
くわえて、環境問題も意識した活動を行っていきたいです。芸術作品は、持ち運びに非常に多くのCO2を排出します。例えば、ルーブル美術館からどこかの国に作品を運ぶだけで、環境を汚してしまう。そこで、アートの移動をできるだけ減らすために、アーティストの近くでマーケットを作り、地産地消を推進していきたいです。
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