XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年5月31日から6月23日の放送では、2021年3月22日(月) から 11月23日(火)まで期間限定で六本木けやき坂下に登場しているチームラボによる新しい展覧会、「TikTok チームラボリコクネト」のCXを紹介した。同展覧会はアートとサウナを融合させた、今までにない「新しい文化体験」を提供しているそうだ。
放送では、チームラボ代表・猪子寿之氏に、チームラボリコネクトはどのような作品があるのか、どのような体験ができるのか、またチームラボとして今後ユーザーに届けていきたい「世界」について語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
オリンピックに合わせて実験的なアート×サウナの体験を世界に発信
――アート×サウナで新しい体験をデザインしているそうですが、そもそもなぜサウナに注目したのでしょうか?
ここ数年、日本でムーブメントが巻き起こっている「サウナ」ですが、私も2、3年前に九州の山奥で、サウナによる「ととのう」体験をしました。それが忘れられないほどいい体験で、そこからサウナでととのうという感覚に興味を持ち始めました。
――展覧会の開催時期は、オリンピック・パラリンピックの開催期間でもありますよね。世界に向けた発信の狙いもあったのでしょうか?
そうですね。日本国内はもちろん、オリンピックに合わせて東京の魅力を世界に発信できればと思っていました。ニューヨークや上海、ドバイ、香港、シンガポール、バンコクなどの成長している都市と東京を比べた時に、世界の人からすると東京は少し見劣りしてしまうかもしれない。だからこそ実験的ではありますが、「ととのう」という新しい体験を届けることにしました。
また、一般的にアートは権威がある場所に置かれることが多いです。しかし今回は、あえて東京でそのような場所に置くのではなく、来る人々を最高級な状態にして、アートを見せる場所を作ろうと思いました。
――場所ではなく、人の状態を変える展覧会でもあるのですね。
そうなんです。アート作品をルーブル宮殿やMOMAなど高貴なところに置くのではなく、この展覧会ではテント内に置き、サウナによってととのった状態の人々が鑑賞することができるようにしました。サウナとアートを融合させた鑑賞そのものが、人々にとって新しい体験だと思っています。
サウナに入り、超温冷交代浴による「ととのった」状態でアート作品を鑑賞する、かつテントの中という特殊な環境で鑑賞する体験そのものが新しいと思います。
「超自然現象」をテーマに日常とは違った作品を展示
――普段の美術鑑賞とは、どういった違いをもたらすのでしょうか?
そもそもアートは、非日常の空間で体験するものではないでしょうか。ヨーロッパでは権威がある、最高級の場所にアートを置いているので、一般人からするとアートに触れること自体が非日常の体験をすることと同じです。アートそのものが見たこともない世界を見せてくれて、人々の世界への見え方を広げたり、美を拡張したりするんです。
それに対しチームラボリコネクトでは、アートを鑑賞する空間自体で新しい体験ができます。日常ではどうしても、まず目的を持って行動することが大事というモードに入ってしまいます。しかしこの展覧会ではサウナによって冴えた五感を使い、ただ目の前にある現象と向き合う。普段だと目に留まらない地味な作品に対しても、じっくりと観察できるようになります。
――チームラボリコネクトでは、どのような作品を展示しているのでしょう?
今回は、自然界の法則を超えた現象を意味する「超自然現象」という意味の「Supernature Phenomenon」を大きなテーマにしています。そして、超自然現象による認知の変化をテーマにしたプロジェクトでもあります。展覧会を訪れた人が超自然現象を見るなかで、その人の認知そのものが変化する。そうしてその認知の変化が「日常とは違った状態」へ導いてくれるだろうと考えています。
会場のメインエリアであるアート浴エリアには、3つの作品が展示してあります。その一つが「空中浮揚 – 平面化する赤と青、曖昧な紫 」です。何にも吊られていない球体が、空中の真ん中で上がったり下がったりしています。「熱で浮かんでいるのでは?」とおっしゃるのですが、球体が閉じているので熱のせいではないんです。これエネルギーの秩序によって空中に浮上しているんです。
この制作の前に「生命とは何か」を考えていたときに、「生命とは実はエネルギーの秩序なのではないか」と思い始めました。空間にエネルギーの秩序を作ることによって、生命のような現象が起こるのではないかと。つまり生命こそが、実は超自然現象とも言えるのではないかと。そして生命とよく似た現象を物理的に作ろうとしたときに、それはある種の「超自然現象」が起こっていることになると繋がったわけです。
体験価値を高めるために文化や歴史的背景を知る
――サウナという環境を活かすことによって、実現した展示もあるそうですね。
そうですね。もともと私は水という物質がとても好きで、水は「キャンバス」だと捉えています。なぜかというと水は身体との境界が曖昧な存在だからです。普段は作品が濡れてしまうなどの問題が生じるので、水を使った作品を作る機会はなかなかないのですが。
今回のチームラボリコネクトでは、水が使い放題となっているので、特に水のシャワーを浴びる冷水エリアでは、普段作れないような水の作品を二つ置いています。アート浴エリアでは、水を使った作品を一つ置いています。言葉で説明するのは難しいのですが、まず水でできた作品の中に入っていき、水に没入した瞬間に、全く違う世界に入っていくというような作品です。
――オフィシャルWebサイトでは、サウナや公衆浴場の歴史なども詳しく紹介されていますね。文化を知ることも、体験価値を高める一つのアクセントになっているようです。
来場される方にはこの展覧会を楽しむだけではなくて、地域の歴史や文化への興味も持ってくれるようになればいいなと思っています。たとえば、サウナの歴史のなかで文化的背景を調べていくと、お茶とも関係があることが分かっていきます。「なぜこの街にはこんなに銭湯があるんだろう?」と、地域の文化的背景に興味を持つこともあるかもしれません。
ただ、このように地域のことを深く知っていくこと自体は楽しいものですが、昔からあるものをひたすらに守ってしまうことに関しては注意が必要です。昔からの形式や様式を守らなければいけないと思っていることは多いですが、それこそが逆に現代と分断して、どこかおもしろくないものにさせてしまう原因ではないでしょうか。文化は継承するもので、そのまま守るだけでは意味がないんです。
身体と作品の境界をなくし、世界と一体化する体験を
――アート×サウナの体験を通して、ユーザーにどのような世界を届けていきたいですか?
人々が一体化する、自分の身体と作品の境界が曖昧になるものを作っていきたいと思っています。私たちは、本来大きな世界の一部で、世界と一体でもある。長い時間の上に存在していて、独立して存在できないものです。しかし人々は、なぜか連続している存在であることを忘れ、分断をあおったり、繋がっているせいにしたりすることもあるでしょう。
チームラボでは、何らかによって世界と一体化する体験を生み出していきたいと思っています。そうして人々が自分の存在は長い時間の上にあることに気が付いて、世界や時間に再び繋がるような体験をしてくれれば嬉しい限りです。
今日お話ししたチームラボリコネクトでいうと、サウナを通して超自然現象を見て、世界と連続しているということに気づく。体験した人が本来忘れていた自分の姿を思い出せるように、という意味を踏まえ、コネクトではなくリコネクトと名付けています。
――作品に没入することで、世界と一体化していることに再び気づくということが、リコネクトの体験なんですね。
はい、世界はすべて連続し合っていて、それこそが美しいことであると感じています。だからこそ私たちは作品を通してすべてが連続し合う、境界のない一つの世界を実現したいと思っています。
実は今まで作った作品も、全て境界が曖昧なものが多いんです。今後は今まで作ってきたものの延長線上で、さらに作品を増やしていきたいです。私自身、作品が完成するまでのプロセスを通して、興味や思考が広がっていくのを感じています。これからはその広がりと共に、また新たなものを作っていければと思います。
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