XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年10月11日から10月14日の放送では、2021年7月に東急プラザ銀座内にオープンした、新感覚の体験型施設「ずかんミュージアム」が届けるCXを紹介した。デジタルとリアルが融合した空間の中で、図鑑でしか見ることのできなかった生き物が生命を得たように動きまわり、地球の自然をあらゆる感覚を研ぎ澄ましながら体験できる施設だ。
放送では、同施設でゼネラルプロデューサーを務めた株式会社AIDーDCC(エイドディーシーシー)の九里昌宏氏、クリエイティブディレクターを務めた北井貴之氏にミュージアムの特徴や体験、今後の展開などについて伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
地球に現存する生物をデジタル空間で再現
──はじめにずかんミュージアムがどのような体験型施設なのか教えてください。
北井:小学館が発行している図鑑シリーズ「図鑑NEO」をデジタル空間で再現した体験型施設です。施設内では来場者が生き物を検知、記録するためのアイテム「記録の石」を片手に、出合った生き物を採取していきます。息づく生き物たちと能動的に出合い、生き物のおもしろい特徴を知っていただくことができます。
ミュージアム内では1日の流れを24分で表現し、時間に応じて出現する生き物も変わったり、時間や天候の変化も体感していただけます。地球の自然が凝縮されたような新感覚の施設です。
──どのような経緯で始まったプロジェクトなのでしょうか。
九里:もともとデジタルを活用した体験型施設を作りたいと考えていました。会場となっている東急プラザ銀座さんから「銀座で三世代が楽しめる施設を作ってほしい」と言っていただき、企画をさらに詰めていきました。
私たちがクリエイティブを創る際に、ターゲットを狭めて設定し、その人たちに楽しんでもらうにはどうしたらよいかを考えます。しかし今回は「三世代」という幅広い層に届けたい。なかなか難しいお題でした。
企画を考えていく中で、方向性を“普遍的なもの”に決めました。普遍的なものを考えた時に、「地球」に行き着いたんです。でも地球を見せるミュージアムってよくわからないですよね(笑)。そこで思いついたのが、図鑑でした。図鑑には地球のすべてのことが書いてあります。そこで図鑑を発刊されている小学館さんをお誘いし、チームにジョインしていただきました。
──平面の世界である図鑑をデジタルで再現するからこそ発見できるおもしろさがありそうですね。こだわった点について教えてください。
北井:こだわったのは、デジタルだから表現できることです。動物園や水族館にいる生き物ではなく、地球に存在していたけれどリアルに見ることは難しい生き物との出合いもデジタルで創出したいと思いました。
リアルな再現にはとにかく時間をかけました。なぜなら図鑑である以上、本物の情報を届けることは必須だからです。たとえば、カブトムシの足の運び方ひとつをとっても緻密に再現しています。またリアルに動くだけでなく、人の気配を感じ取って反応するようになっています。
本物に近い体験を提供するために空間や音作りにこだわる
──没入体験を演出するうえで「音作り」にも注力されたそうですね。
北井:ミュージアム内には森林、清流、川といった生き物の生息に合わせた5つのゾーンがあります。ゾーンはシームレスにつながっているのですが、流れる音楽が少しずつ違っています。ただその変化を意識させず、長時間いられるような音づくりにこだわり、世界観を創りあげていきました。
──5つの中でもおすすめのゾーンはありますか。
北井:ここでしか体験できないアリの目線の世界「アントビューゾーン」です。私たち人間からすると昆虫は上から見る生き物ですが、それを斜め下や横から見たり、それを見上げたりできます。
今までとは違うアングルで生き物を見ることで新たな発見につながるのではないかなと思っています。
九里:このゾーンは特に“リアルであること”にこだわっています。椅子に座るとおしりから振動が伝わってくるようになっていたり、カブトムシが飛んでくると風がふわっと吹いたり。音の表現も本物に近くなるよう、スピーカーにこだわりました。
2022年7月には1周年を記念して、このアントビューゾーンがバージョンアップします。それまではアントビューゾーンを存分に楽しんでいただき、バージョンアップ後にもぜひお越しください。
来場者一人ひとりが違う体験を楽しめる仕掛けを作る
──出口前ではどのくらいの生き物と出合えたか答え合わせができるようになっているそうですね。
九里:はい。収集心をくすぐり、思わず何度も訪れたくなるような体験になっているかなと思います。来場された方々は、採集できる生き物のコンプリートを目指して、一生懸命に記録されています。30種類の生き物に出合えた人もいれば、半分以下しか見られなかったという人もいたりと様々です。
ミュージアムショップ内では『公式生き物図鑑』を販売しています。図鑑として見るだけではなく、攻略本的に見て、採取したい生き物に目星をつける方もいます。図鑑を通して、出合えなかった生き物を発見し、もっと知りたくなるようなきっかけ作りができていると感じています。
──また足を運びたいと思ってもらえる仕掛けがあるんですね。
九里:制作チームではいつも「来訪した一人ひとりの体験を違うものにしたいね」と話していました。そのためにゾーンを多く設け、時間の流れを感じさせる仕掛けになっています。入室する時間が5分違うだけで、会える生き物が変わってくるんです。
例えば、友達は鹿を見られたけど、自分は鹿の代わりに熊を見たという風に違いが出てくるようになっています。
北井:考えてみると本物の自然に足を踏み入れた際、出合いたい生き物に出合える確証ってないと思うんです。それを再現したかったので、設計段階から偶然性を大事にしました。二度三度と言わず、たくさん足を運んでいただけるような仕組みにはなっているかなと思います。
生き物や地球への好奇心を育てていきたい
──ずかんミュージアムの今後の展望について教えてください。
九里:複数年にわたって展開していく事業ということ念頭に、リニューアルを考えています。まだ登場させていない生き物が『図鑑NEO』にはまだ相当数いるので、どのようにリニューアルしていくか計画していく予定です。
──おふたりは今後どのようにデジタルと向き合っていきたいと考えていますか。
北井:デジタルは、日頃絶対に体験できない、出合えないものごとを叶えられると思っています。ずかんミュージアムのように「地球の凝縮」を表現しようと思うとリアルでは難しいけど、デジタルでなら表現できる。
ただデジタルのみを活用していくつもりはありません。リアルだけでは足りないところを、うまくデジタルで補っていく制作姿勢は変えずにいたいです。
九里:「デジタルだからすごいだろう」と言うのは、もうそろそろかっこ悪いなと感じているんです。それより、デジタルの空間にいることを忘れてもらえるようにしていきたいです。
ミュージアムにくる大人からは「結構リアルだね」と言われます。きっとデジタルであることを前提に見ているからですよね。一方で子どもたちは、本物のヘラジカやアマゾンカワイルカに会っていると思っている。デジタルを意識させないように、空間や動きのリアル性を追求していきたいです。
──ミュージアムでの体験を通して、どのような気づきを得てもらいたいですか。
北井:街中とのギャップを感じてもらいたいです。また普段出合えない生き物たちを近くに感じ、関心を高めていただきたい。ひいては地球にも興味を持つきっかけになれればと考えています。
またこの施設が、図鑑に掲載された生き物の起源にリアルで触れられる、最初の場になれればと思います。
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