XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年4月13日から16日の放送では、東京・高円寺の地で昭和8年から営業を続ける老舗銭湯、小杉湯を紹介した。常連だけでなく、20~30代といった若い世代からも支持される小杉湯。イベントやワークショップの開催、銭湯のある暮らしを体験できる場所として新たにオープンした「小杉湯となり」など、銭湯を軸にさまざまな出会いを生活者に届けている。
三代目の平松佑介氏が考える「銭湯ならではのCX」とは何か。現代における銭湯の価値や小杉湯独自のさまざまな取り組み、今後の展開について語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
「銭湯=シェアリングエコノミー」、若い世代の発想に感化
――現代は家にお風呂がある家庭が多いのにも関わらず、なぜか銭湯って足を運びたくなりますよね。その理由について、平松さんはどう考えていますか?
日常の中でちょっとした非日常を味わいたいからだと感じています。非日常にあるハードルの高い体験ではなくて、日常生活の延長線上でほっと一息つきたいとか、オンとオフを切り替えたいとか、心と体を整える場として銭湯を利用していただいているのかなと。そのため、小杉湯では銭湯のことを「ケ(日常)の日のハレ(非日常)」と定義しています。
近所の知っている人と挨拶するとか、ほどよい距離感のコミュニケーションがとれるのも心地良いですよね。常連さん同士の会話はたわいもない話ばかりですが、その会話を聞いているとほっとできて、「あ、この場所にいていいんだな」と思えるのかもしれません。
――お客様の割合は、やはり常連さんが多いのでしょうか。
実は4割ほどが、学生や20代から30代の若い世代です。平均の利用客数は、平日が400人から500人ほど、土曜日が500人から600人ほど、日曜日が多いときで1000人ほど。常連さんも来ていただいてますが、利用が増えているのは20代から30代なんです。
――なぜ若い世代のお客様が増えていると思いますか?
若い世代の方は「人とシェアする方が豊か」という考え方を持っているので、番台でお金を払い、みんなでお風呂をシェアするという銭湯を良い場所と捉えてくださっているようなんです。私はもうすぐ40歳でどちらかというと「所有」することの価値観を持っていたので、「シェアリングエコノミー」の文脈に当てはまると初めて気付かされました。そういう意味では、銭湯はこれからの世代にこそ受け入れられる場所だと感じています。
イベントやワークショップを通して「銭湯に触れる体験」を
――浴槽を舞台にアーティストが演奏する「銭湯フェス」や、日本画に触れるイベント、ワークショップなども開催されていますよね。どのような経緯で始めたのでしょうか?
小杉湯では多くのイベントや企画が生まれ、さまざまなコミュニティが育っています。「イベントをやっているから人が集まっている」と思われがちなのですが、時系列としては逆なんですよね。人が集まっているからこそ、いろんなイベントが生まれているのかなと。
つまり、自発的にイベントを開催しているのではなく、小杉湯ファンのお客様から「ここでライブがしたい」「演劇や落語がやりたい」と、企画を持ち込んでくださることが多いんです。お風呂は生活の基盤なので人が集まりやすいこと、また銭湯は空間としても広くて気持ちがよいので、イベントが開催しやすい。そういう意味では、お客様にとって小杉湯は単に銭湯に入る場だけでなく、やりたいことを実現する「環境」になっていると思っています。
――人が集まる場所だからこそ、さまざまなアイデアのイベントがお客様から生まれていくと。これらのイベントを通して、お客様に届けたい体験は何と考えていますか。
イベントを開催する大きな目的の一つに、銭湯を知る人を増やしたいという思いが強くあります。イベントに参加してくださった方が「初めて銭湯の中に入った」と言ってくれることは結構多いんです。このような初めての銭湯体験を、イベントごとに作っていけたらなと。
この体験が「次はお風呂に入ってみよう」とか「他の銭湯にも行ってみよう」みたいに、次につながるかもしれません。特に若い世代にとって、銭湯は中に入ってみるまで未知の場所なので、イベントを通してハードルを下げることは大切だと思っています。
企業とのコラボや「小杉湯となり」で余白のある暮らしを提案
――小杉湯では、暮らしに取り入れたいモノづくりをしている企業とのコラボレーションも多いと伺っています。こうした取り組みをする理由は何でしょうか?
銭湯という「点」の体験を、いろんな他の点とつなげて「線」にしていきたいからです。
現在は銭湯の中で木村石鹸のシャンプーやせっけんが使えたり、IKEUCHI ORGANICのバスタオルもレンタルできたりします。丁寧に作られた品物を使うことで新しい体験ができますし、銭湯という点にも大きな付加価値が生まれて、新しい体験につながるのかなと。
たとえば、お風呂に入った後、IKEUCHI ORGANICのバスタオルに包まれると、幸福度が非常に高いんですよね。暮らしの中にしっかりと作られたものを取り入れていくと、生活に余白が生まれ、日々の豊かさにつながると感じています。今後もモノづくり企業とコラボレーションして、お風呂に入るだけでは得られない体験を提供していきたいと思っています。
・「正直な」モノづくりが、次のファンを生んでゆく。木村石鹸の“ちょうどいい”生活体験
――銭湯での体験を通して、木村石鹸やIKEUCHI ORGANICのことを知り、お店に買いに行くということも生まれていきそうですね。
そうなんです。お風呂に入るだけではない体験をいっぱい作ることで、銭湯へのハードルをとにかく下げたいという気持ちがあります。入浴料金は470円、IKEUCHI ORGANICのバスタオルは50円。フェイスタオルは無料なので、500円強で銭湯に入れるんです。カフェに行くような感覚で、ふと思いついたときに来れるような場所にしたい。頭に小杉湯の存在が思い浮かんだときに、一度家に帰るのではなく、手ぶらでも来れるようにしたいなと。
そのため、シャンプーやコンディショナーだけでなく、クレンジングや化粧水、乳液、ボディクリームまで用意していて、いつでも来れるような場所にしたいと思っています。
――小杉湯での「湯上がり体験」はこれだけではありません。銭湯の隣にオープンした「小杉湯となり」では、お風呂後のひとときをデザインする施設になっているそうですね。
小杉湯となりは、「銭湯のある暮らし」を体験できる場所としてオープンしました。1階では食事やお酒が楽しめて、2階のコワーキングスペースのような場所では、小上がりの畳で仕事ができたり、ゆっくり本が読んでくつろげたりします。3階はそれぞれ好きな時間を過ごす個室になっているなど、湯上がりにさまざまな体験ができるようにしています。
この場所にはもともと、私の父親が所有する風呂なしアパートが建っていたんです。そのアパートを解体するため、一定期間ここが空き家になることになったんですね。だったら何か面白いことができないかなと、小杉湯ファンのお客様に「何かしようよ」と声をかけました。そうしたら多くのメンバーが集まり、いろんなアイデアを出してもらった結果、「1年間、銭湯のある暮らしを小杉湯の隣でやること」が決まった形になります。
――銭湯のある暮らしを通して、お客様にどのような体験を届けたいと考えましたか?
みんなの共通体験として、銭湯のある暮らしは「余白が生まれる」という感覚があったと思います。東京のような場所はオンオフの境目がなかったり、ずっとインターネットに接続されているような状態なので、余白のある暮らしを自分で取り入れていかないと日々大変ですよね。そのため、銭湯のある暮らしでは、地域とのつながりを感じられて、ホッとできるような余白のある場所を届けたい。そんな思いで、小杉湯となりを企画しました。
人との出会いがすべての始まり。次は生まれ育った高円寺で
――平松さんは小杉湯や小杉湯となりに関して、どのような将来像を描いていますか?
銭湯という点を、いろんな点とつなげて線にできてきたので、次は高円寺という地域で面にしていきたいと考えています。私は高円寺生まれ、高円寺育ちで、この町が大好きです。だからこそ、小杉湯や小杉湯となりのようなものを横展開して広げていくよりは、高円寺に人が集まってきて、その人たちと一緒に豊かな暮らしを作り、結果的にまちづくりにつなげていく。そんなことを「皆でやりたいね」と、銭湯でも話していますね。
――銭湯を中心に人が集まり、暮らしが生まれ、地域が豊かになっていくと。
はい。思い返すと、「人との出会い」がすべての始まりなんです。たとえば、以前来てくれた台湾の方とお話ししたところ、その方は台湾の薬膳文化を生かして、湯上がりに「台湾の薬膳料理や薬膳スープを食べてほしい」と前々から思っていたそうで。だったら小杉湯となりで薬膳料理を出したり、小杉湯でイベントをやったりしようと話が盛り上がりました。
他にも、こだわりのクリームソーダを作る職人が小杉湯に来てくれて。クリームソーダは世代を共通してほっとできる飲み物だなと感じていたので、「小杉湯となりで提供したい」という話をしています。銭湯に集まってくる人と人との掛け合わせで、新しい企画がどんどん生まれています。今後もこうしたつながりが増えていくと思うと、将来が楽しみですね。
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