XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年6月29日から7月2日の放送では、「Soup Stock Tokyo」などの飲食業をはじめ、リサイクルショップやネクタイブランドなど、幅広く事業を手がけるスマイルズ代表取締役社長の遠山正道氏が手掛ける新サービス「ArtSticker(アートスティッカー)」を紹介した。
ArtStickerは、Web上でアート作品と出会い、アーティストの支援ができるプラットフォームだ。気に入った作品に支援したり、作品の感想を記録したり、その記録を他のユーザーと共有したりできる。感想は作品のアーティストも見ることができるため、アーティストから返信が届くこともあり、双方向のコミュニケーションが可能となっている。
放送では、遠山氏にアートに関連した事業を展開しようと思った経緯やArtStickerを通して届けたい顧客体験、ビジネスとアートの共通点などを伺った。
購入だけではない、「好き」を伝えるArtStickerの仕組み
――最初に、ArtStickerがどのようなサービスか教えてください。
ArtStickerでは、ユーザーがアーティストの作品から自分の好きなものを選び、購入はもちろん、小額からの支援も可能となっているプラットフォームです。現在およそ900人を超えるアーティストが、約4500点の作品を出展しています。
「スティッカー」と呼ぶ支援機能は、120円から自由な金額でできます。3000円でも1万円でも好きな金額でアーティストを支援し、自分の好きを伝えることができるんです。
支援すると作品をアーカイブできるので、私は「ご朱印帳みたい」と言っていますね。アーカイブした作品にはコメントが残せ、他のユーザーに共有もできます。作品を通じて感じたことを記録し、他者とのコミュニケーションツールとしても役立てられるのです。アーティスト本人も見ることができるので、ひょっとしたらご本人から返事が来るかもしれません。
――ご自身もまたコレクターであり、多面的にアートに触れる中でArtStickerを開発されたという遠山さん。どのような思いで始めたのか教えていただけますか?
「作品以外のすべてを大事にしたい」と思ったことが始めたきっかけとなりました。
もちろん作品が全てではありますが、どうしてこの作品を作ったのかという思いとか、アーティストそのもの、あるいは鑑賞者がいて初めてアートは成立すると思っています。
なので、作品単体で可能になることって全体の半分くらい。そのため、鑑賞者の感覚を知ることや鑑賞者とコミュニケーションを取ること、展示すること、売買も含めた全体の流れに、作家はもっと関与していくといいと思っているんです。
演劇や音楽と同様に、アートもお客さんがいないと存在しないようなもの。むしろ、お客さんとの関係性の中で行ったり来たりする中で、自分のあり方を見つけていく。現代アートでも今後、その循環が行われていくと思うんです。個とアートが行き来する感覚を作るときにはインターネットが向いていると考え、ArtStickerを作りましたね。
アーティストからは、今までにない「新しい喜び」があるという声が
――ArtStickerのユーザーは、どのような体験ができるのでしょうか。
先ほども少し伝えたように、利用者は作品に対して「好き」という気持ちが示せます。支援をしたり、コメントを残したりして好きな作品をアーカイブする。そうすると、「こういう作品が好きなんだな」と自分のことを知っていく。言語化して整理することで、自分自身の好みに気付くきっかけができるのは面白いと思うんですよね。
また、アートやアーティストとの関係性を持つのは、「売買」契約だけはないと考えています。作品が数十万となると購入できない方もいるでしょう。そんな時は、スティッカー機能で自分の気持ちを相手に伝える。これも、ある種の契約のようだと感じているんです。
――作品を買うお金や、飾るスペースの問題で多くの人が感じてしまうアートとの距離。ArtStickerは、その距離を狭める一つのきっかけになっているのかもしれません。利用するアーティストからは、どのような声が届いていますか?
今までになかった「新しい喜び」があると聞きました。SNSなどで聞く賞賛の声と、120円でも500円でも払ったうえで「好きだ」と言ってもらえるのは、受け取る気持ちが全く異なるというのです。確かにお金を払うということは、非常に能動的な行為ですよね。
アーティストは、自分や周囲をすごく観察しています。作品で再現することを叩き込まれているので、観察する癖がついてるのでしょう。観察した内容が、何らかの言葉に置き換えられ、思考を経て、作品が生まれるというプロセスがあります。この過程まで見たうえでユーザーに「好き」と言ってもらえるのは、創作意欲にもつながっているかなと思っています。
ビジネスにも共通した、アートが促す“自分事”への思考
――遠山さんは、とあるコンテンポラリーダンスを見たときに感銘を受け、「自分たちはここまでやりきれているのだろうか」という思いを抱いた経験があるとお聞きしました。自分たちの事業とアートを比べたとき、具体的にはどんなことに気づいたのでしょうか。
ビジネスとアートには似ている点があることに気付きました。アーティストって、自分事の権化なんです。まず自分たちの発意があり、そこから作品が生まれ、世の中に提示していく。自分がやりたいという動機や意思がないと、誰も何もやってくれないんですよね。
自分でアクションを起こして、反応を得る。だからこそ、うまくいったときにすごい感動があるわけです。それによって、作品作りが繰り返されていく。自分で個展を開いたときのことを振り返っても、会社の事業と色々なことがマッチしました。
周りの顔色を見ながら事業を進めると、うまくいけば良いですが、うまくいかなかったときにすごく虚無感が残ります。同じ失敗でも、自分たちが信じて進んだ先の失敗なら、やりきったという気持ちが残る。もちろん儲かったら一つのガソリンになるとは思いますが、やりたくもないのにビジネスの形だけ作って、それで赤字だと本当にもう情けなくなります。
――ビジネスやアートに限らず、自分事でものごとを捉える時代になっているのかもしれませんね。そんな時代におけるアートの役割や必要性は、どこにあると思いますか。
アートは、考え方や感じ方を触発する一つの手段になり得ます。自分が主役で、何をどう感じるかを考える時の対比点に、アートはなると思うんですね。現代は、会社に頼っていれば定年まで過ごせ、一生分のお金が稼げる時代ではなくなりました。自分から興味や関心持ったり、自分自身に指示を出していかなくてはいけない。自分で考えるとか、自分で感じるという癖をつけないといけないわけです。アートはそれを促すことができると思っています。
アーティストも一人の人間です。出来上がったものは見た人の視界あり、答えがなく、自由に感じていいなので、それぞれの考え方や感じ方を触発するきっかけになるのかなと。
アートがコミュニケーションや発想を生み、新たな気づきをもたらす
――ArtStickerを通して、アートにどのような変化をもたらしたいと考えていますか?
作るまでが役割と考えているアーティストにも、その後の世界をもっと開いてほしいと思っています。アートって、すごくクローズドなんです。作家はアトリエにこもり、ギャラリーも作家を抱えている。そんな風潮があるので、物理的にも感覚的にもすごく閉じています。周りから見ると分かりづらい現状にあるので、もっと開いていってほしいのです。
ArtStickerでは、演劇も対象にしています。演劇は見に行くと紙と鉛筆が渡され、感想を書きます。しかし、紙だとアーカイブ化しづらく、限られた人しか読まないですよね。だからこそ、ArtStickerを活用すれば、すごくフィットするのではないかと思っています。
ArtStickerなら共有が容易にできるし、アーカイブが残る。感想を書く人も、他の人の感想を見ながら、「こういう感じ方があるんだ」と気付きが得られます。その感想を見た演者から直接「ありがとう」と言われると、鑑賞者は「次も見に行きます」と返したくなりますよね。共有することで良い関係を築くことができ、そこから価値も生まれると思うんです。
――作品のフィードバックを全員が共有することで、アートへの評価や見方が変わってくるかもしれませんね。最後に、アーティストと私たちの距離が縮んだとき、どんな生活が広がっていくのか。遠山さんの考えを聞かせていただけますか。
アートは、コミュニケーションや発想を生むための一つの装置です。今後の人生の中にアートが身近にあると、かなり豊かな生活になるでしょう。アートを通じて新しい旅の形も生まれるかもしれないし、新しい行動を起こすきっかけになるかもしれない。アートが今後の人生の新たな気づきをもたらしてくれるといいなと思っています。
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