XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年4月6日から9日の放送では、クリエイティブディレクターの小橋賢児氏を紹介した。未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND(スターアイランド)」を始め、2019年の東京モーターショーで行われたドローンショー「CONTACT」など、テクノロジーを融合させたエンターテインメントを数多くプロデュースする小橋氏。イベントの他にも、日の出桟橋に誕生した新しい小型船ターミナル『Hi-NODE(ハイノード)』や、横浜駅直結駅ビルにある室内キッズパーク『PuChu!(プチュウ)』の企画にも携わっている。
放送では、小橋氏がイベントや施設をプロデュースするうえでどのような視点を大切にしているのか、苦労した点やそれぞれのプロジェクトにかける思いも含めて伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
都会にいながら自然を感じられる場所を、Hi-NODEへの思い
――最初に、2019年に生まれた新しい施設、Hi-NODEについて教えてください。企画アドバイザーとして関わられる中で、どのような場所を目指したのでしょうか。
日本は海に囲まれているにも関わらず、タウンマインドで海よりも街のほうに価値があると思われていて、海がないがしろにされていると思うんですよね。特に「都会のど真ん中にある海」という価値に目を向けられていないのが気になっていました。
例えば、フランスのセーヌ川の周りを見てもそうですが、海外では海や川の周りに価値があるとされているんです。自然に触れ合うことで気持ちや心も豊かになるし、自然を大事にしようという価値観にもつながります。だから、コンクリートジャングルの中で仕事をしているような僕らが、都会にいながら自然を感じ、切り替えができる場所ができないか。そういう思いで、Hi-NODEは「海を感じられる場所にしたい」と立地選びから携わりました。
――都会にいても自然を感じられる場所が、私たちに必要ということでしょうか。
そうですね。今は何でもかんでも建物を作ろうとして、敷地をぎゅうぎゅう詰めにしてしまうじゃないですか。でも、もっと余白のようなものが必要と思っているんです。Hi-NODEは727平方メートルの芝生があるので、もっといろいろと詰め込んだほうがビジネス的には良かったのかもしれない。でも、憩いの場になるような余白がほしかったんです。
都会にいると、星空や夕日を眺めるという時間って結構みんな忘れているな、と思っていて。でも、Hi-NODEに行くと、空や海の色が変わり、太陽が昇って落ちていく。そんな時間とともに移り変わる自然の景色を、何も考えずに眺める時間が必要だと思います。
元気の気って「元の気」って書きますね。僕が考える元気って、決してハイパーになることではなくて「元の気に戻る」っていうことなんです。元の気に戻れば、みんなすばらしい能力や可能性があるのに、ストレスなどで失ってしまっている。海を感じて自然と調和することによって、元の気に戻るきっかけの場所にHi-NODEがなれたらと思っています。
PuChu!は子どもたちが「Want to」の世界を作るきっかけ場
――キッズパークのPuChu!でもプロデューサーを務められました。Hi-NODEとはまったく違うタイプの施設ですが、こちらはどのような思いが込められているのでしょうか?
PuChu!は、プチ宇宙から取った造語です。施設内には7つの星の世界と、11個のゾーンを作り、子どもたちがいろんな宇宙を体験できるようにしました。大人がさまざまな場所を旅して自分の可能性を広げるように、子どもたちもここで多様な世界に触れて、そこから「自分の中にある小さな宇宙を作ってほしい」という思いを込めています。
――子どもたちを対象にした施設を考えるうえで、悩んだ点やハードルはありましたか。
今の時代、デジタルがとても発展しているので、デジタルコンテンツをどう組み込むかという点では悩みましたね。大人からするとデジタルコンテンツはワクワクするのですが、果たして子どもたちもワクワクすることなんだろうかを、すごく考えました。
その結果、やっぱり子どもたちが直感的に楽しめて動けるような、昔から普遍的に変わっていないものを作ることにしたんです。ただ、それをどう今の時代に合った形にアップデートできるかという融合も難しかった。なるべく映像などの受動的になりやすいものは抑えて、子どもたちが自ら動きたくなるような、アナログな感覚を大切にしました。
僕の中でPuChu!の裏テーマは、「ハートセンスとアートセンスを育むきっかけの場」になることだったんです。今の時代、過去の事例がルール化されて「しなければならない」と押し付けられている子どもが多いんじゃないかと思っています。僕はそれよりも、子どもたちが本当にワクワクして、能動的にいろいろな世界を見に行くことが大事だと思っていて。その上で自分がしたいと思える、「Want to」の世界を作ってくれたらと思っています。
非日常のエンタメ体験を通して、日常を再確認するきっかけを
――多くのイベントもプロデュースされている小橋さん。昨年の東京モーターショーで開催された没入型ドローンエンターテインメントのCONTACTについて教えてください。
CONTACTは、合計500機のドローンを使い、3Dサウンドやレーザー、ライティングなどの最先端テクノロジーと夜空をシンクロさせたエンタメショーとなっています。
テクノロジーって、本当に人間が作った奇跡だと思うんですね。でも、ドローンを始め、まだまだその可能性は知られていません。日本でドローンショーといっても認知度は低く、お金を払って見るものという感覚がない。だから、まずは目の前に広がる夜空というキャンパスとテクノロジーの可能性を体験してもらうということが大事だと考え、企画しました。
――CONTACTを通して、お客様に届けたい体験はどのようなものだったのでしょうか?
新しいものがどんどん生まれる今の時代、どうしても新しいものばかりに目が行きがちなんですけど、そもそも目の前にあるキャンパスには無限の可能性があるんですよね。
CONTACTのキャンパスとなった夜空も含め、僕らが住んでる地球の可能性や目の前の景色の美しさは未知数です。そこに気付いてもらうために、CONTACTのような非日常のエンターテインメントがあると思っています。日常の中に非日常があることによって、あらためて日常を再確認する。そんな気付きのきっかけになることは、いつも意識していますね。
誰もが創造する権利を持って、この地球に生まれている
――最後は、未来型花火エンターテインメントであるSTAR ISLANDについて教えてください。ここではどのような体験ができるのでしょうか?
STAR ISLANDは、日本の伝統である花火と会場に設置した数百台のスピーカーから3Dサウンドと呼ばれる立体音響をシンクロさせたものです。ファイアパフォーマンスやウォーターパフォーマンスなどのパフォーマーも加わり、ストーリーを持ったエンターテインメント花火という世界を作り上げています。また、ショーの作り手とお客さんを分けるのではなく、お客さんにもLEDバンドつけてもらい、一緒に参加してもらいました。名前にあるように、みんながSTAR ISLANDの住人として輝く星の一つである、という思いを込めたんです。
――小橋さんが花火に注目したのは何かきっかけがあったのでしょうか。
僕は、何かを作るときに出会いやこれまで自分がストックしてきたものに加えて、違和感のようなものからインスピレーションを得ることが多くて。花火は、伝統を守ろうといろんななところで言われていますが、そこに少し違和感があったんです。伝統を守ることはすごく大事なんだけど、これだけ多様な情報がある時代において、今を生きる若者たちが「伝統を守りなさい」と、ただ押し付けられても果たして守れるんだろうかと。
そもそも花火が伝統になったのは、何百年も前に、その時代の人たちがものすごい熱量で作り出し、当時の人々に全身の毛穴が開くような体験をさせたからだと思うんですよね。そういう体験があったから、後世まで残ってきました。しかし、これだけテクノロジーが発達して、多様な考えが生まれていく中で、これまでと同じことだけをしていては伝統を残すのが難しいと思います。今の時代の人々にも当時と同じように全身毛穴開くような体験を届けるにはどうしたらいいか――。そんなことを考えたとき、今の時代だからこそある才能やテクノロジーと融合して、新しい体験を届けようと考えたのがSTAR ISLANDでした。
――ありがとうございます。最後に、さまざまなイベントや施設をプロデュースする中で、クリエイティブディレクターとして小橋さんが大切にされていることを教えてください。
僕はクリエイターとして、人々に「答えを教える」というのはできないと思っているんです。でも、気付きの場やきっかけを作る場を提供することはできると常に考えています。
クリエイターというと、どうしても映像作家とかグラフィックデザイナーのような職業が思い浮かびがちなのですが、誰もが創造する権利を持って、この地球に生まれていると思っています。特にこれからはAIが台頭する中で、自分なりに世界を創造していくことが大事になっていく。創造することにはチャレンジが必要だけど、そのチャレンジを忘れちゃいけないんだ、ということを伝えていけるような場所を作っていけたらと思っています。
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