XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年6月15日から18日の放送では、本の読める店「fuzkue」を紹介した。京王新線初台駅そばで2014年にオープンしたfuzkueは、カフェではなく、バーでもない、読書家が集まる店。この4月に、下北沢にも新しい店舗がオープンした。7月には『本の読める場所を求めて』を上梓。fuzkueがつくられることになった経緯や、成り立ちが書かれている。
放送では、他の飲食店にはない「本の読める店」というコンセプトから、読書文化についての考えまで、本への愛情あふれるオーナーの阿久津隆氏に伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
本好きのオーナーだからわかる、読書のための空間
――まず「本の読める店」というコンセプトについて、教えてください。
fuzkueは飲食店ではあるんですが「本の読める店」と名乗っているとおり、ゆっくり本を読みたいときに来て、コーヒーやお酒、食事なども楽しみながら本が読めるお店です。
僕自身、本を読むのがすごく好きなので、たまにはどこかでゆっくり気持ちよく、おいしい物を食べながら本を読みたいなと考えるんですね。ただ、カフェやバー、ファミレスで本を読んでも、「ここがこうなれば、もっと気持ちよく読めるのにな」という惜しい部分があって。ドンピシャな場所が見当たらなかったので、自分で作ってみようと考えました。
――いかに気持ちよく本が読めるか、にこだわっているのですね。具体的にどのような工夫をされているのでしょうか。
おしゃべりが禁止だったり、パソコンが使えなかったり、いくつか制限を設けています。来店時には、快適な読書のための案内をお渡ししていて、普通のカフェと間違えておしゃべりしたい人が入ってきてしまうようなミスマッチが起きないようにしています。
また、4月からオープンした下北沢の店舗は、何時間座っていても疲れないような、座り心地の良い椅子にこだわりました。他にも、席同士の距離や、視線がぶつからない向きなども工夫していて、他の人と嫌じゃない距離感で一緒にいられる雰囲気を意識していますね。音楽は穏やかなアンビエントやドローンを選び、リラックスできる空間にしています。
「長くゆっくり過ごすこと」が組み込まれた料金体系
――fuzkueの料金システムは、ちょっと変わっているそうですね。
オーダーに応じて変動する席料金制を取り入れており、「長くゆっくり過ごすこと」が、あらかじめ組み込まれた料金体系になっています。例えば、ドリンク1杯のオーダーの場合は900円の席料ですが、ドリンク2杯の場合は席料が300円になります。注文をしてもしなくても、最終的な値段があまり変わらない仕組みになっていますね。
どれくらい飲み食いしたかと、お客さんが過ごした時間の満足度は必ずしも比例しないと思っています。だから、「飲みたいのはコーヒー1杯だけなんだけど、3時間ゆっくり本を読みたい」という人が、気兼ねなくいていただけるような仕組みにしました。
――なぜ、このような仕組みを取り入れたのでしょうか。
いかに「気持ちのいい読書の時間」を提供するかを考えたときに、やはりじっくりと本を読める空間にしたかったんです。だから、逆に「ちょっと休憩したい」人におもしろくない仕組みにすることで、じっくり本を読みに行く場所として使ってもらえると考えました。
また、これからずっとお店として継続していくことを考えたときに、無理も矛盾もない形を取りたいと思っていたんですね。ゆっくり気持ちよく本を読んだ人から、ちゃんとした金額をいただく。これならfuzkueはずっと続けていけますという金額を明示することで、「ここで好きなだけ本を読んでもいいんだな」と、より気兼ねなくいてもらえる形にしました。
家でもお店でも、本好き同士が「静かな連帯感」を持てる
――外出自粛の期間中、fuzkueも来店を完全予約制にするなどの対応を取っていました。その他に、なかなかお店に来られないお客様も体験できる「自宅フヅクエ」という試みも始められていました。どのような取り組みか教えていただけますか?
お店の営業ができず、人が外に出られないという状況の中、fuzkueに何ができるかを考えたときに、自宅での読書を豊かなものにする手伝いをしたいと思って始めたのが、自宅フヅクエでした。内容は、単に「#自宅フヅクエ」とハッシュタグをつけて、読んでいる本などそれぞれの読書の時間を共有してもらうだけです。でも、そのハッシュタグをなぞって見ていくと、いろんな人がいろんな場所で、自分と同じように本を読んでいると実感できる。ちょっとした心強さや静かな連帯感が生まれるといいなという取り組みです。
自宅フヅクエを思いついたのは、fuzkueというのはお店の名前だけではなく、「読書の時間を楽しくするための活動全般」を表す言葉だと思い至ったことが背景としてありますね。現在は「#フヅクエ時間」にアップデートし、地図に光を灯すことで、読書の時間を可視化する企てになっています。
――fuzkueはお店でも、読書体験を共有する取り組みを始めていますね。「会話のない読書会」と名づけた、その活動についても教えてください。
会話のない読書会は、こちらで指定した本を参加者のみなさんが一緒に読む時間です。開催時間になったら参加する方々が本を持ってやって来て、「始めます」の言葉から2時間半のあいだ、それぞれが普段のfuzkueと同じように飲食しながら同じ本を読みます。
映画館で映画を見るように本を読む体験ができないか、と考えたところが始まりですね。あとは、一般的な読書会の参加のハードルが高いなと考えていたことも理由のひとつです。何か気の利いたことを言わなければいけない気がしてしまって。もっと気楽に参加できる読書会を、映画館のような体験として提供したいと考えたのが「会話のない読書会」ですね。
本を読む時間を豊かなもの、楽しいものにする
――今後は、fuzkueとしてどのような取り組みをしようと考えていますか。
映画には映画館がいろんな街にあるけれども、本にはそういう場所がほとんどないのが寂しい状況だなと思っていて。僕自身、fuzkueを運営してみて、本の読める店がある世界はいいものだなと思っています。だから、そんな場所を増やしたくて下北沢店を始めました。
本を読むという時間が豊かなものとして、より多くの場所で多くの人に体験してもらうことができたら、もっと本を好きになる人が増えるんじゃないかと考えています。それがひいては、読書文化のすそ野を広げることにもつながるかなと。fuzkueとしても挑戦していきますし、今後はパートナーみたいな人とタッグを組んでやれたらいいなと思っています。
――最後に、阿久津さんが考える、これからの読書について教えてください。
「本が読まれなくなっている」と言われていますが、たしかにベストセラーは生まれなくなっているかもしれないけれど、本が好きな人は本当に減っているのかなと思っています。
読書が新しい知識を得るためのものや、役に立つものという文脈で認識されると、それは当然インターネットに簡単に代替されていってしまうと思います。「したほうがいいこと」という意味付けではなく、とにかく楽しくて、何かすごいものとして多くの人が言うようになったら、これからまた読書も盛り上がっていくのかなと考えています。
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