2021年4月から6月までテレビ東京などで放送され、大きな注目を集めたテレビアニメ『オッドタクシー』。ストーリー上に緻密に張られた伏線がクライマックスで回収される衝撃と、可愛らしいキャラクターたちが織りなす重厚な人間ドラマのギャップに魅了される視聴者が続出した。同作は、セリフや画面に隠された伏線をたどる楽しさと、私たちの目に映る世界に対する固定観念を打ち破るヒントを視聴者に与えてくれた。放送終了後も熱狂は続き、Amazon Prime Videoでの配信も人気を博し、2022年4月1日には『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』も公開。何度見返しても新たな発見がある同作は、近年のなかでも特に、人々の心を動かした作品と言える。監督、キャラクターデザインを務めた木下麦さんに『オッドタクシー』が誕生した経緯や自身のルーツを聞く。
(この記事は2022年4月19日(水)に発売された『XD MAGAZINE VOL.04』より転載しています)

木下麦(きのした・ばく)
アニメーションディレクター/キャラクターデザイン/イラストレーション。多摩美術大学在籍時からイラストレーター/アニメーターとして活躍。アニメーターや監督補佐を経て、オリジナルTVアニメーション『オッドタクシー』で自身初となる監督、キャラクターデザインを担当。P.I.C.S. management所属。

アニメ『オッドタクシー』& 『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』
各プラットフォームにて配信中
©P.I.C.S. / 小戸川交通パートナーズ
©P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ
作品の制作工程
―『オッドタクシー』は回を追うごとに話題を呼び、視聴者の反響も大きくなっていきました。考察好きな視聴者だけでなく『オッドタクシー』を人間ドラマとして捉えて楽しんでいた人も多くいた印象です。こうした世間の反応は予想していましたか?
木下さん「完全に想像を超えていましたね。もちろん、映像も脚本も含めて、面白いものをつくっているという自負はありましたが、映像言語としてこの物語のテーマが伝わるのかは未知数でした。でも、予想以上に皆さんに楽しんでもらえたようで、本当にうれしかったです」
―本放送の最終話終了後、その結末にSNSが騒然としていたのを覚えています。現在も動画配信サービスで後追い視聴をする層も多いですよね。『オッドタクシー』の企画は、5年ほど前にスタートしていたとか?
木下さん「はい。僕が所属しているP.I.C.S.は、ミュージックビデオやCM制作を多く手がけているのですが、アニメ制作に取り組むのはほぼ初めてでした。しかもオリジナルテレビアニメの制作だったので、いろいろな意味で挑戦になりましたね。
当初、僕が考えた企画では、先に動物のモチーフがあり、二足歩行で洋服を着た動物たちが過ごす日常を描く設定だったんです。ただ、ディズニー作品の『ズートピア』をはじめ、動物の生活を切り口に描く作品はこの世にあふれているので、他作品とどう差別化するか、という課題がありました。
決め手に欠ける状況で漫画家の此元和津也さんに脚本を引き受けていただき、此元さんから、クライマックスで物語の構造をひっくり返すトリッキーな提案があったんです。そのアイデアのおかげで、オッドタクシーの世界観が固まりました」

主人公でタクシー運転手の小戸川は、まじめで情に厚い反面、他人にあまり心を開かない、偏屈で無口な変わり者。感情を抑え目に、表情が読み取りづらいように意識してデザインされた。
―最終話で明かされる設定は、映像表現としても、とてもチャレンジングなトリックですよね。此元さんが描かれた『セトウツミ』も、当初は男子高校生の会話劇でしたが、最終巻ですべての伏線が回収されたときの読後感は忘れられません。『オッドタクシー』も全話通して見終わったあとに何度か見返して、セリフだけでなく、演出上の伏線の多さにも驚きました。
木下さん「本作は全話分の脚本と絵コンテが上がった状態でアニメーションの制作がスタートする、という特殊な流れで制作しました。毎週放送されるテレビアニメとしては、かなり珍しい手法のようです。一度すべてが揃っているので、最終話の展開に合わせて1話、2話を修正して伏線を取り入れる、という作業も可能になりましたね。
もうひとつ特徴的なのが『プロットを固めすぎずに書き進めたい』という此元さんの意向もあって1話ずつ脚本が上がってくるという制作工程。なので僕は、前半の絵コンテを書いている最中も結末を知らなかったんです。おそらく、プロットがあまり固まっていないまま絵コンテを進めるのも異例の進行だと思います。脚本のいち読者としては続きが楽しみでしたが、監督としては『先に結末につながる展開がわかっていれば、違う演出ができたかも』という本音も……(笑)。
ただ、此元さんのつくり方を尊重した結果、予測不能な完成度の高いミステリーになったと思っているので、とてもよかったですね」
―そして何より、ビジュアルは可愛らしい動物なのに、スマホゲームに課金する会社員や、承認欲求が強い大学生など、今まさに自分の隣にいそうなキャラクターが続々と登場するインパクトも大きかったです。
木下さん「たしかに『動物の造形のおかげで生々しさが軽減されている』という感想もたくさんもらいました。個人的にはあまり意図していなかった方向性だったのでラッキーでしたね。そういう意味でも、此元さんの脚本にはとても助けられました。
アニメーションそのものは手描きが中心なので、新しい技術を取り入れたという性質の作品ではないかもしれません。その一方で、表面上は“懐かしい子ども向けの動物アニメ”という印象を与えながら、ストーリーでは社会の暗部を映す人間ドラマを描くというギャップは常に意識していたんです。作品の見せ方や切り口を変えて、他作品との差別化を図りました」

スマホゲームへの課金にハマり込んでしまう会社員の田中。

承認欲求が強い大学生の樺沢。
他にも、マッチングアプリで知り合った女性と付き合うために借金を重ねる清掃員の柿花など、『オッドタクシー』に描かれるキャラクターたちは、そのゆるいタッチとは裏腹に、日本社会の暗部を映し出したような設定が多い。
重視したのは会話の“間”
―近年のアニメーションのなかには、キャラクターやカメラが激しく動く作品が多い印象があるのですが、『オッドタクシー』は静謐なイメージがあります。アニメーションの“動き”で意識した点はありますか?
木下さん「たしかに画面全体が動くのは、昨今のアニメの特徴かもしれないですね。それはもちろん魅力的ですが、それだけが正義とは思っていません。僕自身はもともと“動かさないこと”で表現できるキャラクター像や演出があるはず、という想いがあり『オッドタクシー』の主人公・小戸川の表情は、あえてわかりにくくしています。そうすることで、彼の冷静で無駄がなく、能率重視な性格を表しました。
個人的には控えめな表現がとても好きなのですが、関わってくれたアニメーターさんたちと小戸川のイメージを共有するのは難しかったですね。たとえば、上がってきた原画を見ると、小戸川の表情が豊かになったり、目が大きくて可愛らしい印象になっていたり、というケースもありました。その都度『目は荒んだままでいいので、表情を抑えてください』というリテイク(修正)を出してコミュニケーションを取りながら進めた記憶があります。また、作画だけでなく、声優さんの演技も抑えめにお願いしました。“控えめで動かさない”という意味では、時代に逆行している作品かもしれませんね」
―小戸川はじめ、作品を通して“控えめ”を意識していたんですね。声優さんのお話も出ましたが『オッドタクシー』は、音声を先に収録してアニメーションをつけるプレスコ(プレスコアリング)という方法で収録されたと聞きました。日本のアニメは、映像が先にあって音声を録音するアフレコ(アフターレコーディング)が主流ですが、プレスコにした理由とは?
木下さん「『オッドタクシー』には、本業の声優さんだけでなく、ダイアンさんなどの芸人さんや、ラッパーのMETEORさんにも出演していただいたので、皆さんの真価が発揮できる録音方法としてプレスコを選びました。当初から、音声だけを聞くと、“実写のドラマ”を視聴しているように感じる作品にしたい、というコンセプトがありました。そうすることで、より身近で起きている出来事のような生々しさを試みました。この構想もあって、演者さんには普段に近い演技をしてもらいました。
また、此元さんの脚本は、日常会話にかなり近く、コメディ要素もあるのが特徴。やはりコメディにおける“間”は、とても重要な要素なので、役者さんの“間”を活かす演出にしたい、という考えもありました。そうすると映像で尺が決まっているアフレコでは、自然な間がつくりにくいんです。とくに、METEORさんが演じたギャングのヤノは、ラップで会話をする特異なキャラクターなので、プレスコでなければなかなか実現できなかったと思います。もちろん花江夏樹さんや山口勝平さんなど、ベテラン声優の方の演技には本業のすごみを感じて、とてもしびれました。本業の声優さんの演技が入ったことで『オッドタクシー』の世界が引き締まった部分もありますね」

山口勝平さん演じる柿花が慟哭するシーン。

ヤノがハロウィンの街にキックボードで現れるシーン。
プレスコで収録された台詞回しは、自然に近い演技でリアリティを演出している。特に、ラップで会話をするヤノは、声を担当するラッパーのMETEOR氏の表現が活きている。
―声だけ聞くと、人間が演じる実写ドラマに思えるというのは、ストーリーに仕掛けられたトリックにも通じていて興味深いです。作中で流れる劇伴音楽やSE (効果音)にはどのようなこだわりがありますか?
木下さん「先ほども触れた実写ドラマに近づける工夫として、生活音のSEをたくさん使いました。たとえば、タクシー内でキャラクター同士が話している最中も車の走行音が流れていたり、蛇口から水が滴り落ちる音がしたり……。生活音を取り入れると、街のリアルな空気感や生活感が表現できます。絵柄以外の部分で、ストーリーの背景や厚みを出すという狙いは、当初からありましたね。それは各シーンに使用した劇伴音楽にも通じていて、他のアニメに比べると全体的に抑えめ。生活音のみが流れるシーンも多いです。
そして、劇伴はストーリーのテンポや視聴者の感情にも影響する重要なファクター。そのため、ストーリーやシーンのメリハリを意識して取り入れました。たとえば、ヤノの登場シーンは、それまでのセオリーを無視して軽妙な劇伴を使っています。ヤノは制作陣のお気に入りで、思い切りふざけた表現を取り入れたんです。ヤノの視聴者人気が高いのもすごくうれしいですね」
予想を超える反響
―また、本編以外でも視聴者を楽しませる“仕掛け”があったのも印象的でした。YouTubeで配信されているオーディオドラマは、本編と同時に物語が進行し、ストーリーを読み解くヒントも隠されていましたが、当初から配信が決まっていたのですか?
木下さん「いえ、9話前後の制作中にプロデューサーさんから『作品を違う視点で楽しめるギミックを入れたい』という提案があり、スタートした企画でした。そのタイミングで此元さんに新たに脚本を書き下ろしてもらい、急きょつくったコンテンツだったんです。当時僕は、本編の制作に注力していたので演者のディレクションをしただけですが、オーディオドラマやヤノにフォーカスしたEP 『2019』の配信など、作品周りのメディアミックスを企画してくれたのは、プロデューサーや宣伝・音楽チームですね。
彼らが立ち上げた企画に対する反響を見て、YouTubeやTikTokなどのコンテンツを駆使すれば、本編以外でも視聴者にアプローチできるんだ、という発見がありました。このオーディオドラマは、各話を観た直後に聴いてもいいし、最終話まで観てから通して聴いても楽しめる構造になっています。オーディオドラマを聴いて判明する事実もあるので、作品に対する考察をさらに深められる新しい鑑賞体験と言えるかもしれません」

オーディオドラマは、テレビ放送に合わせて公式YouTubeチャンネルで毎回配信されていた。アニメ本作にも登場する「幸せのボールペン」と名づけられたペン型盗聴器をめぐる内容で、アニメでは詳しく描かれていない裏ストーリーが楽しめる。
―昔はアニメのBlu-ray BOXが1万枚以上売れる例もありましたが、最近は動画配信のサブスクなどに押され気味ですよね。そんななか、予約本数によって特典が増えていく『Blu-rayBOXプロジェクト“ODDTAXI”』も、大きな話題になりました。
木下さん「そうですね。昨今のアニメBlu-ray BOXは『2,000本を売るのも難しい』という話を聞きました。なので、当初は2,000本を目標にしていたのですが、結果的に予約本数は約6,000本。宣伝チームがSNSを使って視聴者をリアルタイムで巻き込んで、一体感をもたせていたのが印象的でしたね。どんどん予約が入る状況を見て『これは夢か……?』と思ってしまうくらい、実感が湧かなかったです。ちなみに、このプロジェクトもプロデューサーさんが考えてくれました。『オッドタクシー』のファン層を見極めて、いろいろなプロジェクトを進めていて、まさに仕掛け人です」

テレビアニメ『オッドタクシー』のBlu-ray BOX発売に向けたスペシャルプロジェクト『プロジェクト“ODDTAXI”』。一定数(300セット)の申し込みが集まれば発売決定となり、申し込み数が増えるごとに仕様が豪華になっていった。
原体験はディズニーの『白雪姫』
―『オッドタクシー』は、木下監督の初監督作品であり、代表作のひとつになりましたが、もともとアニメ監督を志望していたのですか?
木下さん「アニメーションの仕事をしたい、と思うようになったのは大学時代です。多摩美術大学の美術情報デザイン学科メディア芸術コースに進んで、授業でアニメ制作をしてみたら、自分の肌に合う感覚がありました。それまでも人並みに映画は観ていましたが、“映像づくりの面白さ”を体験してから、その作品のもつテーマやコンセプトを映像表現でどう伝えているのかという点に興味をもつようになったんです。以来、コーエン兄弟の作品やマーティン・スコセッシ監督、クエンティン・タランティーノ監督の作品が、特に好きです。ストーリーのテンポが軽快で、人間の“負”の部分を描くブラック・コメディの要素がある作品、という共通点があるかもしれません。映像文法やカット割りなどを意識するようになってからは、昔観た作品も違う視点で楽しめるようになった気がします。
アニメに関しては、それほど多くの作品を観てきたわけではないのですが、ジブリ映画やディズニー映画、また、早逝されましたが、夢と現実が交錯する表現が特徴的な今敏監督の作品はよく観ていました。特に小学校低学年の頃はディズニーの『白雪姫』をVHSで何度も観ていたんです。白雪姫が動物たちと一緒に掃除をしたり、パイを焼いたり、すごく楽しそうに過ごしていて、“種族の垣根を超えた映像”にすごくワクワクしました。大学の卒業制作では、鼻の大きな男の子を主人公にした『INDOOR/インドア』というアニメ作品をつくったのですが、彼の造形も七人の小人から影響を受けています。今思い返すと、種族を超えた映像表現は自分の原体験なのかもしれません。アニメーションだからこそ可能な表現に魅力を感じますね」

木下監督による大学の卒業制作アニメーション『INDOOR/インドア』。50年代のアメリカのアニメーションを研究し、当時の風合いを手描きのアニメーションによって再現した。
―『オッドタクシー』の初期設定に通じるものを感じます。画面のすべてを絵で表現できる“アニメーション”は、実写作品よりも作り手の意図を詳細に反映できる、という側面がありますが、その点について木下監督はどう捉えていますか?
木下さん「たしかにアニメは、実写映画と違って天候の影響や、ロケーションによる制約がありません。夕暮れの色から雲のかたちに至るまですべてコントロールできる。見方によっては支配的な印象を受けるかもしれませんが、アニメは“草一本にも意味を込められる”という特性もある。それは僕が求める表現ととてもマッチしています。
“ふすまにちょっとだけ傷を入れる”など、細部にさり気なく意図を込められる。そうやって伝える表現の可能性を追求するのが、アニメ制作の面白さだと感じています」

木下監督による絵コンテ。場面となった実際の新宿の通りの様子への言及が確認でき、リアリティを出すための細部へのこだわりが感じられる。
―アニメのなかに張られていた伏線以外にも、監督が伝えたい意図が隠されているからこそ『オッドタクシー』を何度も見返したくなるのかもしれません。視聴者にとっても新しい鑑賞体験になりそうです。
木下さん「とくに最近はアニメ作品が大量につくられていて、作品一つひとつの存在感が薄まりやすい状況ですよね。アニメだけでなく、海外ドラマやゲーム、SNSのショートムービーなど“映像コンテンツ”という枠になると、さらに存在が薄まってしまう。でも、アニメをつくるのは本当に大変な作業なので、一つひとつの作品が気軽に消費されてしまうのはとても悲しい……。業界の一端に携わる者として、途方もない気持ちになることもあります。なので、ライバルが多様化している今、自分なりにどれだけ新しいアイデアや切り口でアニメ作品の存在感を出すかが、僕のアニメ監督としてのテーマになっています」
―今後も、視聴者を驚かせるアイデアと仕掛けを楽しみにしています。現在『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が公開中ですが、可能な範囲で情報をお聞きしたいです!(編集注:記事公開当時。現在劇場上映は終了しています)
木下さん「本当にお話できることが少ないんですけど……(笑)。新作カットも増やして、新しい視点で一連の事件を俯瞰する構成になっていて、映画から見ても問題ないです。すでにテレビシリーズを観ている人は、いったい誰の視点で進んでいくのかを予想するのも楽しいと思います。映画にはテレビアニメ最終話の“その後”も描かれるので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです」
木下麦が監督・キャラクターデザインを手がける映画『ホウセンカ』
予測不能なストーリーで話題を呼んだオリジナルTVアニメ『オッドタクシー』を手がけた、木下麦と此元和津也が再びタッグを組んだ。監督・キャラクターデザインを木下が担当し、原作・脚本を此元が手がける。そこに、国内外の映画祭で注目を集めた『映画大好きポンポさん』『夏へのトンネル、さよならの出口』の制作スタジオ・CLAPが合流し、唯一無二のオリジナルアニメーションが誕生した。
W主演は、主人公・阿久津の“過去”と“現在”を演じ分ける小林薫と戸塚純費。共演には満島ひかり、宮崎美子、ピエール瀧といった実力派俳優が集結。花江夏樹、安元洋貴、斉藤壮馬、村田秀亮(とろサーモン)、中山功太と、多彩なキャストが参加している。
圧巻の花火とともに幕を開ける、象徴的なオープニングテーマ『Moving Still Life』を始め、全編を通して、ceroが音楽を手がけている。2025年10月10日(⾦)に新宿バルト9ほか、全国でロードショー。本作も息を呑む展開に終始ハラハラさせられる。
【STORY】
「ろくでもない⼀⽣だったな」
無期懲役囚の⽼⼈・阿久津が独房で孤独な死を迎えようとしていたとき、声を掛けたのは、⼈の⾔葉を操るホウセンカだった。
“会話”の中で、阿久津は⾃⾝の過去を振り返り始める。
「お前たちが来た⽇のこと、よく覚えてるぜ」
1987年、夏。
海沿いの街。しがないヤクザの阿久津は、兄貴分として慕う堤の世話で、6 歳年下の那奈と、ホウセンカが庭に咲く素朴なアパートで暮らし始めた。
⽣まれたばかりの那奈の息⼦・健介も⼀緒だ。縁側からは、⼤きな打ち上げ花⽕が⾒える。
3⼈は、慎ましくも幸せな⽇々を送っていた。
「退路を絶ったもんだけに⼤逆転のチャンスが残されてんだよ」
やがて⼟地転がしのシノギに成功し⽻振りがよくなった阿久津は、享楽的に過ごし家を顧みなくなる。
そんなある⽇、事態は⼀変する。
阿久津は⼤⾦を⼯⾯しなければならなくなり、堤と共に組の⾦庫にある3億円の強奪を企てるのだった――。
ある1⼈の男の、⼈⽣と愛の物語。
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取材・文/大貫未来
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