アパレルブランドなのに『世界で一番ダサいブランド』を目指す。
アパレルブランドなのに『服の見た目のデザイン』にこだわらない。
アパレルブランドなのに『ブランドの権威』を作らない。
およそ、アパレルブランドの常識という常識を無視しているブランド「ALL YOURS」が人気だ。
2018年5月から24ヶ月連続でクラウドファンディングを展開し、毎回目標予想金額を上回る支援を集めている。これまで集めた総額は現時点で5,666万円。中には目標額100万円に対し、1,300万円もの金額を集めているプロジェクトもある。
ユーザーの支持だけでなく、「コム・デ・ギャルソン」や「Yohji Yamamoto」など日本が世界に誇るブランドも受賞した、日本のファッション業界でもっとも権威ある賞の1つ「毎日ファッション大賞」にもノミネートされるなど、業界の注目も集めている。
業界の慣習を打ち破り、ユーザーに支持されるブランドとして成長した背景には、徹底した「使う人が中心」の思想があった。ALL YOURSの顧客ニーズを的確に捉えた服づくりの秘密を同社の代表取締役の木村昌史氏に聞いた。
「ALL YOURS」は服を通じて、個人の課題を解決する
木村「顧客体験ですね。僕が言うのは『自分だったらどうされたいか』だけですよ。僕自身、そしてメンバーに問い続けています。自分だったらこの商品を買うか。自分だったらどう接客されたいか。自分だったらどう巻き込まれるのが嬉しいか。毎日それだけを考えています」
木村氏は、インタビューの開口一番でこう述べた。反射的に出てきた言葉から、木村氏が常に『自分だったらどうされたいか』を考えていることが伝わってきた。
「使う人が中心」。ALL YOURSというブランドの名前の通り、同社が最も大切にしているのが顧客を第一に考えることだ。顧客第一の姿勢を持つ彼らが生み出したのは、消費者が何気なく感じているストレスを解く、課題解決型の商品だ。
例えば、同社の作っている服の一つ「HIGH KICK JEANS」は、よく伸びて柔らかい、だけどジーンズの醍醐味である色落ちも楽しめるデニム。元をたどれば、ジーンズは100年以上前に金山や鉱山、鉄道作業員のための作業着として作られたワークウェアだ。ゆえに、当時求められた機能は頑丈で破れにくいことだった。
デスクワークが増えた現代において、硬すぎるジーンズは必要ない。だが、柔らかい生地で作ったジーンズは型崩れが起きやすい。今のワークスタイルにフィットし、かつ長く履き続けられるジーンズとはどんなものなのか。「HIGH KICK JEANS」は、現代のワークスタイルに合うジーンズを考え抜いた結果生まれた。
他にも、水や汚れを弾くコットンパーカーや汗染みが気にならないTシャツなど、消費者の「こういうの欲しかった」を見事に商品に落とし込んでいる。
時代が変わると人々のライフスタイルが変わる。そうすると、そのファッションが生まれたときとは異なる機能が必要になるのも当然だ。
木村「そもそも、服の見た目のデザインは100年以上前にすでに完成されています。僕らがやるべきなのは、服の持つ機能や構造を変え、アップデートしていくこと。それがALL YOURSの服づくりです」
アパレルブランドでありながら、見た目のデザインに大きく手は加えない。ALL YOURSは、従来のファッションのように、目に見えるデザイン面での尖ったかっこよさを突き詰めている訳ではないという。
木村「『朝起きると、なんかこれ着ちゃうんですよね』って言われるのが一番嬉しいんです。デザインがかっこいいとか、そういう感情は求めていなくて、週7日でも着たくなる『インターネット時代のワークウェア』が僕たちの目指している服のあり方です」
仕事着としてスーツを着る必要がない職種も増えている現代、ワークウェアに求められるのは、仕事中はストレスなく着られ、日常生活でもリラックスして着られる服のことだと木村氏は考える。
人々が求めていることを商品に反映するALL YOURSのアイテムは大きな反響を呼んでいる。こうした商品づくりの発想はどのように生まれているのだろう。
「自分だったらどうされたいか」から商品企画は始まる
どのように商品アイデアを見つけるのか——そう聞くと、木村氏は「世の中のストレスに敏感になり続けることが必要なんです」と語ってくれた。インタビュー中、腕まくりをしていた筆者の状態を例に出しながら、言葉を続ける。
木村「例えば、なんで今、袖をまくってるかを考えてみましょう。まくっているということは、なんらかの小さいストレスを感じているはずなんです。動きにくいとか、違和感を感じるとか…きっとそこには何かしらの不満がある。それを解決するためには、自分だったら何ができるか、とアイデアを広げていくんです」
目の前の顧客が持つ小さなストレス。そこから想像力を働かせることで、リサーチ等で見えてくる一般的な「不便さ」の中には現れない違和感に気づくことができる。小さな違和感やストレスを発見したら、自分がされて嬉しいことを考えるのが、ALL YOURS流だ。
木村「どんなに頑張っても、人は他人にはなれません。ユーザーインタビューをしても、“インタビューをされている”というバイアスが生まれてしまう。であれば、自分がされて嬉しいことを考える方が本質的だと考えています」
こうした目の前の顧客と向き合う、徹底的な現場主義の姿勢は過去の経験によって醸成されている。
木村「ALL YOURSを立ち上げるまで、ずっと大手のアパレルブランドで働いていました。バイヤーに憧れて、はじめたのですが、売り場でも長い間接客をしていました。大きい会社なので、本部から『こう陳列してください』とか『こう接客してください』といったルールが降りてくるんですが、僕は現場で実際に顧客と接している自分の感覚の方が正しいと思っていました。1対1で向き合う中で『自分だったらどうされたいか』と考えることはこの時からずっと意識しています」
デジタルの時代にこそ、対面でのコミュニケーションが大きな意味を持つ。立ち上がって間もないブランドである彼らが、都内にリアルショップをつくり、運営しているのも現場で顧客と1対1の関係を築くことを重んじているからだ。
顧客を共犯者にし、一緒にブランドを作っていく
ALL YOURSが重視する1対1の関係性はブランドづくりにも影響する。
木村氏は従来のブランドと顧客との関係を、一方通行の「1対n」の縦の関係だと考える。ALL YOURSは「1対1」の関係の延長にある横の関係の連続で捉えているという。その考えのもと、彼らが実行しているのが顧客を「共犯者」と呼ぶコミュニティづくりだ。
「共犯者」は必ずしも服を買うという訳では無い。従来のブランドのような一方通行の関係ではなく、主客同一の関係性を木村氏は目指している。「共犯者」が持つのはブランドへの参加権だ。新商品のアイデアを提案したりといったブランド側に立つこともあれば、服のリペアを無料で受ける権利を持つなど顧客側にもなる。
木村「顧客の意見を取り入れてボトムアップに服を作ることで、各々が自分なりのブランドロイヤリティを作って欲しかったんです。インターネットが台頭して、雑誌で掲載されたりドラマで俳優が着た服が大量に売れる時代は終わりました。これからの時代、ファッション感度が高い人以外が求めているのは、自分が好きだと思ったモノへの参加権だと思ったんです」
ブランドを立ち上げた最初の頃、ALL YOURSが掲げていたのは、『世界で一番ダサいブランド』という言葉だ。デザイナーがブランドロイヤリティを持っていて、着ていることで憧れられたり、ステータスになったりするような服ではなく、着ていることを忘れてしまうくらい生活の一部になっている服を理想としていた。
木村「顧客も自分たちと同じブランドを作る側だと考えると、彼らの意見一つひとつに耳を傾けるようになります。例えばこの前、Twitterで面白い発言をしているコミュニティのメンバーがいたので直接連絡を取って、その方がやっていたことをベースにALL YOURSでイベントをすることになりました。こういったことが可能なのも、1対1で顧客と向き合い、彼らが『自分だったらどうされたいか』を常に考えているからです」
木村氏が現場でお客さんと1対1で向き合い続けてきた経験が顧客のニーズを捉える服づくりやクラウドファンディングの成功に繋がっている。
SNSで顔の見えない不特定多数に対し発信することが多いからこそ、特定の人を思い浮かべ、1対1のコミュニケーションを意識すること求められているのかもしれない。ALL YOURSの顧客との共犯関係からは、多くの学ぶことがあるはずだ。
撮影/加藤甫