「遊べる本屋」をコンセプトに掲げ、本、CD、雑貨など、サブカル関連グッズを所狭しと並べるヴィレッジヴァンガード。近年は、「イオン」や「ららぽーと」をはじめとするショッピングセンターへの出店を加速し、全国に350店以上を展開している。
「全国チェーン」へと成長したにも関わらず、店員による手書きのポップや雑多な店作り、そして店舗ごとに異なる内装など、小売チェーンの常識にとらわれない独自の運営方針を貫いてきた同社。いったい、その背後にはどんな店舗哲学があるのだろうか?
20年前、アルバイトとしてヴィレッジヴァンガードコーポレーションに入社し、現在は執行役員で経営戦略本部長などを務める大倉丈弥氏に聞いた。
店長に就任するファンたちの店作り
──ヴィレッジヴァンガードの店舗は、各店舗ごとに内装や、取り扱い商品も異なり、他の小売チェーンとは一線を画す店舗運営を行っています。まず、会社としてはどのようなミッションや経営理念のもとに動いているのでしょうか?
ミッションや経営理念のようなものはありませんが、行動規範を策定しています。なかでも特徴的なのが、「私たちはチェーン・オペレーションに頼らない、ワクワクする専門家集団を作り上げる」という言葉。
店舗を作るにあたり、マニュアルやルールなどは一切なく、仕入れや店作りも店舗に一任しています。それぞれのお店が「ヴィレッジヴァンガード」という冠を持ちながらも、独立した個人商店だという思いが根底にあるんです。
そのため、現場を任された店長が異なれば、店舗のカラーも異なってくる。僕自身もアルバイトで採用されてスタートしたのですが、実は、店長として働く全員が、アルバイトからヴィレッジヴァンガードに加わった人。つまり、ファンがそのまま店長として店作りをするような仕組みなんです。
ヴィレッジヴァンガードでは、創業から30年近くにわたって、この形を大事にしてきました。
──ヴィレッジヴァンガード好きがアルバイトとして入社し、店長に昇格して「僕がヴィレッジヴァンガードを作るなら……」と、独自に形にしていく。
まさにそんな流れを理想としています。それは、お金だけではない部分に「ヴィレッジヴァンガードで働く価値」を見出してくれているから。スタッフのモチベーションは非常に高いんです。
各店舗が掲げるロゴもバラバラ
──現在、350店以上を運営しています。各店舗を作るにあたって、店構えや内装などにはルールがあるのでしょうか?
全くありません。店舗を立ち上げる開発部隊は本部にあるのですが、定まったルールはなく、店舗のロゴさえ変えてしまうこともよくあります。
アルファベットだけでなく、店舗によってはカタカナで「ヴィレッジヴァンガード」、平仮名で「ゔぃれっじゔぁんがーど」と看板を出していたり、英語表記でも店舗によってバラバラな書体だったりします。
──店頭のロゴまで自由!?
基本的なフォーマットがないので、店を出すたびに新しいチャレンジができるんです。ロゴの他にも、内装を変えてみたり、ファサード(店舗正面の外観)を変えてみたり、さまざまですね。
ただ、失敗例も多くあります。
私が開発を担当した沖縄の店舗では、周りの店舗がどこも「沖縄っぽく」していておもしろくないと感じていた。そこで、ファサードを沖縄ではなく、あえて北海道風にして、大きなカニをディスプレイしたり、ヒグマをシーサーに見立てて置いたりしたんです。すごくおもしろかったのですが、売り上げは全く出なかった……。
──振り切りすぎですよ(笑)
反省しています(苦笑)。
逆に、地域にしっかり合わせたのが、1年ほど前にオープンした石川県小松市の「イオンモール新小松」の店舗。近くに建設機械で有名な小松製作所があるため、ファサードを動くクレーンにしたところ、お客様からも好評でした。
また、先日「ららぽーと沼津」にオープンした店舗は、沼津が『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地ということもあり、こちらから働きかけてラブライブ!とららぽーとのコラボを展開しています。館内のフロア図にもキャラクターがいて、ヴィレッジヴァンガードでも店頭をラブライブ!風にしたり、限定商品を販売したりしているんです。
挑戦的な仕入れは「研究開発費」
──ヴィレッジヴァンガードの店舗では、ジャンルも様々な商品が並んでいます。この構成も、店舗によって変わるのでしょうか?
地方のイオンに出店している店舗のなかには、商品構成比の7割から8割の仕入れを本部でコントロールしているところもあります。店長やスタッフの経験が浅いために仕入れのサポートが必要であったり、そもそもショッピングセンターは来店する客層が全体的に似通っていたりするため、大きく構成を変える必要がないんです。
都内の下北沢、渋谷、自由が丘、吉祥寺などの路面店では、店長やスタッフが独自で仕入れを行っています。同じ都内とはいえ、渋谷と吉祥寺で客層は大きく異なります。例えば、吉祥寺店ではマンガの割合が非常に多いのですが、それは吉祥寺に漫画家さんが多く住む「漫画の街」だからです。
路面店は、それぞれの土地の特色を活かした店作りを行うため、店舗に全権を渡しています。その土地に合わせながら、スタッフの感性でまだ世の中で流行っていないものを掴まえてきてもらい、ヒットの兆しが見えたところで、地方へ展開していくんです。
──ヴィレッジヴァンガードから生まれた全国的なヒット商品としては、日産「ノート」のCMにも起用され、2008年度のグッドデザイン賞を受賞したCGアニメ『The World of GOLDEN EGGS』がありましたね。
あれは、下北沢店の店長が「おもしろい!」と感じ、店舗で動画を流していたところ、とても好評になったもの。おもしろさが店長同士のつながりで広がり、「うちの店舗でも置いてみよう」と自然と拡大していきました。
当時、ヴィレッジヴァンガードではPOSデータを導入しておらず、データから売れ行きを確認していなかったのです。ある意味では、店長同士の口コミといえます。今でも、横のつながりで情報交換をしているようです。
この他にも、絵本『こびとづかん』や、J-POPのボサノバカバーを手掛けるユニット『Sotte Bosse(ソットボッセ)』なども、下北沢から発掘されていったものですね。
──本部の中にヒットの種を探すチームがあるのかと思っていました。
本部にいると、どうしても感性が鈍ってしまいます。お客様やその土地の文化とダイレクトに触れているのはあくまでも店員たち。だから、現場は彼らに任せて、彼らの好きなものや、これから流行しそうなものを仕入れてもらいます。もちろん失敗することもありますが、他社でいうところの研究開発費と割り切っています。
ただ、一部店舗でうまくいっても、全国では難しいケースもありました。過去、渋谷店でアイドルグループ『でんぱ組.inc』を大々的に展開し、とても好評を博した。そこで、全国に投入したのですが、地方では当初、まったく売れなかったんです。
というのも、地方ではテレビの力が大きく、テレビに出ることで初めて人気に火がつきます。全国に展開するためには、メディア環境の違いも意識する必要があるんです。
SNSが変えた「遊べる本屋」の意味
──メディアという意味では、10年代に入り、スマホやSNSが発達しました。このメディアの変化は、ヴィレッジヴァンガードにも影響を及ぼしているのでしょうか?
はい。かつて、ヴィレッジヴァンガードには「暇つぶし」という来店動機が多くありました。私が入社した20年前には、「暇だから」と友達とヴィレッジヴァンガードに行って適当にブラブラする人も多かったんです。しかし、今はスマホ一つで暇つぶしができるようになっているため、その需要は減ってきています。
そこで、強い来店動機を生まなけれならない。そのための取り組みのひとつが、2017年7月にオープンした渋谷本店です。店内にはステージを作り、アイドルやバンドのイベントを展開しています。商品を店にそろえ、お客様に来ていただくのを待つだけでなく、こちらから動いて積極的に来店を促す。
今後、他の店舗でも一部を改造するなどして、ステージを設けていこうと考えています。
──イベントという来店動機を作ることによって、顧客の来店を促している、と。
ただ、これは決して本部から生まれた戦略ではありません。きっかけは現場の思いつきでした。
8年ほど前、とある店長が知り合いの地下アイドルを店に呼び、「商品を一定の金額以上に購入したらアイドルと一緒に10分間買い物ができる」というキャンペーンを行ったところ、爆発的な売り上げを記録した。そこから、アイドルという存在に注目をするようになり、店内にステージを作ってライブを行うという現在の流れにつながっていったんです。
──すべての発想は、現場から生み出されてきたんですね。
現場に権限があることによって、スピード感を保ちながら新しいモデルが生み出されていく。それが、ヴィレッジヴァンガードの基本です。
ただ、本音を言えば、店長やスタッフの思いつきからいろいろな事業が勝手にスタートしてしまうので、現場に追いつくためのバックオフィスの体制を整えるのは非常に大変。イレギュラーなことばかりなので、経理や人事はいつもてんやわんやですね(笑)。
──まさに、各店舗が独立し、個人商店やスタートアップとして活動しているようなイメージです。
創業者の菊地敬一は、下に対してあれこれ言うタイプではなく、むしろ極端な放任主義でした。本部からの命令で「これを売れ」という仕組みだったら、絶対にヴィレッジヴァンガードは今のように自由で雑多な風景にはなっていません。
ファンの方がスタッフになり、自発的に店作りをしているからこそ、そんな「ヴィレッジヴァンガードらしさ」が自然と受け継がれているんです。
ただし、権限が自由で大きいということはそれに伴う責任も大きいということ。その責任については、売上を見ながらしっかりと評価していますね。
ファンが店長となり理想の店作りをすることで、カルチャー好きの熱量が注ぎ込まれた顧客目線の店が生まれる。そんな店舗運営によって、ヴィレッジヴァンガードは全国チェーンでありながら、各店舗がローカルな雰囲気を保ってきた。
どうやら、同社が掲げる「遊べる本屋」というコンセプトは、顧客だけでなく店員までをも巻き込んだものであるようだ。そして、創業から30年を経てもなお、そんな「遊び」は同社のDNAとして脈々と受け継がれている。
執筆/萩原雄太 編集/長谷川賢人 撮影/廣田達也