XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年6月7日から10日の放送では、東京・虎ノ門にあるフラワーショップ「hanane」のCXを紹介した。同社は、「花を通じて良い時間を生み出す」ことをコンセプトに、全国で規格外となった花の販売会や東日本大震災の月命日の前後に花を贈る取り組みなど、花を通じた新しい体験を広げている。
放送では、取締役CMO(最高マーケティング責任者)である河野紗也氏に、同社のコンセプトや花を通した様々な取り組み、今後の展望などについて語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
より多くの人が花に触れ、楽しむきっかけをつくりたい
――最初に、hananeのコンセプトについて教えてください。
弊社は「世界にたくさんの花を咲かせる」を理念に掲げています。単なる物として花を販売するのではなく、自分や大切な人のために、花のある空間や花に触れる時間を楽しんでいただきたいという思いが込められています。
代表の石動は、フラワーレッスンを開催したり、市場に通って花を選んだりしていたので、仲卸市場にも知り合いがいるような状況でした。そのつながりから、花の業界に参入しやすく、フラワーショップ「hanane」を立ち上げることができました。
また、規格外の生花をカフェや商業施設、商店街などでどれでも1本100円で販売している販売会「花つみ」では、気軽に好きな花を組み合わせて選ぶ体験の場を提供しています。食事と一緒に楽しめるフラワーレッスン「花会」では、花に触れながら食事を交えて交流を楽しんでいただくコンセプトでサービス設計を行っています。
――hananeでは、規格外の生花を「チャンスフラワー」と名づけているそうですね。
はい。チャンスは、英語で「偶然のきっかけ」「可能性」という意味。チャンスフラワーと言うと、一見捨てられてしまう花にとってのチャンスと思われがちです。しかし、手に取った私たちに笑顔のきっかけをもたらしてくれるという意味で名づけています。
もともと捨てられてしまう花に愛称をつけるにあたって、「捨てられてしまう」ではマイナスなイメージがあると感じていました。お客様が花を楽しむ際に、気持ちが明るくなるような、前向きな印象の名前で花を取っていただきたい。そこで、ポジティブなワードから「チャンス」という言葉を選びました。
コロナ禍で自宅にいる機会が多い今こそチャンスフラワーで花が身近な暮らしを提案したい
――実際にお客様がチャンスフラワーに出会うと、どのような反応をされますか。
少し茎が曲がっていたり、花びらが2色に変色していたりしますが、「曲がっているからこそ、自分を見て咲いてくれているようで嬉しい」「いつもなら会うことができない花に店頭で出会えた」といった喜びのお声など、日々のささいな発見が楽しいと言ってくださる方が多いように感じています。
やはり、花の生産量や消費量が少しずつ減っている状況下で、単に花をギフトとして提案するだけでは、この状況を改善する大きな一手にはならないと生産農家さんも感じているようです。お菓子や食べ物などギフトの選択肢がたくさんある中で、花を選ばない方も増えてきているのではないかと、私たちも感じています。そういったときに、チャンスフラワーを手に取り、日常的に花を楽しむ方が増える。さらに生活に花が寄り添えば、日常使いとしての花の需要も増え、ギフトの選択肢としても思い浮かべてもらいやすいのではないかと、生産農家さんもこの取り組みを非常に前向きに感じています。
――チャンスフラワーを購入できる販売会「花つみ」は全国各地で開かれているそうですね。
どれでも1本100円で購入いただけるイベント「花つみ」です。今では、洋菓子店や帽子屋さんなど様々な業種の店頭でイベントを開催し、関東と関西を併せて約50カ所ほど開催拠点を広げています。あとは虎ノ門のhanane shopでも、毎週月曜日と木曜日の11時半から18時半に、チャンスフラワーが並んでいます。好きな花を好きなだけ選べる体験が楽しいとお声もいただくことも多いですね。
花は通常1本400、500円しますが、チャンスフラワーは1本100円で買えるため「継続して花のある暮らしを楽しめて、ありがとう」という声をいただくことが多いです。特にコロナ禍では、自宅に籠もることが多いですが、花を通じて少しでも明るい気持ちになってもらえればと思います。「色とりどりの花を自宅に置くだけで、ちょっと気持ちがみずみずしくなった」といったお声もいただいています。
東日本大震災の月命日の前後に花を贈ることで、追悼だけでなく癒やしを届ける
――hananeはこれまで東日本大震災の支援に携わってきた方や、現地で暮らす方へ向けて、チャンスフラワーを届ける「東北10年ありがとうプロジェクト」を行っています。この活動について教えてください。
2021年3月から、月命日の前後に福島県、岩手県、宮城県のご賛同いただいた施設にチャンスフラワーのブーケを届けています。きっかけは2021年3月に行われたFacebookの東日本大震災関連のページに集まった「いいね!」の数だけ花を届ける、ソーシャルプロジェクトでした。これは、Facebook Japanにお声掛けいただき、弊社、キャンドル・ジュンさんが立ち上げた復興支援団体「LOVE FOR NIPPON」の3者で行い、結果的に、3月時点で全国各地から6000を超える「いいね!」が集まり、最大5000本のチャンスフラワーを現地のモニュメント・配布用にお届けしました。
そのプロジェクトは当日だけで終了しましたが、私たちの中で、現地の人たちにとって震災10年目という節目は関係ないのではないかと感じました。そこで、復興に取り組んできた方に向けて、「ありがとうの気持ち」と「これからも一緒に頑張っていきましょう」と前向きな思いを届けるために「東北ありがとう10年プロジェクト」を発足し、毎月チャンスフラワーをお贈りしています。
――花を通して被災地とつながり、想いが形になる体験ですね。プロジェクトで届けられた花を、現地の方はどう感じたのでしょうか。
毎月、各施設・団体様にブーケでお届けしているのですが、岩手県のいのちをつなぐ未来館のスタッフからは「すごくきれいな花で、館内がぱっと明るくなった」というお声を頂きました。また、ブーケと一緒に花の名前を書いたカードをお届けしているのですが、「これはこの花かな?」とご来館いただいた方とスタッフで話が盛り上がり、花を介してコミュニケーションが活発になったそうです。
花の用途が変わってきているのかもしれないなと思いました。追悼の花で終わらせるのではなく、継続して花で癒やされる気持ちの余白が出てきたら嬉しいと思っています。
単なる商品ではなく、花を通した豊かな時間を提案したい
――「世界にたくさんの花を咲かせる」ことを目標に様々な事業を展開されていますが、最近の生花市場が縮小しつつあることに、危機感を抱いているそうですね。
コロナ禍で花のイベントが中止・延期になり、需要がなくなってきました。実際に、花ではなく野菜を作り始めた農家さんがいるとお聞きしています。花の需要が年々下がっていると、農林水産省によるデータで裏づけもされている通り、国産の花が減っていると同時に、輸入の花がどんどん増えています。
弊社が考えていることは、花を単なる物として販売するのではなく、例えば、お食事と一緒に花があり、その空間や時間を楽しんでいただく意味合いを込める。花つみにおいても、一本ずつ花と向き合ってお好きな物を選んでいただくなど、そういった時間を楽しんでいただきたいという思いが込められています。
――最後に、今後の展開について教えてください。
花を日常的に楽しむ方が増えているので、まだまだ文化作りできるところがたくさんあると感じています。まずは、花つみの拡大を掲げています。来年度には、東京・大阪・札幌・名古屋・福岡・仙台・広島を中心に、花つみの導入店舗を増やしていきたいです。ゆくゆくは1万店舗を目指しています。
それと同時に、環境への配慮も重要視しています。今、規格外の生花をチャンスフラワーとして活用していますが、それでもロスが出てしまう状況はあります。花つみの開催拠点に大きめのダストボックスを設置し、花を土に変える。生産者や花を育てるところで活用していただき、生産から花を楽しみ終わったあとまで循環する、無駄のない仕組み作りにも取り組んでいきたいです。
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