XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年4月19日から4月22日の放送では、東洋化成におけるレコード音楽のCXを紹介した。同社は、国内で唯一レコードプレス事業を続けてきたことで知られている。CDやMDをはじめ、近年では音楽のデジタル化も急速に進んでいる。その中で、国内のレコード生産枚数は2009年から2019年までに12倍(日本レコード協会調べ)となったのをご存じだろうか。
放送では、アナログレコードのニーズが高まっている理由やRECORD STORE DAYについて、今後の展望など、東洋化成株式会社の営業本部長である本根誠氏に話を伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
「良い音楽を作るなら、アナログで」 米国での動きを機に
――初めに、ここ数年で起きているレコードニーズの高まりについて教えてください。
アメリカで12年ほど前に立ち上げられたムーブメント「RECORD STORE DAY」が、日本でもじわじわ広まっているのだと思います。このムーブメントは「アナログレコードを扱うお店を愛そうよ」というもの。アメリカで多くのアーティストが「どうせ良い音楽を作るのであれば、アナログにしたい」と賛同の意見が集まり、アナログ化が一気に進んだのです。
また、2015年に「Apple Music」がサブスクリプションサービスを提供したのを機に、アナログレコードが売れるようになってきました。おそらく簡単で便利な試し聞きができるサービスとオーディオをセットで利用しているのではないでしょうか。「針はこんなのがいいのかな?」「プレイヤーは、こういうのがいいのかな」など、音楽を聞くこと自体が一つの体験になり、ユーザーの支持を得ています。デジタル型とアナログ・体験型に二極化してきたのと、その両方を行ったり来たりしている方が増えているのではないかと思います。
――こうしたレコード需要によって、最近では渋谷のMIYASHITA PARKにFace Records、阪急メンズ東京にギンザレコードができたりと、商業施設にレコードストアが入店したりする流れがありますね。お店ではどのような体験が得られるのでしょうか?
やはり、人との出会いですね。正直、レコードやCD、食べ物などは、すべてネットで購入できます。けれども、アパレルの販売員は自社ブランドを体現するような衣装をまとって接客しますよね。レコードの世界も全く同じなんです。アナログレコードや音楽が大好きな人がたくさんいるお店で「話しかけて良いかな?どうかな?」と気を遣いながら話しかけてみる。実は、すごく優しい人だった。そんなスタッフとの出会いをぜひしてほしいですね。
――レコードは、プレイヤーを持っていなくても、飾る楽しみがあるのも魅力的です。
そうですね。最初にアナログレコードを家で愛でてみたいと思う要素の一つとして、おそらく「ジャケットを部屋に飾るのがカッコいい」というのは大きいと思います。
正直、モバイル端末で持ち歩けたり、簡単で便利に聞けたりすることに関しては、サブスクリプションサービスには敵わない。けれども「アーティストの思いがこもったレコードジャケットを部屋に飾ってみたい」「好きなアンディ・ウォーホルの貴重な作品であるヴェルヴェット・アンダーグラウンドのファーストアルバムを部屋に飾ると、何か自分がかっこいい気がする」みたいなことは、音楽と一緒に過ごすうえで大事だと思うんです。
世界23カ国で同時に開催される「RECORD STORE DAY」
――世界的にレコードが盛り上がるきっかけになったとも言われる、RECORD STORE DAY。どのような体験ができるイベントなのでしょうか。
RECORD STORE DAYは、レコードストアの文化を祝う日です。その日に新譜の発売がたくさん行われます。たとえば、サブスクリプションサービスで解禁されて、CDも出ているのに、レコードでは発売されていない。その音源が、RECORD STORE DAYで発売されるのです。世界23カ国で同時開催するため、さまざまな新譜がたくさん出回ります。
このイベントではネット通販がNGで、人気のものはすぐに売れてしまいます。とにかくレコードストアに行って買ってね、というハードコアなイベントなんです。お店や視聴ブースで流れている音楽を聞いたり、スタッフと話してみたりするなど、アナログレコードやショップにまつわるすべての体験を1日で楽しむことができます。
芸能人や業界人が来てサイン会などを行うインストアイベントもありますが、RECORD STORE DAYではもっと発展したバージョンが、世界で同時多発的に行われています。かなり気合いの入ったインストアライブやトークセッションなんかもあるんです。今年の日本アンバサダーはロックバンドの「くるり」です。今まで語られていなかった、音楽マニアとしての岸田繁さん・佐藤征史さんの姿や、ラジオ局における音楽のあり方についても触れられています。ミュージシャンから見た音楽の消費やリスニングの仕方について、2人が語ってくれる。また、今後はWebサイトでの記事掲載も積極的にしようと思っていますね。
――東洋化成では、アナログ体験を届けるイベントも開催しているそうですね。
4月24日に、アニメソングに特化したアナログレコードのイベント「アニソン on VINYL」を開催しました。アニメといえば、日本。たとえば、久石譲さんによるジブリのテーマ曲をレコードで聞いてみたら、感動するのではないかとスタッフが盛り上がり、独自のイベントを立ち上げました。各界の著名な隠れアニメファンがアニソン on VINYLのオフィシャルサイトで対談をしたり、コメントをしたりするなど、さまざまな企画が行われました。
アニメ好きな方はいずれもマニアックな方だと思うのですが、アナログレコードを作る人間も非常にマニアックです。それらを結ぶ一つの線として、世界に誇るアニメがあるなと。今後はアニメファンと音楽ファンを顕在化し、マッチングもできたらいいなと思っています。
多様なニーズに応えられる音像感が、アナログレコードの特徴
――アナログレコードを手に取った人たちが感じている音の体験について教えてください。
CDは、いわゆる銀色の板に74分の音を入れなければいけない約束ごとがあります。それゆえ、人間の耳では聞こえない可聴範囲帯を超えた超低域と超高域をカットし、無駄をなくしています。つまり、人間の耳で聞こえる部分だけを効率的に再生しているのがCDです。
一方で、アナログレコードは音をデジタルに取り込む必要がないため、人間の耳が聞こえないところも切らず、そのままカッティングしてレコードをプレスします。そのため、人間の耳に聞こえない音の領域が、人間の体に何か作用を与えているのではないかと思います。
ちなみに、YouTubeやMP3などの規格はCDに比べて音像が荒くできています。レコードはアナログのため、上から下までべったりと音像が詰まっているのです。オーディオのセッティングによっては、低域を引き出したり、パンチを加えたりすることができます。さまざまなニーズに応えられる音像感を持っているのが、アナログレコードの特徴です。
――アナログには、音の温かみや奥行きなどを感じると言われていますが、アナログレコードに向いている作品はあるのでしょうか。
少し前に、DJブームによってアナログが少し注目されました。ヒップホップの黎明期やハウスミュージック、エレクトロニック・ダンス・ミュージックなど、クラブで大音量で聞いていた。アナログレコードは上下の音が最適化されず、べったり入っているからです。
アナログで聞く時代もあったとは思いますが、今の時代はおそらく、楽器本来の音を生かしたアコースティックな作品が適している気がします。録音のプロセスや楽器編成がアコースティックだったり、あるいはボーカルの収録の仕方に一つこだわりがあったりなどですね。
たとえば、ボーカリストが一番前に、その左の後ろにベーシスト、右後ろにはギタリスト。さらに、その後ろにはドラマーがいて、目をつぶるとその音像が見えてくる。アナログレコードは、音の深みが味わえるメディアではないかと思います。
日本製のレコードが世界中の音楽ファンに支持される理由
――海外の人気も獲得している、日本が作るレコード。その価値について教えてください。
日本が作るレコードは、海外のレコードプレスやディストリビューション、宣伝に比べて、とにかく丁寧なんです。日本人は、きれい好きな部分がありますが、そういうものがジャパンプレスやジャパンメイドのレコードに染みついているのではないでしょうか。
「なぜ日本人はこんなことまでこだわるの?」 といった要素が世界中の音楽ファンの中で、独自の立ち位置をアピールできることにつながっています。つまり、安かろう悪かろうで作られたアナログレコードではなく、手間かかっているけれど“こだわりは半端ない”という存在観が、ジャパンメイドのアナログレコードやバイナルにはあり続けると思います。
――最後に、東洋化成が目指すこれからのレコード作りについて教えてください。
東洋化成のアナログレコードは日本の製造において、多くの機能を持っています。今の時代は、たとえば「ビートルズを10万枚くらい聞いてるぜ」「ブラジル版、アラスカ版、ロシア版も聞いてるぜ」といった、世界中のビートルズのレコードをいっぱい持っている人だけでなく、今日初めてビートルズを体験する人にも、等しい感動を与える義務があります。
初めて体験する人と旨味を知り尽くした人が、等しい感動を共有できる場を求めているからこそ、その中間である仕事を行っています。そうでないと、新しいビートルズファンは生まれません。新しいビートルズファンを生むには、初めて聞く人も感動できるパンチのある音にするだけでなく、聞き続けてきた人が「最高だよ」と言えるような、かゆいところにも手の届く音像にしなければいけません。それらを同時進行で叶える必要があることは、我々の快感になっているのかもしれないですね。そのハードルを超えるために頑張りたいです。
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