12月14日(水)に発売された『XD MAGAZINE VOL.6』。特集テーマ「贈る」のもと、贈り物を介したコミュニケーション、贈答文化から読みとく精神性など、「贈る」という行為が持つ魅力や可能性を探っていく。巻頭インタビューには、のんが出演。本記事では、同誌収録のインタビューを2回に分けてお届けする。
俳優、映画監督、脚本家、声優、ミュージシャン、アーティスト。“女優・創作あーちすと”の肩書きで、次々に新しい分野へと活動の場を広げる「のん」。これまでと同じ道をなぞらずして、自らの想いを届けようとするそのエネルギーと探究心はどこからくるのか。話を聞いて浮かび上がったのは、「のん」としての自分を俯瞰で観察しながら、届けたい/贈りたい相手を徹底的に考える姿。自分と相手の間に、「共感」が生まれるその瞬間とありかを探る熱量がそこにはあった。
100%似合うものを贈ったという確約がほしい(笑)
――のんさんは、周りの人たちに贈り物をしますか?
のん「贈ります。スタッフや一緒に仕事してる人たちにも贈るし、家族にも誕生日プレゼントを渡したり。私は言葉や態度で感謝の気持ちを伝えるのが得意な方ではないので、プレゼントに想いを込めて、かたちに変えて贈るんです。たとえばコートをあげたり……」
――結構大物ですね!
のん「あとはスカーフとか。身につけるものが多いですね。この間は、妹の誕生日にお洋服をあげました。私は贈り物をしたら絶対に感想を聞くんですよ。『身につけた写真、送って!』って写真を送ってもらうこともありますし、妹の場合は直接渡したので、『今着て見せて』って(笑)。自分が似合うと思って買ったものが、本当に似合っているかどうか見届けたいんです。100%似合うものを贈ったという確約がほしい(笑)。勝手というか、わがままなのかもしれないんですけど」
――のんさんは以前、脚本・監督・主演で『Ribbon』(2021年)という映画をつくりましたよね。リボンはラッピングなどにも使われますが、この映画では多様なリボンの表現がなされていました。のんさんにとってリボンとはどういうモチーフですか?
のん「『Ribbon』を撮るまでは、飾るための装飾品として好きでした。宇野亜喜良さんの絵がすごく好きで、宇野さんの絵にはリボンがよく描かれているから、そのイメージが一番強いかもしれません。ちょっとエロティックなんだけど、リボンでかわいく飾られていて、そのセクシュアルな感じとキュートさが融合されてる雰囲気が少し不気味でもあって。
リボンという一見かわいいモチーフが気味悪く見えたり、時には虫みたいな姿に変えたりすることによって、主人公の感情を表せたら面白いだろうなという発想でつくったのですが、リボンがいろんなかたちになると知ったので引き続き研究しています。今、リボンでアートをつくることに凝っていて。これまでも木に貼りつけて蝶々みたいにしたり、絵に敷き詰めたりしてきたのですが、もっとリボンで表現方法に広がりがつくれるんじゃないかな? と画策中です」
――今のリボンの話も含め、のんさんの好きなものや活動においては、物事の一面だけを切り取るのではなく、いろんな感情が同居していることが大事なのでしょうか。
のん「そうですね。『Ribbon』ではコロナ禍の一番ハードな時期を描いていたので、暗さや簡単には片付けられない想いが渦巻いていました。そういう激しくてネガティブなものをかわいいもので表現してみることで、負の感情が負のまま出されるのではなく、希望に変わることがあると思って。アートや創作の力で、そういう膨らみをもたせたいと思っています。」
やっぱり、感情的な部分を話すっていうのが大事
――役者からキャリアをスタートさせて、今は映画の脚本や監督、アート作品の制作、音楽活動と幅広いフィールドで活躍されています。役者以外の分野にも挑戦されるなかで、自分自身にどんな変化がありましたか。
のん「自分の思っていることを伝えていかなければいけないんだなという自覚がすごく芽生えましたね。役者の仕事だけをやっていた頃は、作品のことが伝わればいいとか、役のことを話せればいいっていうふうに思っていて。もっと言えば、自分のことは喋らなくてもいいと思っていました。だから作品のインタビューで唐突に『普段何をされてるんですか?』と聞かれると、『え、何でそんなこと話さないといけないの!』みたいに、ちょっと尖っていたときもあって……(笑)。今振り返れば、それくらい話せば良かったのに、とも思うのですが。
でも『のん』になってから、つくり手側というのは、その人自身がどんなメッセージをもっているかや、どんなパーソナリティなのかという部分まで見られるものだと、すごく感じるようになりました。人にどう届けるとか、どんなふうに届いたかっていうのを、考えるようになってから、より、なんというか……自覚が芽生えました。どういう言葉でどんな威力をもたせることができるのかっていう」
――のんさんにとって、言葉の威力というのはどんなところに宿るのでしょう?
のん「やっぱり、感情的な部分を話すっていうのが大事なんだなと思いました。作品の仕組みや、役柄の感情の流れ、物語の面白さ……そういうことも重要です。でも、それを体験した私自身がどう思ったか。そういう自分の感情とセットにして届けないと、受け取る人に思い入れをもってもらえないことに最近気がつきました。届けたい人に直接会うことはなかなかできなくても、私が込めた感情を読み取ってもらえることで、心が動くことがあるというか」
――前はこんな感情は出さなかったけれど、特に最近表に出している感情はあったりしますか。
のん「うーん、『楽しい』とか、『好き』とか。芝居の演じ手には関係ないと思っていたのもあるし、おのずと出てこなかった前向きな感情を最近は言葉にしています。あとは、恥ずかしいことや悔しいこと……それと嫌いなこと。私はめちゃくちゃ正直者なので、ネガティブな感情が不気味なかたちをしたまま湧き上がってきちゃうんです。そのまま言葉にしても、一方的すぎて伝わらなかったのですが、最近はうまいことオブラートに包めるようになりました。それは表現をするときも同じ。他の人と違い過ぎる感情も面白いのですが、私の場合は、どんな感情であってもどこか共感してもらえる言葉を選んで伝えるようにしている気がします」
全部のお仕事、全部の活動で、観る人のことをすごく考えます
――表現をするときに、受け手との接点をじっくり探るところは、冒頭の贈り物の話とも重なりますね。さきほどは贈り物の話でしたが、のんさんは受け手のことを具体的にどんなふうに考えながら表現をかたちにしているのでしょうか。
のん「表現するときは、『のん』というイメージを守りながらどう逸脱できるか、どれぐらい驚きをつくれるかを考えています。これまでの延長線上にありながらも、『えっ、こんなこともやるの?』みたいな、新鮮さをもたせて表現することをすごく大事にしていますね」
――演技では、のんさんの表情や声の切実さのエネルギーに胸を打たれることが多いのですが、こうやってお話ししていると、自身の活動を俯瞰する姿勢を強く感じます。「今どれぐらい逸脱しているか」と、自分を観察している感覚があるのですか?
のん「全部のお仕事、全部の活動で、常にそのアンテナをもちながら物事を見ている感じです。それは役者のお仕事も同じで、観る人のことをすごく考えます。たとえばある役を演じるときに、自分にしかできない解釈とか、私だったらこの役をこう演じるというオリジナリティもベースにして考えるんですけど、多くの人と全く違うかたちで演じるとその役の個性が伝わらないし、結果的に自分もその役に寄り添えなくなる。だから観てくれている人が共感できる部分をつくって演じることを重要視しています。
演技をするときは、『皮膚感』を動かすことを一番大事にしているんです。たとえば『泣く』表現の場合、普段泣いたときの身体の状態を覚えておく。涙が出るときって、いつの間にか喉がしまっていたり、呼吸を止めていたり、手を握りしめていたりしますよね。事前に役や物語の理解を深める準備をしておいて、現場ではとにかく『皮膚感』を解き放つ。五感を動かして、今やることに集中する。そうやって演じているときに自分の『皮膚感』が動いていると、観ている人の心身にも伝わって、物語に没入していけるんです。この演技法が自分には合っているし、現場でも自由になれます」
取材・文/野村由芽(me and you) 写真/上澤友香
――12月14日発売のXD MAGAZINE VOL.6 特集『贈る』では、のんのインタビュー全編を掲載しています。全国の取り扱い書店のほか、プレイドオンラインストア、Amazonなどで販売中です。