総務省が発行する情報通信白書によると、2016年日本におけるスマートフォンの保有率は全世帯の71.8%に昇り、個人では56.8%と半数以上を記録。とりわけ、デジタルネイティブ世代である20~30代の数字は高く、90%に達している。
利用時間の観点から見ても、その影響力は凄まじい。平日1日あたりにおけるスマートフォンのネット利用時間は、10・20代が180分越え、30・40代でも90分近くに及ぶ。
端末の普及と集まる膨大なデータから、企業はカスタマーの“空気を読む”ことが可能になってきた。
カスタマーの文脈を把握するテクノロジーへの注目
ガートナーは、2010年頃から「コンテキスト アウェア コンピューティング」という技術の重要性を説いていた。
なかなか聞き慣れない言葉だが、これは様々なシステムやセンサーなどから得られる情報と人とをリアルタイムで結び付け、その人にとってその時点で最適な情報や機能をシステムが判断して提供する技術のことを指す。
スマートフォンが登場して位置情報の取得ができ、カレンダー等のグループウェア等でスケジュール等が把握できるようになったことから、同じ時間、同じ人に対しても情報の出し分けが可能になった。「コンテキスト アウェア コンピューティング」が容易に実現できるようになっているのだ。
最近では、Googleも文脈の重要性について「Think with Google」というブログにおいて言及。カスタマーの位置情報、興味、行動を把握することで、適切な広告を表示できるというメッセージを投げかけた。
さらに、ウェアラブルデバイスの登場によって、バイタルデータなどより得られるデータが増えた。その流れを踏まえて、2014年10月にITジャーナリストのロバート・スコーブル氏は「コンテキストの時代―ウェアラブルがもたらす次の10年」(原題:Age of Context: Mobile, Sensors, Data and the Future of Privacy)を出版した。
同書籍の中では、カスタマーが置かれている状況を把握し、今どんな情報を知りたいか、これからどんな情報が必要となるかを予測して、各カスタマーに最適な情報を提供するようになる時代を予想していた。
たとえば、NFLのスタジアム内でアプリ上から飲み物や食べ物の注文や、最寄りのトイレの空き状況の確認をできることが、後々アプリ側からレコメンドや通知等に繋がるのではという仮説を提示している。
新たなテクノロジーの発展によって、カスタマーのデータを取得、置かれている状態を予測し、“空気を読む”ことが可能となっているのだ。
スマートホームやAIがさらなる変化を生む
さらに、近年ではスマートスピーカー等をはじめとして、家の中でもIoTが浸透し始め、スマートホーム化が少しずつ進んでいる。収集したビッグデータを解析するためのAI技術の進歩も著しい。
帰り道、会社を出ると共に炊飯器が食事の用意をはじめ、最寄り駅につく頃には空調が入り、鍵を解錠するころには全ての準備ができている。食事を食べ終わり、ソファーに座る頃になると、照明が切り替わり楽しみにしていたNetflixの新作を再生してくれる…といったSF映画の世界はほぼ実現しかかっている。
カスタマーの置かれている背景や心情を理解し、最適な情報を提供する。こうしたマーケティングのことは、「コンテキスト・マーケティング」と呼ばれている。
カスタマーの日時、場所、行動などの状況に添ってタイミングをうまく捉え、それに対応した商品やサービスなどを提供することで、購買意欲を効率的に高めようとするマーケティング手法のことだ。
先述したようなテクノロジーの普及によって、こうしたマーケティングのあり方は大きく進歩しようとしている。
よりカスタマーのコンテキストを精度高く把握することが可能となり、日常の様々な場面で求めている体験をもたらすことも可能になってきている。
「そうそう、これがほしかったんだよね」−−カスタマーが思わず感心してしまうような体験をもたらすために、企業はコンテキストの読み解きに向き合わなければならない。