「自分が何に関心をもち、何ができるか」すぐに役に立つかどうかではない。大人も子供も、自分と向き合いながら“学び”続けていくことこそが、人生の豊かさにつながる。この姿勢をリアルに実践しようとする場がある。デンマークの教育機関を例に、現地で学んだ経験のある筆者の視点を通して、他人の評価ではなく本人が「何を学び何に活かせるのか」を探る“学びの場”を紹介する。
(この記事は2021年9月21日(火)に発売された『XD MAGAZINE VOL.02』より転載しており、記事の内容は取材当時のものです)
花田奈々
2019年にInternational Peopleʼs College(IPC)、Nordfyns Højskoleの2校のフォルケホイスコーレに通う。取材当時、株式会社Laereに勤務。
北欧・デンマークに、「人生の学校」と呼ばれる機関がある。その名は、フォルケホイスコーレ。デンマークで民主主義が台頭した19世紀半ば、デンマークの教育者であるグルントヴィが「市民のための市民による学校」を提唱したのがその起源だ。今もなおフォルケホイスコーレには世界中から生徒が集まり、対話を通して生きた学びをもち帰っていく。
フォルケホイスコーレはデンマーク発祥の成人教育機関である。その特徴は、18歳以上であれば誰にでも入学資格があること、入学試験や成績表などの評価がないこと、生徒と先生が校内の寮で寝食をともにすること。高校や大学卒業後のギャップイヤー中に自分の興味関心を探るため、あるいは社会人経験を積んだあとに学び直しのために滞在する人が多く、年齢や国籍の異なる人々と、約3~6ヶ月のあいだともに過ごす。

撮影/岡安夏来
デンマークには現在、郊外を中心に約70校のフォルケホイスコーレが存在する。学校ごとにデザインやアート、スポーツ、社会福祉、サステイナビリティ、政治、人文科学など学びのテーマを掲げ、多くの授業は生徒どうしの対話を中心に設計される。授業は夕方頃には終わり、その後は心地のよい場所で音楽を奏でたり、コーヒーを淹れて友人と語らったりしながら、思い思いの時間を過ごす。
なんともユートピア的な場所に見えるかもしれない。試験はなく、成績もつかず、十分すぎるほどの自由時間で好きなことができる。「フォルケホイスコーレの学びはとてもシリアスです」。そう話してくれたのは、デンマークのフュン島に位置する Nordfyns Højskole(ノーフュンスホイスコーレ)で長年教壇に立つMette Højland(メッテ・ホイランド)さんだ。
ホイランドさん「フォルケホイスコーレにおける学びの最大の目的は、自分の人生について気づきを得ることです。授業では教科を知ること以上に、自分がどのような人間か、何に対して情熱がもてるのかを知ることを重視しています。教科は自分を知るための、いわばサプリメント。結果として教科に関する知識を得たり、スキルが上達したりとポジティブな副作用もあるでしょう。しかし最も重要なのは、生徒たちが自分という人間を理解し、人生のものさしを見つけることなのです」

撮影/花田奈々
人生に向き合うことは、ときに恐れや痛みを伴う。私たちは大人になればなるほど、夢中になれる何かを見つけられたとしても、世間や他人の目が気になり、至らない自分に落ち込む。だからこそフォルケホイスコーレの特徴である「評価がないこと」や「他者との共同生活」は人生を学ぶための鍵となる。
ホイランドさん「フォルケホイスコーレという共同体に欠かせないのは、信頼と好奇心です。私はいつでも、生徒たちが自身のベストを尽くしていると信じています。誰からもジャッジされない安心感があるから、好きなことに取り組み、自由に表現することができる。ともに学び、暮らす生徒たちは競争する関係ではありません。お互いが鏡となり、人間としての成長を促す関係です」
私自身も過去2校のフォルケホイスコーレで学んだ生徒のひとりだ。そこで過ごした日々からもち帰る学びは人それぞれで、言葉にすると溢れてしまうものもある。元生徒と話すと「忘れてしまったことも多いけれど」と笑いながら、似たような結論に至る。フォルケホイスコーレでの経験は、これからの人生を進むエネルギーになる。その感覚だけは、確かに、鮮明に残っている。
Folkehøjskole 卒業生の声
他者との関わり合いから、「やってみたい」が浮かび上がる
「私が通ったフォルケホイスコーレでは、海外の学生やハンディキャップをもつ学生とともに暮らしています。生徒たちはみな好奇心いっぱいで親しみやすく、不思議と『自分もこの場に何かを提供できるのではないか』と思えました。異なる価値観やモラルをもつ人々と協働するのは難しくもありますが、お互いを受け入れ尊重すればどれだけ多くのことを成し遂げられるかを学びました。今年はフォルケホイスコーレの先生を養成するデンマーク唯一の学校に通う予定。とても楽しみです」
デンマーク人女性・学生
[Nordfyns Højskole (ノーフュンスホイスコーレ)滞在]
生徒がイニシアチブをもつ、自治的な学校運営
「シアターショーをつくる演劇の授業で、『全員が舞台に上がらなければいけない』と先生に言われました。でも、私は舞台監督や裏側セッティングに興味があったので、『人によって情熱は異なるのに、全員一律で舞台に上がらなきゃいけないなんておかしい!』と声をあげました。先生や他の生徒とも話し合った結果、それぞれが望む関わり方で進めることに。フォルケホイスコーレはとても自治的な学校で、生徒が学校運営や授業の進め方を決めることができます。生徒も授業をつくる一員だと感じられたと同時に、自分の情熱を見つけられた瞬間でもありました」
デンマーク人女性・ 演劇業界のプロジェクトマネージャー
[Vestjyllands højskole(ベスティランドホイスコーレ)滞在]
フォルケホイスコーレは原点回帰の場所
「競争社会で勝つために戦い続け、誰かと自分を比べる日々に疑問を抱き、新たな可能性を求めてデンマークに行きました。フォルケホイスコーレで学んだのは、自分と向き合うことの大切さです。『どうして写真が好きなんだろう? なぜこの写真を撮るのだろう?』と徹底的に問い続け、自分のピュアな気持ちに出会うことができました」
日本人女性・フォトグラファー
[Engelsholm Højskole(エンゲルスホルムホイスコーレ)滞在]
将来進みたい道への第一歩に
「大学に行く前の半年間、フォルケホイスコーレでファッションデザインを学びました。様々なプロジェクトや多様な分野で活躍する講師を招いたレクチャーを通して、自分はどんなデザイナーになりたいかを考える日々。その経験がファッションデザインの道に進むことを確かなものにしました。フォルケホイスコーレは都市から離れた場所に位置することが多く、自然に囲まれながら非日常的な環境で好きなことに打ち込める環境もよかったです」
日本・デンマーク国籍の女性・ファッションデザイナー
[Vera daghøjskole(ベラダウホイスコーレ)、Den skandinaviske designhøjskole(デン スカンディナヴィスク デザインホイスコーレ)滞在]
立ち止まって、自分の足元を確認する
「ものごとに対して『あなたはなぜそう思うのか?』を問われる授業が多く、自分の考えをあらためて理解できました。大人になるにつれて自分を見つめ直す機会は少なくなりますが、フォルケホイスコーレはそれができる場所。いろんなしがらみを脱ぎ捨てて人生を振り返る時間はとても貴重でした。一方で授業外の余白の時間に戸惑うことも。『私って、実は働くことが好きなんだ!』という気づきにもつながりました」
日本人女性・マーケター
[Højskolen for Bevidsthedsudvikling(ホイスコーレ フォー ヴィヴィストヒドズウズヴィクリング)、Krogerup Højskole(クロエロップホイスコーレ)滞在]

撮影/花田奈々




