日々の買い物、交通機関の利用、ショッピング。20%のポイント還元と40回に1回の全額バックキャンペーンで盛り上がった「PayPay」に代表されるように、日常において現金を使わない「キャッシュレス」生活が徐々に浸透しつつある。
そんな中、ユーシーシーフードサービスシステムズが展開するカフェチェーン「上島珈琲店」では、2019年2月1日から「大手町フィナンシャルシティ店」で完全キャッシュレス化の取り組みを開始した。
このタイミングで完全キャッシュレス化に踏み切ったのはどのような理由があるのか。
大手町店のキャッシュレス率は50%を超える
完全キャッシュレス化を開始した「大手町フィナンシャルシティ店」は、東京の大手町駅からすぐ近くのオフィス街ど真ん中に位置する。忙しいビジネスパーソンが多く訪れる店舗なだけに、もともと上島珈琲店中でもキャッシュレス決済の割合が高い店舗となっていた。その割合は実に50%を超えており、今回完全キャッシュレス化を試験的に実施する店舗に選ばれた形となる。
店頭での決済は、UCCグループ各店で利用できるプリペイド式カードやクレジットカードはもちろん、電子マネー、QRコード決済(PayPay、Alipay、WeChatPay、LINE Pay、楽天ペイ、d払い)など、20種類以上の決済手段に対応した。
また、事前注文決済サービス「O:der(オーダー)」も導入(※)。これにより、来店前にO:derのアプリから事前に注文と決済を済ませておくことで、店頭で並ばずに商品を受け取ることが可能となっている。
※関連記事:当たり前の消費体験を進化させたい―― 日本発モバイルオーダー&ペイサービス「O:der」に聞いた、事前注文が生み出す変化
今回の完全キャッシュレス化に関しては、あくまで検証段階という位置付けだが、もともとキャッシュレスの割合が高く、訪日外国人が利用する割合も高いことから、一定の効果を見込んでいる。このタイミングでの実施となったのは、キャッシュレス化の大きな波がきていることと、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが控えていることから、業界に先駆けて実施することでニーズを把握する狙いがある。
上島珈琲店では、完全キャッシュレス化によって、顧客サービスの向上に繋げられると考えている。
「現金を扱うことにより発生する業務が軽減されて、別のサービスの向上につながると考えています。例えば、レジ周りの作業が大きく短縮されることにより、ピーク時にお待たせすることも少なくなりますし、席やテーブルを直したり、片付けなどにしっかり時間を使えますので、顧客満足度の向上につなげられると考えています。」
さらに、事前注文決済サービス「O:der」を利用してもらうことで、店舗側では口頭による注文受付や会計業務のオペレーション軽減ができるため、よりほかの業務に時間を使えるだけでなく、行列による注文の機会損失も防げる。
「コーヒーがもたらす豊かな瞬間」を
同社は、完全キャッシュレス化やQRコード決済を導入する理由について「私たちが大切にする“コーヒーがもたらす豊かな瞬間”を体験してもらう施策の一つ。一番のこだわりは、ネルドリップで抽出したコーヒーです。最後の一滴まで美味しいと感じてもらえるコーヒーを目指し、多様なニーズに応えていきたい」とも語った(※)。
※ネルドリップ:フランネルという布を使用した抽出方法。ペーパーフィルターで抽出するより、コーヒーの抽出液が濃くなり、舌触りが滑らかになるのが特徴だ。
上島珈琲店のコンセプトには、「失われつつある日本の喫茶文化を大切にした 懐かしく温かでしかしかつて何処にもなかった大人のための珈琲店」という一言がある。
レトロモダンな空間で、ゆったりとした時間を過ごすことができた“日本の喫茶文化”。その空間をイメージし、店内ではコーヒーカップやカトラリー、椅子などに有名デザイナーである柳宗理氏の作品が採用されている。シンプルさと機能性を両立させたものに囲まれた空間で、くつろいでほしいという思いを込めているという。
完全キャッシュレス化にしても、そうしたコーヒーがもたらす豊かな瞬間を体験できる場を目指した取り組みには変わらない。変化し続ける時代の中で、同店の「核」となる味と空間へのこだわりを守る上島珈琲店。そのあくなき挑戦はこれからも続いていきそうだ。