コーヒー豆の種類は実に多様だ。店で飲むときやコーヒー豆を買うときには、選ぶための「味の傾向」がガイドとして示されていることもある。
だが、「酸味が強め」だったり「ライト」といったガイドが示されていても、どれだけの人が自分の好みを把握できているのかという疑問が浮かぶ。案外、“何となく”で選んでしまう人も多いのではないだろうか。
いま、そんな“自分の好みを正確に把握できていない人”たちのコーヒー選びをサポートする取り組みがメーカーから生まれている。
感想を登録して自分の味覚を可視化する「My COFFEE マップ」
UCC上島珈琲(以下、UCC)が2019年3月にスタートした「My COFFEE STYLE」は、個人の嗜好に合わせたコーヒーが提案されるサービスだ。顧客の豆選びの体験を変え、“家淹れ”をより楽しんでもらうことが狙いだという。
My COFFEE STYLEを利用するには、まずテイスティングキットの申し込みを行う。
すると、自身の嗜好傾向を把握するためのドリップコーヒーが4種類送られてくるため、この4種類を一杯ずつ抽出して味わい、袋に表示されているQRコードをスマートフォンで読み取って、感想を登録することになる。
すべてのテイスティングを終えると、一人ひとりの「My COFFEE マップ」が開設される。マップ上には、味覚センサーや、人間の感覚器官で品質判定する官能検査によってデータ化されたコーヒーが、「コク軸」(ライト/ストロング)と「味わい軸」(酸味/苦味)で配置されている。
テイスティング以降も、顧客はMy COFFEE STYLEで取り扱われている各コーヒーを飲み、その感想(好き/そうでもない)を更新することで、嗜好性をさらに可視化していく仕組みだ。こうしたデータが積み上がり、自分の好みを可視化できるようになれば、顧客はずいぶんコーヒーを選びやすくなるだろう。
味覚に合わせてコーヒー豆のサブスクリプションも提供
My COFFEE STYLEでは、マップで可視化された嗜好傾向を元にコーヒー豆を届けていくサブスクリプションサービス「My COFFEE お届け便」も提供される。豆または粉の量と種類、全自動コーヒーメーカーのレンタルの有無の組み合わせで、月額980円から提供されるコースの中から選ぶことができる。
My COFFEE お届け便の特徴は、蓄積された顧客の好みを毎月集計し、16種類の豆から、顧客に合ったコーヒーを定期配送する点。顧客が感想を登録し、My COFFEE マップを更新していくことで、翌月に届くコーヒー豆も変わっていくという。
UCCによれば、今後豆の種類を増やしていくことも検討しているそうだ。
また、テイスティングキットを買わなくても、味覚のチェックは可能だ。店舗でのテイスティングは、食べ物との組み合わせからマッチするコーヒーを選ぶ“Food with Coffee”をテーマにした「COFFEE STYLE UCC」(2018年3月に横浜で1号店、2019年3月に吉祥寺で2号店をオープン)で、随時開催されるイベントにて体験できるという。
顧客の「豆選び」に寄り添う
UCCはなぜ、My COFFEE STYLEの立ち上げに至ったのか。UCCのマーケティング本部デジタル推進部の染谷清史氏は、「おいしいコーヒーへのニーズ」の高まりと、現状の「豆選びのわかりづらさ」を背景に挙げた。
染谷氏「コンビニコーヒーの普及によって、豆から淹れたコーヒーを100円で飲めるようになりました。以前よりもコーヒーを気軽においしく飲めるようになる中で、『家でも自分で挽いて飲みたい』という声は増えているんです。
一方で、店で買う豆も、喫茶店で飲むコーヒーも多様化しています。顧客にとっては『どのコーヒーを選べばいいか』が非常にわかりづらくなっており、“自分に合うもの”をどう提供し味わっていただくかが、UCCとして課題だと思っていました」
同社にはもともと、味覚を四象限で表現する基礎技術があった。これを顧客が使えるようにし、「味覚データ」を豆の販売と結びつけることで、UCCにしかできないサービスになるのではないか、と考えたという。
同様に、UCC常務取締役の石谷桂子氏も、顧客の味覚をデータ化する必要性を感じていたという。顧客にヒアリングするだけでは、個人の感覚に左右されて嗜好を把握しづらいためだ。
石谷氏「My COFFEE STYLEを使って可視化することで、個々のお客様に本当に合う豆を提案することが可能になります。また、自らの好みを知ることによって、お客様自身がいつもと違う味を試すこともできると考えています」
今回の開発を通じて、顧客の味覚傾向が多様化していることがわかったそうだ。UCCが製品として提供しきれていない味覚エリアもあり、「お客様の嗜好にあった豆を幅広く取り揃えていく意味でも、分析結果を役立てられる」と、石谷氏は新たなブレンド開発への意欲をのぞかせた。
実際、記者向けに行われた試飲会でも、参加者の味への感想はまちまちで、味覚の多様さを感じさせた。サービスの可能性は、まだまだありそうだ。
“家淹れ”の体験を豊かに
UCCが実現する、パーソナルなコーヒー体験。石谷氏はその先に、家で淹れて飲むことを通じて、コーヒーがある“生活”をもっと豊かにしたいとも語る。
石谷氏「弊社にはカフェなどの外食事業もありますが、それはブランド体験の場、コーヒーの新たな提案の場として位置づけています。UCCとして考えているのは、あくまで家で淹れて楽しんでもらうこと。
『コーヒーは、挽いて淹れるところから』というお客様もいらっしゃいます。My COFFEE STYLEを通じコーヒーの楽しみ方にも幅を持たせて、色々な価値を提供できたらと考えています」
コーヒーは淹れ方によって味が変わる。UCCにとって、商品の価値を十分に体感してもらうためには、顧客に淹れ方を知ってもらうことも必要だ。実際に同社は、UCCコーヒーアカデミーで初心者向けの淹れ方教室を開催したり、UCCのサイト上にさまざまな淹れ方のコンテンツを掲載したりしている。
これは、Adobeなどのクラウドサービスが、使い方を紹介するコンテンツを準備していることにも通じる。UCCも、単純に豆を売るだけではなく、顧客がコーヒーを楽しむために必要な機会を生み出そうとしているのだ。
今回のMy COFFEE STYLEは、「顧客自身も知らない自らの好み」を知ることに取り組んでいる点でも、特に大きな意味を持つ。それができて初めて、“本当に合う”パーソナルな商品と、豊かな体験を顧客に提供することができるからだ。
コーヒーにできることは何か、どう楽しんでもらえれば顧客の生活は豊かになるのか。今後、月々積み上がっていくデータを元に、UCCがさらなる顧客視点で製品やプランを磨き込んでいくことを期待したい。
img:UCC上島珈琲提供, UCC上島珈琲公式サイト