世界のD2C市場は、評価額10億ドル越えのD2Cアイウェアブランド「Warby Parker(ワービーパーカー)」に追いつけ追い越せの勢いで、近年盛り上がりを見せている。日本でもここ数年、D2Cという言葉を聞く機会が増えてきた。
2019年4月11日、国内D2Cブランド10社が集ったイベント「D2C Brand Showcase」が表参道の「LUXUS ES」にて行われた。LEXUSと女性向けパーソナライズヘアケアブランド「MEDDULA(メデュラ)」を運営する株式会社Spartyの合同主催だ。
プログラムの1つとして、”モテクリエーター”として活動し2018年9月にスキンケアブランド「youange(ユアンジュ)」を立ち上げた株式会社KOSの菅本裕子(愛称:ゆうこす)氏、PR/Creative DirectorとしてD2Cに携わる株式会社GOの三浦崇宏氏、600ものブランドにOEMで商品を提供する株式会社サティス製薬の山崎智士氏の3人によるスペシャルトークが行われた。テーマは「これからのユーザーとブランドの新しい関係とは」。ブランドオーナー、クリエイティブディレクター、OEM会社社長、それぞれの目にD2Cはどう映っているのか。
D2Cは顧客とブランドを距離を密接にした
「そもそもD2Cの定義とは何か」。モデレーターからの最初の問いかけに対し、三浦氏は「ブランドの作り手と買い手が直接つながっていること」と答え、D2Cが顧客とブランドの関係を密にしたと続けた。
三浦氏「D2Cの共通点は、SNSの浸透により顧客接点が増えたことで、ブランド側が顧客のフィードバックや要望を反映しやすくなったことでしょう。顧客側に『自分も一緒にブランドを作っているんだ』と実感値を与えたとも言えます。
例えば、ブランド側は商品が出来上がってからお客様に公開するのではなく、作っている過程からお客さんに公開したり、お客さんを巻き込んで商品を一緒に作れるようになった。ゆうこすの立ち上げた化粧品ブランド『youange』もそうですよね」
菅本氏「そうですね。Instagramのライブ機能を使って、中身の成分の話からボトルデザインまで、商品が出来上がる過程を全部配信しています。一方的に配信するだけではなく、いただいたコメントを商品に反映することも。毎回の配信で平均2000コメントいただきますね」
山崎氏はOEMの立場からすると、D2Cブランドに関わったことで、エンドユーザーとの距離が近くなったと話す。
山崎氏「これまでのモノ作りは、開発して、製造して、販売してからは、その商品がどのように使われたかの行く末がわからない実情がありました。D2Cでは直接反応を得られるようになり、顧客を笑顔にできた部分やそうでなかった部分を知ることができ、情熱を持って次の商品開発に繋げることができます。
D2Cのポイントは、ユーザーとの双方向のコミュニケーションをデジタルで蓄積して、声に変えていけることだと考えています。大量に蓄積されたフィードバックによって高速なPDCAを回すことができるようになりました」
店舗はブランドの世界観を体験する場所に
次のテーマは「D2C時代における店舗の役割」。顧客とブランドが直接つながり、Web上で購買が完結する中で、店舗や百貨店はどんな役割を担うべきなのか。
菅本氏は自分が顧客の立場として、ブランドや商品が生まれた過程を店員が伝えてくれる点に店舗の魅力を感じると話す。
菅本氏「商品を買うだけであれば、ECで済ませてしまうことが多いです。店舗に行くのは、『あの店員さんに会いたい!』と思うとき。リアルじゃないと手に入れられない情報や会えない人がいることは、私にとっての店舗の存在価値です」
三浦氏は店員の接客の話を踏まえて、以前アメリカで訪れたコスメブランド「Glossier(グロシエ)」での体験を例に挙げた。
「『Glossier』の世界観が表現されためちゃめちゃ可愛い空間だったんですけど、購入する際は店舗にあるiPadを使って注文する形だったんです。同じECでの購入体験なのですが、特別な接客を受けながら購入することは全く別物なんですよね。店員さんが皆楽しそうに働いているのも印象的だったんですが、それを見てまたファンになりますよね。
ECで商品が買える中で、店舗は商品を買う場所から、ブランドの世界観を体験する場に変わっていくと思います。店舗のいらない時代に、店舗に来る人とどう向き合うかが、これからのブランドに求められているのではないでしょうか」
山崎氏「ブランドのキャラクターを店舗の空間や店員さんが一貫して表現できているかは大事ですよね」
三浦氏「音源とライブの関係と近いのかもしれませんね。音源だけでも楽しめるけど、3ヶ月に1回はライブで世界観を感じてもらう。店舗もライブだと捉えれば、気合いが入りますよね」
顧客とのつながりを保つために、ブランドは何を大切にすべきか
最後に、D2Cブランドを成長させていく上で何を大切にすべきなのかを3名が語った。
三浦氏「ブランドを顧客と一緒に作っていくとなると、顧客は消費者やターゲットではなく、ブランドのファンや仲間という認識に変わっていきます。商品が顧客の生活のどの瞬間で使われて、どんな感情をもたらすのか、顧客のライフスタイルそのものを共創する姿勢が問われるのはないでしょうか」
顧客のライフスタイルを共創するにはどうしたらいいのか。山崎氏は、顧客をマスで捉えるのではなく、一人ひとりの個として接するべきだと語る。
山崎氏「D2Cが進んでいくと、お客様とのコミュニケーションは1:nから1:1に移行します。データが集まると商品のパーソナライズが進んだり、使用頻度に合わせた適切なコミュニケーションが求められるからです。ブランドを支えている一人ひとりを理解して、最適な商品と一貫したシナリオを作らなければなりません。化粧品であれば、商品を手にした時から、使い続けた先の肌の変化を顧客が想像できるようにすること。
商品とシナリオを改善するためには、1:1の対話を繰り返すしかありません。1:1の対話を短い期間の中で何度行えるのかが、ブランド成長のためには欠かせないのではないでしょうか」
菅本氏はブランドの作り手の立場から、顧客のライフスタイルを作る商品作りに一番大切なのは「熱量」であると述べる。
菅本氏「作り手にはブランドへの熱量が必要だと思います。『youange』は私がアイドルだった頃、不規則な睡眠時間のせいで起きた肌荒れを原体験として生まれた商品です。『寝てる間に肌をリペアする化粧品が欲しい』という想いから作りました。
このブランドも、私の熱量に共感した人が買ってくれているので、そういう共感を生む熱量がD2Cには大切だと思います」
オンライン上で顧客を仲間として巻き込みながら成長するD2Cブランド。世界観を共に作っていく中で、顧客の期待にあらゆる接点で応えることが、いまブランドに求められている。そのためにはブランドの作り手が、商品のある顧客の生活をどこまで具体的に想像できるかにかかっているのではないだろうか。
編集/モリジュンヤ 取材・文・撮影/イノウマサヒロ