「世界一履き心地の良いスニーカー」
そんな謳い文句を掲げているサンフランシスコ発のシューズブランドが日本に上陸する。情報が解禁されて以来、タイムラインは「ようやく履き心地を実体験できる」と期待で満ちていた。
D2Cブランドとしても注目を集める「Allbirds(オールバーズ)」の日本一号店は、2020年1月10日に原宿にオープンする。店舗のオープン日前日、筆者は通販で購入していた「Allbirds」の靴を履き、同ブランドの記者会見に足を運んだ。
1年で200億足以上のシューズが廃棄されている
Allbirdsは、元サッカー ニュージーランド代表のティム・ブラウン氏とバイオテクノロジーの専門家 ジョーイ・ズウィリンジャー氏が2016年に設立したシューズブランドだ。
1月9日に開催された記者会見には、ジョーイ・ズウィリンジャー氏と日本の責任者であるマネージングディレクターの竹鼻圭一氏の2人が登壇。会見では、まずズウィリンジャー氏より、Allbirdsの誕生背景が語られた。
ズウィリンジャー氏「私は若い頃、微細な藻の開発をしていて、その頃から気候変動を身近に感じていました。これはいずれ全人類が直面する大きな問題へと発展していくであろうと、危機感を持っていました。一方で、シリコンバレーで働いていた人間としては、気候変動との戦いにおいて、起業家や民間企業の努力によって変化を起こせるはずだ、と信じていました」
ズウィリンガー氏は、当時働いていた会社で藻にサトウキビを与えることで、藻から車の燃料や石油などに匹敵する燃料を生み出すことに成功したという。 その燃料を多くの企業に売り込むフェーズで、抽出した燃料から硬い構造をつくるというさらなる壁に挑んだ。
ズウィリンジャー氏「藻からサーフボードを作ってみました。気候変動に最も敏感な人たちは、サーファーだと着目したんです。実際に作ったサーフボードにサーファーに乗ってもらって、実証した上でメーカーに売り込みに行きました。ところが、値段が少し高いと拒絶されてしまったんです。私はそれに衝撃を受けました。テクノロジーがあり、それを求める人がいたとしても、その間に立つブランドが拒絶したら商品化できないと気づいたんです」
厳しい状況にあったズウィリンジャー氏が出会ったのが、ティム・ブラウン氏だ。元サッカーのニュージーランド代表でトップアスリートだった彼には、いろんなスポンサーがついていたという。様々なスポーツメーカーから、自分たちのブランドをできるだけ目立たせてほしい、というオーダーを浴びせられていた。
ズウィリンジャー氏「彼は、世の中の流れの変化を感じていました。仕事でスーツを着る人が減り、スニーカーを履いて通勤する人が増えている。ファッションのカジュアル化が起きていました。
そこでまた大きな問題を発見したんです。多くのスポーツブランドは卸売業者を介して顧客に売っていて、似たようなスニーカーが店頭に並ぶ中でどう目立たせるかを競い合っていました。どのブランドも顧客のアテンションをとるためのデザインに最適化されていて、目立つロゴやカラーリングなどばかり。その結果、同じようなスニーカーが並ぶ状況になっていました」
2010年、北米にEコマースの波が訪れた。卸売業者にかかるプレッシャーが高まり、卸売業者からブランドへとプレッシャーがかかった。圧を感じたブランドは、より安く、より早く展開できる商品を作るという悪循環に陥った。ECサイトには、無数のスニーカーが並んでいて、まるでフリーマーケットのような状態。
ズウィリンジャー氏「その結果、環境に配慮されていない安価なスニーカーが1年で200億足以上廃棄されてしまっています。私たちは、この状況を変えるためのソリューションを考えました」
「サステナビリティ」を中心に据えたデザイン哲学
環境への強い課題意識から生まれたAllbirdsのプロダクトは、デザイン哲学の中心に「サステナビリティ」が据えられている。シンプルなデザインや快適性へのこだわりが、コアを覆っている。
ズウィリンジャー氏「Allbirdsは、数千年の積み重ねがあり、習熟した自然が作り出した素材をつかっています。化石燃料由来の素材は100年ほどの歴史しかありません。私たちは、自然が作り出した美しく、シンプルな素材から無駄をなくし、機能性だけを抽出して使用しています。
その結果、自然素材を使用して開発した世界で最も快適なスニーカーづくりに成功しました。ブランドを代表するスニーカーである『ウールランナー』には、世界最高級のメリノウールを使用しています」
繰り返し語られる環境への配慮。強い思想とともに生まれたAllbirdsの強みとして語られたのが、「素材開発」「目的意識」「顧客目線」の3点だ。
ズウィリンジャー氏「私たちは、多額のコストを払って素材の開発に力を入れてきました。ウール、ツリー、サトウキビなど、これまで靴作りに使われなかった素材にも目を向けてきました。ユーカリを使ったユーカリ繊維は日本の夏でも快適な履き心地を実現します。「SweetFoam™」というブラジルのサトウキビを使ったソールは、快適なだけでなく、素材自体が空気中の二酸化炭素を吸収し、素早く成長する環境に配慮した素材となっています」
素材開発における環境への配慮のみならず、Allbirdsはビジネス全体において、そもそもの目的への意識が強い。Allbirdsは、B-corpの認証企業になっている。日本ではまだ知名度は高くないが、B-corpとは、ペンシルヴァニア州に拠点をもつNPO「B Lab」が考案した制度で、パタゴニアやベン&ジェリーズなど、社会責任や環境配慮に重きを置くことで知られる企業が続々と参加していることで知られる。
B-corpの認証企業は「公益企業」と呼ばれ、従来の株式会社のように株主への利益還元を目的とするのではなく、従業員や地域、環境といったステークホルダー全体に対する利益還元を目的として事業活動を行う。
ズウィリンジャー氏「私たちは、気候変動に対してできることはなにか?という目的を常に意識しています。2019年には、100%カーボンニュートラルを達成。製造過程、販売過程すべてにおいてカーボンニュートラルを実現しています。
この店舗もふくめすべての店舗は素材も環境に配慮したものを使用しますし、設計過程でどれだけの炭素排出があったかも計測しています。また、配送面においても最も環境への負荷の少ない方法を選択しています。どうしてもプロセスのなかで炭素が排出されてしまうので、排出量を計測し、カーボンオフセットで対応しています」
彼らの環境への姿勢の本気は、Allbirdsが使用している技術を公開していることにも現れている。ズウィリンジャー氏によれば、技術を公開している理由は2つ。「その技術を使うブランドが増えれば、その分世界がよくなる」「その技術を使うプレイヤーが増えると製造コストが下がる、その結果活用するすべての企業が恩恵を受けることができる」というものだ。
ブランドの成り立ちから、Allbirdsは、中間に立つリテーラーに対する課題意識があった。そのため、直接顧客に商品を届ける「D2C」スタイルを貫いている。中間業者を挟まないことで、様々な利点が生まれる。
ズウィリンジャー氏「中間業者にコストを支払わない分、素材開発への投資や顧客に還元できます。中間業者を挟まないことで価格のコントロールが可能になり、ディスカウントを一切しない健全な価格を守ることができます。
私たちは顧客とのつながりを大切にしています。店舗を訪れたお客様が買うつもりがなかったとしてもスタッフとコミュニケーションをして、サイズを知ってその後オンラインで購入するといった体験も生み出していきます」
彼らが掲げる「世界一履き心地の良いスニーカー」というコンセプトは、顧客と直接やりとりすることによって初めて可能になる。なぜなら、快適さや履き心地は気候やシーズン、人によって異なるからだ。
彼らの手掛けるプロダクトは、それぞれにフィットした気候が条件があるという。直接コミュニケーションし、顧客のニーズを把握した上で、条件にあったシューズを提案する。そこまでやりきって、履き心地の良さが実現できるのだろう。
4年前から計画していた日本展開
ズウィリンジャー氏「日本展開は4年前から計画していました。日本に展開したいと考えていたのは、日本のデザインに対する哲学やポテンシャルを感じていたからです。可能性を感じながらも、ナーバスにもなっていました。日本への展開に合わせて、私たちは製品の作り直しも30回行っています。改良自体は小さなものではありますが、品質、職人、環境配慮の素材、どれも最高級のレベルに到達したタイミングで日本にきたと思っています」
竹鼻氏「歴史的に原宿エリアからは、様々なファッションの起業家が生まれてきており、土地に起業家精神が根付いていると考えています。その精神が自分たちにピッタリだと思いました。Eコマースは、4月にローンチを予定しています。Eコマースをリリースしたあとは、同じサービスを全国に届けられるようになります。私たちは、D2Cブランドとしてコマースの比率50%を達成したいと考えています。4月までは原宿で来店者の方々と関わりながら、4月のEコマースの反応をみて、情報を分析しながら、店舗展開の判断をしていく予定です」
環境への強い課題意識を掲げ、世界的に展開する新興ブランドはまだ多くない。Allbirdsのように、様々な領域から注目されるプレイヤーが、目的意識を持って環境への配慮をあらゆる場面で徹底しているのは、他のプレイヤーの環境に対する姿勢にも影響するのではないだろうか。
Allbirdsのブランド名の由来は、共同創業者のブラウン氏の故郷でもあるニュージーランドの逸話から来ている。世界の中でも地理的に離れた場所にあるニュージーランドは、1200年頃まで発見されていなかった島だ。
初めて、人が発見したときに島に哺乳類はおらず、自然と調和した状態のまま。島を発見した開拓者が「鳥だらけ(all birds)」の島と呼んだことに、ブランド名は由来する。彼らが目指している世界の姿と、今の世界の姿にはまだまだ距離がある。彼らがこだわりを持ちながら、ビジネスで世界を変えていくことに期待したい。