漫才師「米粒写経」として活躍しながら大学の教壇にも立つ、学者芸人のサンキュータツオ氏が教える、「演芸」の面白さとは。
いま「寄席」にお客さんが集まっている。メディアでも人気の落語家・春風亭一之輔、YouTubeチャンネルなども話題の講談師・神田伯山、漫才のナイツも「寄席」に出ている。
演芸に対して、なんだか難しそうだなと思う人も多いかもしれません。しかし決してそんなことはないんです。現代を生きるだれもが理解し想像できる。すべてはわからなくても、シチュエーションは理解できる。いままで食わず嫌いで敬遠していた人たちが「自分が求めていたものはこれなんだ!」と、どんどんこの世界にハマってきています。
演芸の世界にはいろんな球種が存在します。怪談噺や人情噺など、まずは「物語」が用意されているということと、いろんな感情を引き出すということ。で、そのなかに「笑わせる噺」もあるのが演芸の魅力です。「この物語は……怖がらせるつもり? それとも、笑わせるのか?」最初聴いたときはそんな気持ちになる人も多いはず。だからこそストレートに笑わせてきたときの感動もひとしお。しかも、その先には「同じ物語を別の人で聴く」ことの楽しさや、「同じ物語を、同じ人で別の時に聴く」という楽しさもあります。それでも面白いんです。「違い」が楽しめるようになったら、あとは未来永劫楽しいことしかありません。発見の連続です。
「粗忽長屋」という物語は、登場人物Aが街で行き倒れを見つけるところからはじまります。行き倒れていたのは仲良しのB。AはビックリしてすぐにBのところに向うとBは生きています。ボンヤリしているBに、Aは「お前は死んでる」と説き伏せます。この時点で観客としてはAが早とちりをしているとわかって可笑しいのですが、死んでいると言われたBは議論を進めていくうちになんと「自分は死んだのかも」と思い込みます。
ちょっと演出を変えれば、ホラーにもなり得る物語です。古典は料理でいえば「素材」みたいなもので、演者が料理人です。味付けが全然違います。最初に聴いてもこの先どうなるのか楽しめますし、物語を知っていても面白い。
これを寄席という「逃げられない空間」で観ると、その圧倒的な情報量にビックリするはずです。それを非常にリーズナブルな価格で味わえるのですから、画面越しのエンタメに馴染み過ぎている人には新鮮かもしれません。
いま、実に多様な才能が集結し、落語史上最多の人数になっています。これもう楽しみ尽きないじゃん! ぜひ、寄席あるいは落語会に足を運んでみてください。できれば「渋谷らくご」がオススメです。
執筆:サンキュータツオ 編集:BAKERU
撮影:タニミツヒロ ロゴデザイン:LABORATORIES イラスト:青山健一