“良いお店”とは何なのか。渋谷PARCOの取り組みからその答えをひもとく。
2019年11月22日にオープンした「渋谷PARCO」。そこではデジタルとリアル店舗の体験を共存させる取り組みが多く見られる。その具体例が5階の「PARCO CUBE」という売り場である。出店するのは11ブランド(ウィメンズが中心)。売り場面積を従来の半分とし、店頭の実在庫はシーズンの一押しに絞っている。その他のアイテムはサイネージやタブレットで検索できるという仕組みだ。いずれも購入はPARCO ONLINE STOREで行い、手ぶらで帰宅することも可能。
また、「FXMIRROR」という仮想フィッティングミラー。鏡の前に立つと自動的にボディの寸法を測定され、鏡の中に3Dアバターが生成。そのアバターが自分に代わって試着をしてくれるので、自分が着なくとも実際に着ている姿を確認できる。まさに今ならではの“お店”の体験だ。
でもお店ってそもそも何だっけ? と思った僕は歴史を紐解いてみる。
まず戦後から1990年代までの、海外ファッションを模倣して、消費者に伝播する過程では販売員の役割が大きかった。Googleが日本語検索サービスを開始する2000年まで、消費者が海外の情報を得る手段は雑誌等の書籍しかないので、必然的に販売員に聞くことになる。だからお店は「情報通の販売員に洋服を教えてもらう」場所として機能していたわけだ。
今となっては、情報はネットに落ちているし、ECサイトで洋服を買える。じゃあ、なんでお店に行くのだろう? そこで手前味噌な例をひとつ。あるブランドの店舗では、懇意にしている地域の新茶を振る舞うイベントが年に一度行われる。この茶葉を妙に気に入った僕は毎年の新茶の時期を楽しみにしている。別にテクノロジーは導入されていないけれど、どうしてもお店に行きたくなってしまう。そんな購買とは直接関係のないところにあるブランドの趣味嗜好に、魅力を感じているのだ。
パルコの仕掛けに見る“テック”と、購買と一見無関係な“ヒューマニティ”。その二つのバランス感覚の良さが未来の良いお店の定義だと思う。
執筆:石川くう 編集:BAKERU ロゴデザイン:LABORATORIES イラスト:青山健一