XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年9月14日から17日の放送では、自遊人のサービスを通した顧客体験を紹介した。自遊人は新潟県南魚沼市に拠点を置き、雑誌『自遊人』の出版やオーガニック食材の販売、宿泊施設の経営などを通して、農村で暮らすライフスタイルを世に広めている。
放送では、代表の岩佐十良氏に、自遊人が多角的な事業展開をするようになった背景、宿泊施設で得られる体験、今後の展開などを語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
「米1粒がメディア」という発想から多角的な事業展開へ
――最初に、自遊人がどのような事業を手掛けられているのか教えていただけますか。
ライフスタイルマガジン『自遊人』を発刊している出版社なのですが、他にもECサイト「オーガニック・エクスプレス」を通じた食品の製造販売や、「里山十帖」「箱根本箱」「講 大津百町」「松本十帖」といった4つの宿泊施設の経営も行っています。
もともと私たちは、農村での暮らしぶりや食文化などを伝えるため、一生懸命写真を撮影したり、文章を書いたりしてきたのですが、あるとき「どんなに素敵な写真と文章で伝えるよりも、実際に食べたり、体験してもらったりした方が伝わるんじゃないか」と気付いて。食品事業で手掛ける米一粒も、宿泊施設もライフスタイルを提案するメディアなんです。すべてがメディアだと捉えるようになってから、色んな事業を手掛けるようになりましたね。
――もともと取材対象だったモノやコトに、自らが主体となってビジネスを広げていったんですね。とはいえ、宿泊施設を4つも経営されているのはスゴイですね。
宿もステキな写真を撮って伝えることで疑似体験はできるのですが、実際に滞在いただいた空気感だとか、料理を食べるというのはリアルな体験に全くかなわないんですよね。
宿を経営するノウハウは出版物と全く違うので、当初は私たちも戸惑いましたが、2012年に物件を購入してから、僕も現場に入ってサービスを提供したり、掃除をしたり、いろんなことを学びながらやってきたというのが、今につながっていると思います。
農村での暮らしぶりを伝える、こだわりの宿「里山十帖」
――自遊人が最初に手がけた人気の宿、里山十帖のこだわりを教えてください。
里山十帖は、新潟県南魚沼市の大沢山温泉エリアにあります。南魚沼市は「魚沼産コシヒカリ」で有名ですが、観光地としては知名度も低い。そのため、農村の食べ物や空気、文化を感じてもらうことを提案したいと思い、2014年に里山十帖をオープンしたんです。
テーマは「食」で、山菜や野菜を豊富に使った料理を振る舞っています。メインディッシュは、魚沼産コシヒカリのご飯。当時はそのような料理を出す宿は珍しかったので、「ご飯がメインなの?」「山菜や野菜ばかり出さないでほしい」というお客様も多かったですね。
今では「そのコンセプトが良いんだよ」と、好意的な口コミが広がって。野菜料理や山菜料理、メインディッシュの魚沼産コシヒカリを食べに来る方がほとんどになりました。
――宿泊施設ができたことで、雑誌の役割には変化がありましたか?
今までは、雑誌を読んでから宿に来る方が多かったのですが、最近は宿に来てから雑誌を読むという方が増えましたね。雑誌から入ってきた方は、知識が先にある「頭でっかち」の状態で、現地に来ていたと思います。しかし、今は先に実体験をして、頭が柔らかい状態で雑誌を読んでもらうので、さまざまな情報が素直に入っていく。雑誌とリアルメディアの主従関係が逆転したことで、私たちの伝え方の幅が広がったというふうに感じています。
今はInstagramやTwitterを見て「ここ遊びに行こう」とか、SNS中心で行動するじゃないですか。そのため、今後は雑誌やテレビ、新聞などのメディアが、物事をさらに深く知るための役割に変わっていくのではないかと思っています。つまり、雑誌などのメディアは、ファンをファンとしてより強くしていくためのメディアに変わるのではないかなと。
「箱根本箱」が叶えた、本に埋もれるという体験
――2018年8月にオープンしたブックホテルの箱根本箱は、どのようなコンセプトで作られたのでしょうか。
箱根本箱は、本をあまり読まなくなった方に久しぶりに本を楽しんでほしい、「本の世界良いよね」ともう一度気付いてほしいという思いから、日本出版販売と共同で作りました。
本屋は、人が新しい知識と出会う場です。昔はよく駅前の本屋で待ち合わせをしたり、知らないジャンルの本を読んで気分転換したりする光景が見られました。しかし、今は駅前の本屋がほとんどなくなり、新しい知識と出会う場が激減したのではないでしょうか。そこで、昔の本屋が担っていた「知識との出会いの場」を、箱根本箱のコンセプトにしました。
――箱根本箱では、新しい本との出会い方にも工夫を凝らしているんですよね。
はい。本を読んでいるときは、人にあんまり見られたくなかったりするじゃないですか。そのため、本を読みながらこもれる場所を多く作りました。本棚の中にスペースを設けたり、本棚の奥に椅子を置いたりして、本の中に埋もれていくような感覚で読書に没頭できます。
お客様からは、「家に帰りたくない」「本が読み切れなかった」という声をいただくことが多いんです。箱根本箱は書店機能もありますので、読み切れなかった本を5冊〜10冊、場合によっては20冊以上も購入して、段ボールで配送するお客様もいますね。
都内にいながら、里山暮らしが疑似体験できる場を作る
――食品製造・販売サービスのオーガニック・エクスプレスについてもお伺いしたいです。
早い段階でリアルメディアを持ちたかったので、2002年からオーガニック・エクスプレスをスタートしました。世の中にある素晴らしい食材やオーガニックに作られた食品を販売したくて始めたのですが、今では私たちが欲しい商品を開発、販売する機会もありますね。
その延長線上で、2014年に里山十帖をオープンすることになるわけですが、宿泊してファンになってくれたお客様は、元からオーガニック・エクスプレスで弊社の米や味噌を買っていただいたとか、野菜をずっと定期便でとっていただいていた方も多いですね。
それ以外にも、品川になるソニー本社ビルの社員食堂の一部で、新潟のおいしくて健康的な食材を扱った店舗「THE FARM」を出店するなど、新たな試みも始めています。
――社員食堂として展開することには、どのような可能性があると考えていますか?
今後はTHE FARMのような形態を広めていくことで、新潟まで来れないとしても、地方で暮らすことの良さや豊かさが疑似体験できる場所を増やしていこうと考えています。
また、宿泊施設としても新潟県の銀山平に「Silver Mountain Lodge」をプレオープンさせました。他にもさまざまな計画が進行しています。地方に足を運んでもらう機会や、東京で疑似体験できる場を通して、このライフスタイルを広めていきたいです。
KARTE CX VOXの過去の配信は、Spotify、Apple Podcasts、Google Podcastsのほか、「ラジオクラウド」のアプリから聞くことができます。
ラジオクラウドはアプリをダウンロードの上、こちらのリンクもしくは、アプリ内で「KARTE CX VOX」と検索してください。