ファッションブランド「途中でやめる」デザイナー・山下陽光氏が見つけた、“グルメサイト”の新しい楽しみ方とは。
とあるグルメサイトの有料会員になっている。アプリを使って美味しい店を探すのが好きで、ご飯を食べた後もアプリを開いたりしてて、1日3食が追いつかなくて何度も見てるうちに、違う楽しみ方を見つけてしまった。
最初は美味しい店を探して行ってたけれど、自分が好きな店を見るとほぼ確実に、Hという人物がレビューを書いていることに気づいた。そのグルメサイトにはフォロー、フォロワーの関係があって早速フォローする。自分が気になったお店があると、そこにHさんが行ってるかどうかが大きな判断になっている。もちろんHさんとは何の面識もない。
映画批評のラジオを聴いてから映画を観るのに近い感覚で、Hさんが描いたレビューがどのような感じなのかも味わいに行く心地よさがあるのと、そのレビュアーが居るような気配もギンギンに感じられて。あの人はHさんじゃない? と妻に聞くと、Hさんはもっと太ってるし髭が生えてるとか、それぞれの勝手な人物像が出来上がっている。
太宰治が通った銀座のバーに行っても同じ空間を共有した気分にはなれる。でもそこに太宰は居ない、というのは明らかだけれど、今この店にHさんがいるかも……という気配は、幽霊以上の感覚で漂っている。
さらに、調べる場所をずらす事で得られる情報も変わってくる。Hさんがオススメしてた店をTwitterで検索してみたら、同じ日に行ってる女性が見つかって、このふたり付き合ってんじゃねぇの? という謎のワイドショー気分が芽生えて、アプリ版のタイムラインとTwitterで照合したりして盛り上がったり。
そう。本来の用途はグルメ情報なんだけど、そこから漏れる情報を検索で得られることがある。味や人じゃ無い方法でも検索が出来て、例えば、リズミカルにチャーハンを作る店が何軒かあるから、“チャーハン作る音がうるさい店は美味い説”を検証したくなって、「チャーハン 音」で調べたら出てくる出てくる。味を音で調べる事で新しい地図が出来上がる。“椎名林檎”で検索しても面白いし、“ラジオから”で検索してもいい。
そんな事に執着して調べると新たな食べ歩きができるのでオススメ。さらに言うと、たとえば大行列してでも食べたい大好きなラーメン屋が、定休日じゃ無い日に「本日休みます」と休んでてガッカリしてたら、同じテンションの人がどんどんやってくる。だから《俺もあなたもラーメンの口になってますよね。ネットで何か買ったら、コレを買った人はこの商品も見てますというサジェストが出てきて嬉しい出会いがあるように、俺もあなたと同じラーメンのテンションになってるんで、すんません》と、その人の後ろをついて行ったことがあります。
辿り着いたのはまさかのうどん屋さんで、麺つながりではあるけれど………と思いながらすすりました。
執筆:山下陽光 編集:BAKERU
ロゴデザイン:LABORATORIES イラスト:青山健一