“一冊の本だけを売る本屋”「森岡書店 銀座店」の店主がつづる、コロナ禍における「銀座」商人の取り組み
コロナウイルスはいまだ世界中で拡大しているが、日本では、銀座が最も影響を受けた地域の一つになった。銀座は、人々が喜びを共有するハレの場であり、また近年は、商売のあり方がインバウンドのお客様向けにシフトしていた。
緊急事態宣言が発令されると街から人影は消え、SF映画のワンシーンと評する人も多くいた。宣言は解除されたものの、7月に入ると東京都の感染者数は増加に転じ、事態の長期化に直面している。
銀座の歴史を地元の人に聞いてみると危機が5回あったと言う。最初は1868年の明治維新、二つ目は1923年の関東大震災、三つ目は1945年の敗戦、それから 1990年代のバブル崩壊、そして2008年のリーマンショック。銀座の人たちは、その度ごとに銀座を復興してきた。
今回のコロナ禍でも、新旧商店が集まり、「銀座玉手箱」が企画された。各商品を持ち寄り、玉手箱という名のダンボールに詰めてお客様に届ける。銀座の街の雰囲気を届けようという企画は、過去に例がなかったのではないだろうか。おそらくどの店舗もそうだと思うが、根底にあるのは、コロナ禍の後にはまた銀座に来てほしい、忘れないでほしいという、願いに近いものだったと思う。それだけ、切実なものがあった。遠くは山形県からも問い合わせがあった。
7月のある日、玉手箱のメンバーで豆まきをした。豆まきというと唐突かもしれないが、鬼を退治する代わりにコロナを退治するのだ。ただ豆をまくだけでなく、豆まきで訪れた先のお店には消毒液を配布した。
銀座の街も、コロナの影響で変わるかもしれない。例えば、2000年代には銀行の統廃合があり、不要となった銀行の店舗がブランドのフラッグショップになった。そこにインバウンドのお客さんが集まり、それが銀座の活性化につながったのだ。
苦渋の決断だったと思うが、コロナ禍で閉店した飲食店やバー、クラブが数多くある。その空間を、どう変えていくか。いま大切なのは、妄想でもかまわないので、まずはイメージを拡げることではないだろうか。「玉手箱」から、突拍子もないことにつながっていく予感がしている。
執筆:森岡督行 編集:BAKERU
ロゴデザイン:LABORATORIES イラスト:青山健一