カスタマーサポートのデジタル化を推進する、一般社団法人サポートデジタル協会は、デジタルチャネルを活用した革新的なサポート体験を表彰するイベント「Support DX Summit 2022」を10月11日に開催した。
大賞はバニッシュ・スタンダード
「Support DX Summit 2022」は、デジタルチャネルを活用した革新的なサポート体験を提供する組織を表彰するアワードイベントで、今回で2回目の開催となる。
デジタルチャネルでの顧客体験向上に取り組む企業をピックアップし、6社を選出。10月11日にノミネート企業各社がプレゼンテーションを行い、審査員5名の審議により大賞である「The Summit 2022」の授賞企業を決定した。
ノミネート企業として登壇したのは、バニッシュ・スタンダード、ビッグローブ、マネーフォワード、三菱地所レジデンス、みんなの銀行の5社で、大賞となる「The Summit 2022」には、社会課題にアプローチをし、店舗スタッフの価値を上げるサービス「STAFF START」を展開する、バニッシュ・スタンダードに贈られた。
(もう1社のノミネート企業となるアソビューに関しては、都合により欠席)
サポートデジタル協会は、授賞理由としては以下のように説明している。
バニッシュ・スタンダードが展開するサービス『STAFF START』は、店舗に所属するスタッフをDX化し、自社ECサイトやSNS上でのオンライン接客を可能に。スタッフの投稿を通じて達成されたEC売上は可視化され、スタッフ個人や所属する店舗の実績として評価に利用。
スタッフがファンを抱えて効果的な接客や継続的なコミュニケーションができる仕組みに加え、「実店舗とECの両立」「個人と組織の評価の在り方」「コロナ禍」の社会課題に対してアプローチをしたサービスという点が高く評価されました。
バニッシュ・スタンダードの薄井氏は受賞にあたり以下のようにコメントしている。
私たちはスタッフを起点としたDX化を進めてきましたが、販売・サービス業に従事する全就労人口1,650万人に対して、私たちのサービスを使っていただいているスタッフは10万人で、まだ1%にも満たない状況です。皆さんからの評価は応援していただいていると受け止め、このコンセプトをより広げられるように、店舗やスタッフが輝ける世界を作れるよように、サービスを大きくしていきたいと思います。
以下では、各社のプレゼンテーションを紹介していく。
バニッシュ・スタンダード
バニッシュ・スタンダードは、店舗スタッフのDXサービス「STAFF START」の取り組みを紹介した。サービスを開始した背景として、「ECの拡大やコロナ禍による店舗の大量閉鎖」「スタッフの働き方の課題」「情報不足によるECサイトへの不満」という3つの課題を挙げる。
そこで、「店舗スタッフがWebサイトに立つ」というコンセプトのもと、店舗にスタッフが立つように、Webサイトにもスタッフが立つような仕組みを構築。
店舗スタッフが「STAFF START」のアプリを通じて、写真・動画・ブログ・レビューを活用したオンライン接客を行えるようにし、それらの接客を通じた売上やPVを可視化することで、スタッフを評価できる環境を整えた。
スタッフの働き方の課題に対しては、店舗で接客していない空き時間にオンラインで接客ができるようにすることで、リソースを有効活用できるようになり、1人で1億円を売り上げる事例も出てきた。
さらに、スタッフにファンがつき、スタッフに会うことを目的に顧客が来店する機会も生まれた。
情報不足によるECサイトへの不満に関しても、スタッフのセンスや経験を活用した接客がコンテンツとして展開されることで、カタログスペックではない、ショッピングの参考になる情報がWebに日々展開されている。
導入企業は1,700以上のブランド、参加するスタッフは10万人を突破。オンライン接客を通じて生み出された売上は1,380億円にのぼる。(2021年実績)
ビックローブ
ビッグローブは、有人チャットサポートの取り組みについて紹介した。数百万人の会員を抱えるインターネットサービスプロバイダー事業では、サポートチャンネルとして「電話」「AIチャットボット」「チャットサポート」「メール」「FAQ」と顧客の用途に合わせた選択肢を用意している。
DX推進の取り組みの一環で、4年前からAIチャットボットの導入を進めているが、今回はあえて有人チャットサポートの取り組みを紹介。
解約率が高いことから、通信事業者の中で重視されているという解約時のリテンション。顧客とのコミュニケーションが取りやすい「電話」をメイン業務に据えているが、テキストでのコミュニケーションであるチャットで、顧客の心に寄り添った対応をどこまでできるかに取り組んだ。
これまで「サポート対応」が中心だったチャット担当に、営業のマインドを醸成することに加えて、スクリプトを工夫。解約の問い合わせがあったときにすぐにリテンションをかけるのではなく、まず解約手順を案内してからリテンションをかけるようにしたことで、成功率が約2倍に上昇したという。
これに加えて、チャット誘導経路の見直しと、解約の問い合わせ時の得手・不得手を考慮し、最適な担当者への接続も行った。
その結果、リテンション成功率は2.2倍、チャット解決率は1.3倍、ノンボイス比率変化2.1倍に向上、結果的にチャット担当者のモチベーションもあがった。ほかにも、SNS上の辛辣なコメントが減少したほか様々な効果が出ている。チャットでの事後アンケートでの満足度向上が見られたという。
マネーフォワード
マネーフォワードは、「マネーフォワード クラウド経費」による経費精算業務のDX化について紹介した。
経費精算システムは、多くの従業員が利用することから導入による影響範囲が大きく、DX推進にあたり3つの壁があったという。それは「業務整理が難しい」「設定作業だけに集中できない」「従業員教育の準備が大変」ということ。
「業務整理が難しい」に関しては、現行業務が標準化されていないゆえに、業務整理が困難になっていたことから、マネーフォワードがこれまでの導入実績で培ったベストな業務フローを用意。標準化された業務フローをベースに業務のすり合わせを行うことで、業務整理を低コストかつ短期間で完了できるようになった。これにより、システム導入だけでなく「業務の標準化」も実現した。
「設定作業だけに集中できない」に関しては、経理担当者の日常業務を止められないため、設定業務にまとまった時間を取ることができない課題があったことから、都合の良いタイミング・場所で利用できるEラーニングシステムを導入。
「従業員教育の準備が大変」という点に関しても、従業員マニュアル・説明会動画を用意し、場所や時間を問わずに学習できる環境を提供することで経理担当者の負担を大幅に低減した。
三菱地所レジデンス
三菱地所レジデンスは、「ザ・パークハウス」の取り組みとして、デジタルツインの冨永愛さんを起用した新しいオンラインルームツアーを紹介。同社は、最新のテクノロジーを活用し「顧客体験」の革新を実現するべく、「ブランドプロモーション」から「居住後」に至るまでのカスタマージャーニー全体に対するDX化の取り組みを進めている。
取り組みとしては、不動産販売において膨大な書類や手続きが顧客の負荷となっている点をデジタル化で軽減しているほか、「Machi-Pass」による認証基盤・IDの共通化、スマートホームサービス「HOMETACT」の導入などを進めている。
この中で、最初のタッチポイントとなるブランドプロモーションに関しては、高額な買い物にも関わらず、 CMや動画配信などは一方通行になりがちだったことに課題を感じていた。
そこで、住宅に関する取り組みや考え方への理解を促進し、ファンになってもらうコンテンツとして「SUPER MODEL ROOM」を展開。3DCGにより再現されたデジタルツインの冨永愛さんがルームツアーの案内人となり、自由にデジタル上のモデルルームを見て回れるコンテンツとなっている。
同Webサイトのページ滞在時間は平均で5分となり、15秒の動画を見てもらうことも大変な中でこの滞在時間に手応えを示していた。
みんなの銀行
みんなの銀行は、全国のデジタルネイティブ世代向けにモバイル専業で展開するデジタルバンク「みんなの銀行」の取り組みを紹介。
デジタルネイティブ世代がこれから日本の中核になっていく中で、一般的に銀行が持たれているイメージである「手続きが煩雑で面倒」「金融は難しい」「お堅い」といったものは、未来の銀行の顧客ニーズにマッチしないのではないか、という点に着目し、店舗レス・通帳レス・印鑑レス・営業時間レス・キャッシュレスといった、一般的な銀行に普通はあるものをなくした新たな銀行を展開している。
2021年5月にサービスをリリースしてから、アプリは100万ダウンロード、口座数は40万件開設されている。(2022年5月末時点)
以上がプレゼンテーションの紹介となる。一般社団法人サポートデジタル協会は今後に関して、「次回は、アワード形式のプレゼンテーションに留まらず、対面で議論するような場をもつくりたいと考えております。今後も本イベントをパワーアップさせ続け、参加者の皆さんに新しい情報を届けられるよう、尽力してまいります」とコメントしている。