XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年4月12日から4月15日の放送では、森岡書店のCXを紹介した。銀座に一号店を構え、「1冊の本」の販売を中心にイベントやギャラリーなども開催している。放送では、書店が生まれた経緯や場を通して生まれたもの、今後の展開などを代表の森岡督行氏に伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
90年以上の歴史ある場所で、一冊の本を紹介したい
――最初に、森岡書店がどのようなきっかけで生まれたのか教えてください。
アイデアを思いついたのは、2007年です。当時は、別の場所で書店とギャラリーを運営していたのですが、 新刊の発売をしたときその本にお客様が集まる光景が印象的で。「この1冊の本があれば、他の本がなくても書店は成り立つのではないか」と思ったんです。
本屋によっては、数万冊の在庫を持つケースもあると思います。しかし、それと同じように1冊の本に深みも存在する。そこに着目し、「1冊の本を売る書店」を誕生させました。
――お店作りをするときは、どのような点を工夫されましたか?
お店作りにおいては、黄金比と呼ばれる比率を空間に落とし込んでいます。どのような本を置いたとしても調和し、多様なお客様が喜んでくださるようにと願いを込めました。
森岡書店が入っている「鈴木ビル」は1929年(昭和4年)に建設された古い建物なんです。昭和14年から編集プロダクションの「日本工房」がこのビルに入ったと聞いています。
当時の対外宣伝誌を作り、有能な人材が集まっていたそうです。たとえば、写真家の土門拳や1964年に行われた東京オリンピックのエンブレムマークをデザインした亀倉雄策など。また、そこに集っていたメンバーが、戦後のデザインや出版の礎を築いていった歴史的背景があります。そのような場所で、現代の本を紹介する仕事に意義を感じています。
店舗でのコミュニケーションをきっかけに、本を出版
――森岡書店は、1冊の本が置かれているだけでなく、さまざまなイベントやプロジェクトが派生する場にもなっているそうですね。
とても幸運なことに、さまざまな仕事をするようになりました。たとえば、洋服のプロデュースや工芸作家へのインタビュー、最近だとチョコレートの開発もしましたね。
これからの取り組みとしては、7月に『なぜ戦争をえがくのか』という1冊の本をテーマに、企画展を行います。企画展では、戦争を描いたアーティストを毎日お迎えし、「戦争って何なんだろう」「戦争はなぜ起こるのか」などのテーマでイベントを行います。
――森岡書店で生まれる体験の中で、印象に残っていることはありますか?
森岡書店に来店したことをきっかけに、お客様が本を出版するといったケースがあります。場当たり的な出会いから何か新しいものができることは、一つの醍醐味ですね。
直近の例では、エシカル協会代表理事の末吉里花さんが、『じゅんびはいいかい?』という本を作りました。その販売をしていたとき、ICUの学生の方々が興味を持って来てくださって。「英語の翻訳本があったら良いのではないか」と私が話したところ、実際にその本を英訳してくれたんです。その後、山川出版社が出版してくださったということがありました。
世界の不思議をきっかけに、学びの楽しさを知ってほしい
――3月には、森岡さんが作られた絵本『ライオンごうのたび』が、あかね書房から出版されました。どのような思いで今回の絵本を作られたのでしょうか。
世界に存在する不思議を「不思議」と思うところから始めたら、学校の勉強がより自分事になったのではないのか。それを娘に伝えたくて作ったお話をベースに作りました。
私自身、小学校、中学校、高校と勉強しましたが、楽しいと思えたことは少なかったです。学びの楽しさを実感できたのは、随分と大人になってからでした。「宇宙はどこまで広がっているか」「人間は何からできているのか」「生きる目的は」といった日々の不思議が土台にあり、さまざまな人が探求した結果、勉強が生まれてきたのではないかと思います。このことを「もっと早く知りたかった」という思いが、大人になってから芽生えたんです。
――この絵本のストーリーも少し教えていただいてもいいですか?
『ライオンごうのたび』は、ライオンが絶滅してしまった近未来の話です。近未来の子どもたちが、「ライオンは、どんな動物だったのだろう?」と、その痕跡を巡る旅に出ます。
たとえば、宇宙で獅子座を観察したり、海でシーライオンというアシカを見たり、フランスのショーヴェ洞窟にある太古の壁画に描かれたホラアナライオンを見に行ったり。最後に、ニューヨークの図書館にある1冊の本から本物のライオンを見つける、そんな物語です。
この絵本で伝えたいメッセージは、世界の不思議をどう楽しむのかもそうですが、気候変動へのアクションも促進したいと思っています。現状、気候変動は私たちのテーマの一つです。物語の中で直接語るわけではありませんが、感じ取ってほしいという思いがあります。
後世に自分のメッセージを残す役割としての「本」
――森岡さんは、実店舗の本屋についてどのような大切さを感じているのでしょうか。また、コロナ禍における書店の運営について教えてください。
本屋は、本を買いに来るだけではありません。家のドアを開けて外に出るところから帰宅するまで一連の流れがあり、そこで得られる体験が大切だと思っています。森岡書店が目的地だけれど、その前にレストランでご飯を食べたり、銀座の街を歩いたりするなどの行為から得られるものがあるのではないでしょうか。とはいえ、コロナ禍でライブやトークイベントは開催できなくなってしまったので、現在は毎週のようにオンラインで開催しています。
――ありがとうございます。最後に、今後の森岡書店について教えてください。
コロナ禍で、出版記念イベントの開催ができなくなってしまいました。その中で、やはり自社の商品や本が必要だと痛感しています。もともと本も出版していましたが、今後はその活動を大きくしていきたいです。やはり、ここ数年で本というメディアの在り方も随分変わってきました。「後世に何か自分のメッセージを伝えたい」 そう思ったときの手段として、本がより役割を果たすようになってきていると感じていますね。
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