XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年5月24日から26日の放送では、デザイナーのナガオカケンメイ氏によって創設された「D&DEPARTMENT PROJECT」のデザイン観光ガイドブック「d design travel」のCXを紹介した。同誌は47都道府県それぞれの個性を、ロングライフデザインの視点からまとめた観光ガイド。編集部が本当に感動したものだけを紹介しているのが特徴だ。
放送では、d design travel編集長の神藤秀人氏に、D&DEPARTMENT PROJECTの取り組みをはじめ、d design travelならではの本の作り方や今後の展望などを語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
ロングライフデザインの視点から、地域の「個性」を伝える
――最初に、D&DEPARTMENT PROJECTの取り組みについて教えてください。
2000年にデザイナーのナガオカケンメイによって創設された、「ロングライフデザイン」をテーマとするストアスタイルの活動体です。47都道府県に1か所ずつ拠点を作りながら、物販と飲食、観光ガイドブックなどの出版業を行っています。グッドデザイン賞の中にも「ロングライフデザイン賞」と呼ばれるものがありますが、ロングライフデザインは名前のとおり、「長く使われていて愛されている、普遍的なデザイン」です。僕たちは形状やデザインだけではなく、周りにある産業や暮らし方なども含めてロングライフデザインと考えています。
――神藤さんが編集長を務めるd design travelは、どのような発信をしているのでしょうか?
d design travelは1冊につき1県を特集したガイドブックです。もともとD&DEPARTMENT内の一つの部署として立ち上がった活動なんです。47都道府県それぞれにある「その土地に長く続く個性」をロングライフデザインの視点からまとめています。
冊子の制作に加えて、渋谷ヒカリエにある店舗で展覧会も開催しているので、その土地のことを知ったり、旅をしたりするきっかけにつながればいいなと思っています。都道府県ごとに平等に紹介しながら、僕たちが大切にしているロングライフデザインと掛け合わて、残り続けて欲しいものを今後も残していけるよう、伝え続けているという活動の一つです。
「地域らしさ」を見分けるために。2ヶ月間の住み込みで作成
――d design travelは作り方がとてもユニークだと伺いました。どのような本作りをしているのか教えてください。
まず取材をする地域で、「公開編集会議」というワークショップを行います。地元の方々に集まってもらい、「皆さんだったらこのトラベルガイドで、どういったところを紹介しますか」といったようなテーマで意見交換をします。
その後、編集部は現地に約2ヶ月間住み込みながら、実際に候補として挙がったものや場所の取材を始めます。基本的には現地で宿を借りたり、ゲストハウスを回ったり。たまには普通にアパートを借りて、地元に住み込みながらいち旅人として巡っていきます。本当にその土地ならではのモノづくりなのか、それともただの東京のコピーなのか、きちんと見分ける必要があるからです。
――取材する場所を地元の方たちと話し合う、公開編集会議というワークショップを開催しているんですね。こちらに参加した方々には、どのような発見や体験があるのでしょうか。
d design travelに掲載するのは、ただかっこいい、ただデザインが優れているだけではなく、暮らしや産業にきちんと結びついていて、かつデザインに優れているものです。たとえば、よく行っているお店だとしても、「そこは本当に地元らしいお店なのだろうか」を考えます。もしかしたら東京のコピーかもしれないし、別にその地域にいなくても食べられるかもしれない。
そういう視点を地元の人が養うことによって、「本当だったらこういう食事を出したほうがいいのではないか」「こういうモノづくりをもっとしていったらいいのではないか」など、地元の人にとっても新しい発見につながっていると思います。また、地元の人が将来お店を作る際に、そこでの発見が生きることもあるそうです。
「かっこいいものを作って、たくさんのお客さんが来る」ということは、基本的には流行でしかないんです。そうではなく、10年後、20年後、もっと言えば100年後にも、しっかり残っていけるような場所を一緒に作っていきませんか、という考え方を共有するようなワークショップでもあるんですよ。
レビューページでのこだわりは、「感想7割」と「情報3割」
――読んでいると、観光地、レストラン、ショップ、カフェ、ホテルといったジャンルに加えて、人物が取り上げられているページもありますね。中身もいわゆるガイドブックとは異なりますが、どうしてこのような切り取り方をしているのでしょう?
観光とは、「地域の光を見る」ということ。その土地のいいところを学んで、それを自分の地域に落とし込むということが、観光なのではないかと思っています。僕たちはレジャーや遊びの旅行ではなく、もともとの観光の意味を大事にしたいと思い、制作をしています。
d design travelで人物にフォーカスしたページを作るのも、場所だけではなく、地域のキーマンや人々の活動を伝えるのが一つの観光だと捉えているからです。
――ガイドブックを読んだ人からはどのような反応が寄せられているんでしょうか。
「その土地に行った気持ちになる」と、よく言われます。僕の体験でいうとガイドブックだけでは、その土地に行った気分は十分に味わえない気もしていて。どちらかというと、紀行文や小説、エッセイを読むほうが不思議と行った気分になるんですよね。
d design travelのこだわりとして、レビューページでは、一つの美術館やレストランを見開きで紹介するのですが、そこの原稿もきちんと僕やナガオカが書いているということが読者に伝わるようにしています。オススメのポイントばかりを書いているのではなくて、7割くらいは感想を書く。情報はインターネットを見たら分かることなので、あまり載せないようにしているんです。感動体験を7割書いて、情報を3割にとどめようという気持ちで作っています。
市町村単位での魅力も伝えながら、47都道府県の制覇へ
――渋谷ヒカリエの8階では、「d47 design travel store」や「d47 MUSEUM」「d47食堂」も展開されていますよね。それぞれどんな体験ができる場所なのか教えてください。
d47 design travel storeは、編集部が旅して出会った食品やプロダクトが購入できる場所で。昔取材させていただいた方々が来て、ワークショップを開いてもらうこともありますね。いわばトラベル誌のショップという形態です。
d47 MUSEUMは、様々な講演、実演、販売、体験、ワークショップなどが連動した、今の日本を実感できるデザイン物産美術館です。まさにd design travelを立体的にしたような場所で、掲載した美術品やその土地で使っている暮らしの道具などを借りて、展示しています。「こんなの展示するの?」と言われるようなものも、借りてきて展示することがありますね。
d47食堂は、地域の食材や食文化を「定食」という形式で、楽しく、美味しく47都道府県の個性と魅力を伝えています。定食は県ごとに作っていて、いろいろな土地の郷土料理を生産者の方々に学びながらメニューにしています。常時4~5種類ほどは食べられるようにしていますね。
――ありがとうございます。最後に、d design travelが目指すことについて教えてください。
一番は、47都道府県の本を作り、全国制覇することを目指していこうかなと思っていて。実は、富山号の作成がもうすぐ始まるんです。富山県は8年前に1回作っているのですが、その続編を作成します。1県1冊作っていこうとは言っていますが、県だけではなく、市町村単位でのワークショップ号ができてきているのも特徴です。1県で終わらず、県ごとで次のステップがあるのもなかなか変わったトラベル誌かなと思っています。続編はより地元の人との関係性って強くなっていくので、一緒に記事を作成したり、取材に入ってもらったりしたいですね。
東京がいいとか、富山がいいとか、北海道がいいとかではなくて、やはりどの県にも魅力はあって。僕たちはその魅力を常に発信し続けることが目標であり、使命だと思っています。
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