XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年7月19日から22日の放送では、創業70年のミシンメーカー「株式会社アックスヤマザキ」が届ける、ミシンを通した「手作り体験」について紹介した。ミシン離れが加速している近年に「もう一度、ミシンを一家に一台!」を掲げ、子育て世代の声をていねいに拾って生まれたのが「子育てにちょうどいいミシン」。
放送では、代表の山崎一史氏に、このミシンの開発のきっかけや反響、今後の展望などについて語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
コロナ禍でおうち時間が増えたことでミシンが再注目される
——「子育てにちょうどいいミシン」は、どのようなニーズから生まれたのでしょうか?
私は2005年に家業のアックスヤマザキに入社してから、ミシンを使っていない方の声を数多く聞いてきました。すると「ミシンは難しくて面倒だし、置く場所に困る」などのネガティブな声が多い一方で、「実はミシンを使ってみたい」という方もいることがわかります。
ミシンメーカーとして課題を解決すれば、ミシンを使っていない層に振り向いていただけるかもしれないと思いました。そして何かと裁縫する機会が多い子育て世代にターゲットを絞り、「これなら簡単に使える」と言っていただけるように作ったのが、「子育てにちょうどいいミシン」です。
私の家庭でも、娘の幼稚園入園時に防災頭巾や入園バッグを作る機会がありました。今は買って済ませることもできる時代です。しかし娘に好きな生地を選んでもらい、その生地を使って妻がバッグを作っていく様子を、娘が夜寝ずに正座してずっと見ていたんです。
そしてバッグができ上がったときに「私の選んだ生地がバッグになった!早く持って行きたいな」と言った娘の嬉しそうな顔。それを見て「ミシンで手作りしてよかった」と言った妻の感慨深い顔。私はこれらを目の前で見て、ミシンメーカーとしてこういう体験を世の中にもっと広めたいと思いましたね。
——このミシンが発売されたのは2020年3月で、コロナ禍というタイミングでした。どのような影響がありましたか。
この時期はちょうどマスクが買えなくなった時期ですよね。ならば自分で作ったらいいじゃないかと手縫いから始まり、次に「ミシンの方が楽ではないか」と、ミシンで作ることが広まっていきました。
また、今までミシンをやらない理由の一つが「時間がない」ということでした。しかし在宅時間や、子どもと一緒に過ごす時間が増えた結果、何か手作りしてあげたい、作っている過程も見てほしい、一緒に作りたいというニーズが高まってきました。例えばクッションカバーやまくらカバーなど、日常で使う身の回りの物を手作りされる方が増えていると聞きますね。
機能はよりシンプルに、でも安全性とこだわりが詰まったとことが“子育てにちょうど良い”
——どのような点が“子育てにちょうど良いのか”なのか、詳しく教えて下さい。
まず、子育て世代の方はミシン初心者が多いということを重要視し、余計な機能はつけずにシンプルな機能に特化しました。外見のデザインからもわかるように、余計なボタンや操作部品はありません。
また「子どもがミシンの針部分をさわると怖いから、子どもが寝てからでないと使えない」という声もあったので、針ガードを搭載しました。これにより親御さんが席を外しても子どもは針の部分をさわれません。さらにガードを外すとスマホスタンドになり、作り方動画を見ながら操作できます。
5種類・12パターンのステッチや、足で操作するフットスイッチ、縫う速さを調節するスイッチなど必要最低限の機能を搭載しています。赤ちゃん用小物や、通園・通学グッズといった簡単な物に的を絞ることで、親御さんが感じる不安やつまずくポイントを払拭しました。
——外見のデザインにへのこだわりも教えてください。
このミシンのコンセプトは「置いて見せたくなるミシン」です。デザイン家電のように置いておきたくなるようなデザインを重視しました。ミシンはどれも同じ製品に見えたり、生活感があるために隠す対象になっていたりしたので、見せたくなるかっこいいデザインにこだわっています。
ユーザー層の声を聞いていると、共通して出た言葉が「色はマットブラックがいい」だったんですね。これを参考に、つや消しした黒いカラーにしました。そしてミシンは出し入れが面倒ということもよく言われましたので、本棚に入るサイズで重さも2.1キロ、片手でぱっと取り出せるという手軽さを実現しました。単3アルカリ乾電池4本でコードレスにもできるので、どこででもミシンを使っていただけます。
ミシンの難しさを作り方動画で解消し、体験を大きく変える
——機能をシンプルにしただけでなく、子育て世代に使ってもらうため、他にどんな点を工夫されましたか?
まさに、一番の強敵が「難しい」ということでした。なぜ難しさが強敵かといいますと、上糸と下糸をかけるというミシン本体の構造は、160年以上変わっていないんですね。それをどう簡単に思っていただけるのか、ずっと悩んでいました。
ある日、自宅で妻がスマホで料理の作り方の動画を見ながら調理していたのを見て、これだ!と思いました。作り方動画をミシンに取り入れたら、ミシンも同じように簡単に使ってもらえるのではないかとひらめいたんです。
しかしミシンに動画機能を搭載すると、大きくて高いミシンになってハードルが上がってしまいます。そこでアックスヤマザキのホームページに作り方動画を掲載し、QRコードで飛んでいただくようにしました。その動画を見ながら、ミシンで簡単に物作りができるようにしました。
ミシンや料理に共通するのは、工程全体のどこにいるのかがわからなくなること。そこで、今どこを縫っているかを表示したり、作り方の全体感がわかるような動画にしたりするのを重要視しました。
——動画を導入したことで、ミシン体験が大きく変わったそうですね。
昔はミシンをお母さんやおばあちゃんが教えてくれて、それがハードルを下げる要素になっていました。当たり前のようにミシンがあり、使い方を教えてもらえる文化があったんです。今は周りを見ても、ミシンを教えてくれる人はなかなかいませんよね。
しかし動画なら、何かにつまずいても何度でも遠慮なしに見られ、人に何回も聞くのと同じように、何回も動画で確認して自分のペースで作れます。これは紙の作り方説明書では補えないポイントだと思っています。
下手でもいい。手作りを自慢し合える世の中に
――山崎さんが考える「手作りの醍醐味」とは何でしょうか。
作るのが下手で形が変だったとしても「これ自分で作ったの」と見せ合えて「いいね」と言い合えるのが、手作りの一番の醍醐味だと思っています。日常生活や特別なイベントのために当たり前のように手作りをして、それが誰かのため、もしくは自分のためになって、お互い自慢し合える。そんな世の中になってほしいと思っています。
――最後に今後の展望について教えてください。
私自身、今まさに子育て真っ最中です。狭いマンションなのでそんなに大きい物は置けないですし、ミシンは本棚に入っています。そうやって自分の生活に置き換えて、製品を作るようにしています。
アックスヤマザキはミシンメーカーの中で老舗に当たりますが、柔軟に動ける点が大きな強みです。2020年から手作りの価値が見直されて、ミシンを使って手作りされる方が増加しました。これから振り向いていただける方も数多くいらっしゃるでしょう。そんな方々の声を一つひとつ聞きながら、ミシン市場を再構築していきたいと思っています。
そしてミシンメーカーという立場から世の中に目を向けて、社会課題を解決できるような、世の中の役に立てるようなもの作り・こと作りをしていき、もう一度ミシンが一家に1台ある状態を目指していきます。
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