XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年8月9日から12日の放送では、老舗の文具メーカー「セーラー万年筆」を紹介した。創業110周年を迎える同社は、これまで長きに渡り受け継がれてきた歴史や精神性を継承しながらも、時代に即した進化を続けている。
放送では、セーラー万年筆株式会社 常務取締役の耒谷元氏に、創業のきっかけや万年筆で文字を書くという体験、そしてペーパーレス化が加速する今後の万年筆のあり方について語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
イギリスのお土産だった万年筆が日本を誇るブランドへ
——はじめに、セーラー万年筆の誕生のきっかけについて教えて下さい。
110年前の1911年、セーラー万年筆の創業者である阪田久五郎が、画びょうやクリップなどの金属文具を作り、海軍に納めていたのが事業の始まりです。
同年に、阪田の友人である海軍将校の白髪長三郎が、イギリス留学から広島に帰国した際、お土産として万年筆を持って帰ってきました。その頃は、筆やつけペンなどはありましたが、万年筆を体験する機会はありませんでした。そこで、「こんなすばらしい筆記具があるのなら、ぜひ自分で作り使ってみたい」ということで、ちょうど110年前の1911年に初めて日本で作られました。
当時は、セーラーというブランドではありませんでしたが、呉の海軍の水兵たちに使ってもらいたい思いを込めて、セーラーという名前をつけたというふうに言われています。
——今年、セーラー万年筆の本店が広島の呉市に移転しました。これにはどんな思いが込められていたのでしょうか。
われわれはメーカーですので、ものづくりが根幹、いわば心臓になるわけです。そのため、ものづくりの拠点がわれわれの本店であるべきだと考え、広島の呉市に本店を戻すことにしました。コロナなどの関係で1年遅れで来年完成予定です。新しい工場ではユーザーの皆さんに実際に万年筆が作られている工程を見ることができるようになっています。工場見学などを通して、より万年筆に親しんでいただき、自分でも使ってみたいなと思っていただきたいですね。
万年筆は自分の個性が出る筆記具である
——万年筆で“文字を書く”ことで、どんな体験が得られるのでしょうか。
よく万年筆を使いきれいな字を書きたいとおっしゃる方がいるのですが、実は結構難しいんです。きれいな字を書くための筆記具というよりも、“自分の個性が出る筆記具”と捉えていただきたいなと考えています。
万年筆は、角度のつけ方や力の入れ方だったりで、線の幅がさまざまに変わってきます。そのため、使いこなすには難しい部分がありますが、それだけに自分の手になじんでくると、個性を持った文字を書くことができます。これがボールペンやシャープペンシルなどと一番異なる点ですね。
——個性が出る筆記具。書くだけにとどまらない体験ですよね。では、そんな万年筆はどんなときに使うのがおすすめですか?
丁寧にとか、気持ちを込めてという時などではなくて、自分の心に浮かんだことを紙に書いてみたいときに万年筆を使っていただきたいです。そうするとその日の気分や心の持ちようによって字が変化します。「この日はこんな気分で書いたんだな」「この日はこういうことが頭に浮かんでたから」と書いたものをあとで見返したときに、こんなふうに感じたりすることができる筆記具だと思います。
パーツやインクをカスタマイズしてオリジナルの万年筆を作れる店舗がオープン
——今年3月、イタリア語で「いかり」「もう一度」という意味を持つancora(アンコーラ)というお店を銀座にオープンされたそうですね。
この「ancora」は、「自分だけの文房具が作れる体験ができる場所」ということをコンセプトにしています。ペン先、蓋、胴などのパーツを自由に選び、好きなインクを組み合わせることができる万年筆、オリジナルの紙を使ったスケッチブックなどが作れる場所になっています。万年筆は、万年筆は20万通りの組み合わせを作ることができるので、誰一人とかぶらない自分だけのアイテムを作ることができます。よくご友人同士やカップルで来られたりするお客様が来店され、組み合わせ方を楽しみながらペアで作られたりする場面をよく見かけますね。
——店頭に並ぶカラフルなインク瓶に惹かれて、入店される方も多いそうですね。
ディスプレイしているインクは、店舗を作るにあたり、オリジナルで全部ブレンドした色です。前を通りかかられた方から「化粧品のお店ですか」と言われることもあるんです。「万年筆やインクを売っている文房具のお店です」とご説明すると意外な顔をされて。そのなかには、万年筆を使ったことがないとおっしゃって、一度試してみたいということで、そのまま店内に入っていただける方もたくさんいらっしゃいます。
一般的な文房具店だと、ショーケースに万年筆が並んで、お店の方に出してくださいとお願いしないと試すことができず、試したいけど躊躇していますという方がたくさんいらっしゃったと思います。もっと気軽に万年筆の体験ができるように、この店舗では自由に試し書きができるようにディスプレイしており、インクも200色ほど用意しています。
心を震わすものづくりを通して、デジタルにはできない付加価値を
——ペーパーレス化が進んでゆく現代において、万年筆は今後どうなっていくとお考えですか?
コミュニケーションツールとしては、デジタルのほうが便利ですよね。ただ、自分の心の中のことを人に伝えたり、あるいは自分の心の中に浮かんだことを書き留めたりというときに、デジタルツールで指を動かして書き込むよりは、万年筆で文字を書いて伝える。自分のそのとき心に浮かんだことを、気持ちとともに書き留めるという意味では、万年筆が一番心を映し出す器具として最適ではないでしょうか。これからも皆さんが、デジタル社会でも万年筆は残り続けるのではないかと思っています。
——今後の「セーラー万年筆」が目指していくことについてについて教えて下さい。
去年、新しいコーポレートアイデンティティを掲げました。そのなかに、「真・技・美」という三つの言葉があります。それらを突き詰めることで、より人々の心を震わす、自分の頭に浮かんだことを表現できる、そういう役割を果たしていけるメーカーであり続けることができると信じ、万年筆を作り続けていきたいと思っています。
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