XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年12月20日から12月23日の放送では、農業の体験をより楽しむために、畑の地主と利用者をマッチングするプラットフォーム「ハタムスビ」のCXを紹介した。都心の小さな畑を、スマホから最短5分でレンタルできるサービスだ。運営しているのは、耕作放棄地の活用や農業の経営支援など、全国で様々な農業に関するサービスを展開している、マイファーム。
放送では、同社の西辻一真氏に、ハタムスビのコンセプトや、新たな農業体験、今後の展望について語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
楽しみながら農作物を育て、食べる「自産自消」へ
――最初に、「ハタムスビ」というサービスについて教えてください。
コロナ禍で、畑で野菜づくりをしたい人が都市部を中心に増えています。そういった方に向けて、自宅の庭やビルの屋上、農地、牧場など、未活用の農地を所有する地主が気軽に貸し出せるサービスです。
ハタムスビで農地を貸し出したい地主は、「ハタムスビBOX」というIoT端末を搭載したボックスをその農地に設置します。これによって、ウェブで農地の場所を把握したり、農地の状態を調べたりするなど、データを通して畑での野菜づくりをより楽しむことができます。
――農業の体験を通して、利用者にどのような価値をお伝えしたいのでしょうか?
マイファームのコンセプトは、「自産自消」できる社会を作ることです。自分で野菜を作ることで、新たな発見を得られることがあります。この経験をハタムスビを通してたくさんの人に味わってほしいと思っています。
従来の農業は、「作って食べる」ことが目的でした。それが今では、農業体験することで、作る過程を通して得られる喜びが「自分の価値」に変わっています。だから、農作物をたくさん収穫するのではなく、楽しみながら育てることが大切です。その副産物として、育てた野菜を食べられれば、一石二鳥ですよね。これが農業体験の良いところです。
――実際に、畑を利用される方はどれほどいらっしゃるのでしょうか?
弊社では、ハタムスビの他に「体験農園マイファーム」という貸し農園サービスを提供しています。両方のサービスを見ても、私たちが管理している全ての農地に対して8割以上が利用されている状況です。新型コロナウイルスが流行する前は6割程度の利用率でしたが、今では空きがほとんどありません。それだけ大きな反響があることをわかって頂けると思います。
初心者でもOK。農園アドバイザーが、ながら農業をサポート
――ハタムスビでは、農業初心者でも安心して野菜づくりを楽しめる仕組みがあるそうですね。
「ハタムスビチャット」というライブチャット機能があります。これは「虫がついているけれど、どうしたら良いかわからない」「肥料をどれだけ与えたら良いの?」など畑を利用する方の疑問に対し、コーチと呼ばれる農業のプロにオンラインで気軽に相談できるサービスです。マイファームに所属するアドバイザーはもちろん、一般の農家の方もアドバイスが可能です。自分の知識を生かして副収入を得られるため、新たな価値につながるのではないかと考えています。
実際に、体験農園マイファームでアドバイザーをされている方の多くは、もともと利用者でした。3、4年と農業を経験し、次のステップとしてコーチになる。ハタムスビでも同じように利用者からコーチが生まれる仕組みを作ろうと、「ハタムスビ広場」という利用者やコーチ同士がコミュニケーションできるサービスを準備しています。
――コーチが持つ知識や経験を共有することで、利用者に新たな体験価値を届けているのですね。ハタムスビや体験農園マイファームは、どのような方に利用されているのでしょうか?
これまでは会社を退職した方に利用されることが多くありました。しかし、コロナ禍では、子供の教育のために仕事をしながら始められる方や、ご自身の第二の人生を考えて農業を始めるなど「ながら農業」をしたいと思われる方が増えてきました。
そのニーズに応えようと、始めから農作業するための道具をつけたり、IoT端末を活用して楽しめる仕組みを構築したり、コーチが農作業をサポートできるようにしたりするなど、農業を始めるハードルを低くしました。その結果、需要が生まれたんです。
最近では、各自治体と連携して食育の講座を開催しています。申し込みをスタートした時点で満席になるので、非常に多くの関心を集めているのではないかと思います。
マイファームでは、農業の楽しさを感じて頂くためのハタムスビや体験農園マイファームの他、より本格的に農業を仕事にしたい方に向けて「アグリイノベーション大学校」も運営しています。さらに農家になりたい方のために、経営サポートや事業化支援も行っています。こういった一気通貫のサポートが私たちの大きな特徴です。
未活用の土地を有効活用し、農業をもっと身近に
――農業を手軽に楽しんでもらうために、他にも工夫されていることがあるそうですね。
農業を諦めてしまう多くの原因は、畑までの移動距離だと考えています。農業にすごく興味があれば、たとえ遠いところに畑があったとしても行くと思います。一方で、興味が薄れてきたら、近くに畑がないと辞めてしまう。
つまり、住居空間から畑が近ければ、たとえ農業に対する興味が薄くても長く続けられると思うんです。郊外にある農地を借りたり、お家でプランター栽培したりする方法がある中で、ハタムスビはその間を取って、より手軽に農業を始められる仕組みを提供しています。
――確かに、畑までの移動距離と農業に対する興味の度合いは反比例するように感じます。西辻さんご自身も、農業に対する不便さを感じたことはあるのでしょうか?
私は、高校生の頃から農家になりたいと考えていました。ただ大人になるにつれて、農地を借りにくい、儲からない、技術が難しいなど、いくつものハードルが現れました。そういったハードルを下げることができれば、農業の世界に参入しやすくなるのではないか。そこで、農業にまつわる事業を展開することを決めました。
――都市部の農地をシェアすることで、週末に野菜作りを楽しめるだけでなく、通勤途中に畑に寄ることも手軽にできますね。
そうですね。私たちは「日本中にある使われていない農地を再生させる」ことを目標の一つに掲げています。都市部、山地、山の間のそれぞれで事業を展開しており、なかでも都市部は、ハタムスビが大きな役割を担っています。
これまで、自治体が運営する市民農園はありましたが、自治体を横断して申し込むことはできませんでした。そこで参入したのが、ハタムスビです。
また、ハタムスビの利用料は月額3,000〜8,000円程度です。自治体が運営する市民農園は、年間1万円程度のため、ハタムスビの利用を検討される方の中には「約10倍も値段が高いじゃないか」とおっしゃる方もいます。しかし、土地のみを貸し出す市民農園と比べて、ハタムスビには、農業を始めるための道具や、農業のプロであるコーチがついています。さらに、IoT端末も利用できるんです。こういったところが私たちのサービスの大きな特徴となっているため、全く別のサービスだと捉えていただければと思います。
自然を大切にする第一歩として、畑に触れる体験を届けたい
――コロナ禍で地方に移住し、リモートで働く方も増えています。こうした変化の中で、農業とどのように向き合ってほしいと考えているのでしょうか?
自然を通して「育てる」体験をしてほしいと思います。なぜなら、「作る」と「育てる」は別物だからです。「作る」とは、自分が主体的となって、作り上げることです。例えば、土器を作ったり、料理をしたりするなど。
一見すると、農業も「作る」に見えるかもしれません。しかし、私は「育てる」ことだと考えています。農作物をきちんと観察しながら、彼らの発するシグナルを受け取り、対応していく。しかも、農作物の方も私たちを育てる、そういった両方向の関係性があるのではないでしょうか。
――最後に、ハタムスビが届ける今後の体験について教えてください。
都市部で暮らす方には、ぜひ農業の体験を通して「待つ」ことの大切さを知ってもらいたいです。東京では、瞬時の判断を求められることが多くありますから、待つことが苦手になっていると思います。
農業の世界に「晴耕雨読」という言葉があります。雨が降っている時は、晴れを待ちながら、何をするかが問われます。それを都市部の人も感じることができれば、世の中がきっと変わってくるのではないか。自然を大切にしながら生きていく姿は、私たちが目指すべき方向性です。巷では脱炭素社会やSDGsなどと言われていますが、一番取り組みやすい接点は「畑に触れること」ではないでしょうか。
今後も農業を始めたい人のハードルを下げ、継続できる仕組みをハタムスビを通して追求していきたいですね。
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