2019年4月17日、虎ノ門ヒルズにてCXプラットフォーム「KARTE」を提供するプレイド主催で、最先端のCX(顧客体験)を学び、体験できるカンファレンス「CX DIVE」が開催された。
昨年9月のカンファレンスでは「BORDERLESS」をテーマに、様々な業界で活躍するスピーカーが登壇、CXについて様々な知見が共有された。第二回のテーマは、越境よりさらに踏み込む。今回は、境目が溶け合う「THE SEAMLESS WORLD」がテーマだ。当日は、CXというテーマに向き合う800名を超える来場者が虎ノ門ヒルズに集った。
「良いCXやそこに宿る思考に徹底的に触れる時間を作りたいという思いから、CX DIVEは始まりました。最先端のCXに宿る思考や感情にDIVEし、学び、行動するが今日のテーマです。セッションの中には、なかなか『答え』までは到達できないような内容もあると思います。そういったテーマを参加者のみなさんとともに考えることで、来る顧客体験の時代を一緒に考えていきたい」ーープレイド代表取締役の倉橋 健太はオープニングスピーチの中でこう語り、「CX DIVE」は幕を開けた。
共感される事業はアートのように個人の熱意から始まる
CXの祭典のはじまりを告げるKey Session「変わる世界、うねりとしてのCX」では、放送作家の鈴木 おさむ氏と株式会社スマイルズ 代表取締役社長の遠山 正道氏が登壇。異なる領域を開拓してきた二人による、CXに対する見解が語られた。
全く異なる道を歩んできた二人のプロフェッショナルがCXについて語る時間も、化学反応が起きているかのように会場が引き込まれる話が次々と展開された。
最も参加者が反応していたのは、事業も番組も、自分の中から生まれる熱意から作らないと、共感するものにはならないという点だろう。
「アンケートや市場調査をもとに事業は作りません。ビジネスというのは、大変さがつきものです。困難に直面した際に、その事業をやる理由が自分の外側にあると続けられない。大変な状況で立ち戻る軸が自分の中にあるように、自分たちが作りたいものを作る。そういうアート的な感覚が大切だと思うんです」と語る遠山さんの発言は、オンラインでもオフラインでも多くの人の反応を引き出した。
オープニングスピーチで語られたとおり「答え」が示されたわけではなかったかもしれないが、このセッションが口火を切り、CXに向き合う一日は加速していった。
3つの会場でCXの先端に触れる
『CX DIVE』では、複数の会場が用意され、同時多発的にCXに関して掘り下げられた。異なるジャンル・業界のトッププレイヤー同士が、それぞれの領域を超えてシームレスに語り合う2つの会場と、CXの優れたプロダクト/サービスを実際に体験できる展示スペースだ。
トーク会場では、移動、コミュニケーション、スポーツなど多様なセッションテーマでトークが展開された。領域は違えど、顧客の変化と向き合い続けている第一人者たちの語りは共通する点も多い。
企業と顧客との関係性が激変する中で、組織や事業がどう転換していくべきかについての言及も目立った。経営者はCXにどう向き合うべきなのか、顧客と直接向き合わざるをえないビジネスモデルのD2CからCXをどう見ているのかなど、答えは見えないが待ったなしのテーマに対する議論も展開された。
印象深いのは、ゲストからセッションテーマへの否定が入った「五感を刺激する演出から学ぶ」だ。テーマを否定して、場をザワつかせたものの、シンプルな問いを投げかけ続けた。「現代人は本当に五感を使っているのか。ほとんどの人は、自分の『感覚』を使わず、『情報』に振り回されている。思考停止している人が多い」という指摘は、思わず普段の自分の行動を振り返る時間となった。
用意された展示ブースのエリアには、セッションの合間に多くの参加者が足を運んだ。展示していたのは、CLAS、JINS MEME、6curry、AROMASTIC、Snynamon、BASE FOOD、note、椎茸祭など、新たな体験を生み出しているサービスたちだ。
展示エリアでも、セッションの合間に出展者によるプレゼンも行われ、サービスを体験できるブースに行列ができている光景も度々目にした。自らの五感でユニークなサービスやプロダクトを体験した人々の反応は、オフラインにも、オンラインにもあふれていた。
「脱コスパ」こそがCX
一日をかけて開催された「CX DIVE」もあっという間に終了の時間を迎えた。イベントを総括するClosing Sessionでは、博報堂ケトル 代表取締役社長 兼 共同CEO/株式会社博報堂 執行役員の嶋 浩一郎氏、株式会社クラシコム 代表取締役の青木 耕平氏、ヤフー株式会社 メディアカンパニー マーケティングソリューションズ統括本部 エバンジェリストの井上 大輔氏、株式会社LDH JAPAN 執行役員 CDO/デジタルマーケティング本部長の長瀬 次英氏が登壇。ハフポスト ニュースエディター/編集長補佐の南 麻理江氏がモデレーターを務めた。
CX DIVE運営事務局が優れた顧客体験を設計、実現できたサービスやプロダクトを選出した「CX AWARD」の受賞対象の発表からClosing Sessionはスタート。
豪華登壇ゲスト陣による受賞事例へのコメントを皮切りに、人々の潜在的なニーズにどう応えるのか、ブランドは今後どう変化していくのか、数字に現れない感覚を信じる重要性など、今の時代を鋭く掴みながら、この先の変化を予見するかのような話が展開された。
多くの企業では、デジタル化が進んだがゆえに、広告のクリック率を最適化するような行為にばかり意識が向かうようになってしまっている。この状態をクラシコムの青木氏は「腕のいいナンパ師に口説かれたくない問題」と表現していた。テクニックや利便性にばかり気を取られるのではなく、想いや愛に目を向けるべきなのでは、という話が展開された。
その他にも、ゲストから休む間もなくパンチラインが飛び出す時間を過ごし、「CX DIVE」は幕引きとなった。
今回の「CX DIVE」全体を通じて、語られる場面が多かったのは、マーケティングに寄り過ぎることへの批判だ。数値だけで判断しようとする、人をコントロールできると考えてしまう、顧客をマスで捉えてしまうなど、語られ方は様々だったが、業界やジャンルを横断して向き合っている課題意識はたしかに共通していた。
もちろん、「CX DIVE」は課題ばかりが共有された時間ではない。同時に、様々な希望が共有された一日だった。今日という日を通じて共有された未来のCXに向けたヒントを紹介する役割は、後日掲載予定のそれぞれのセッションのレポートに託して、「CX DIVE」のレポートを終えたい。
取材・文/モリジュンヤ 撮影/加藤甫、須古恵