独特のコンセプトと存在感からメディアで注目される機会も多い「森岡書店 銀座店」店主がつづる、本屋への思い。
私はいま、「一冊の本を売る書店」というコンセプトで書店を運営している。正確に言うと、一週間に一種類の本を出版社から預かり、その本にまつわる展示やトークイベントを開催しながら、本を販売するという内容。できるだけ著者や編集者に店に来てもらい、お客さんと言葉を交わしてほしいとも思っている。本屋はどこも厳しいので、ときどき、経営が成り立っているのかという質問を受ける。なんとか5年、続けることができた。
つい最近の出来事だが、今年1月は、詩人の朝吹亮二さんが9年ぶりに上梓した『ホロウボディ』の販売会を行った。ホロウボディとは、もともと、ギターの用語で、ボディをくり抜き、ホロウ(空洞)構造にすることによって、セミ・アコースティック・ギターのような箱鳴りがするものを指す。朝吹亮二さんは、手作りでそんなギターをつくっている。木場で材木を仕入れ、それを電動のこぎりで切り、カンナで形を出し、塗装をして、この10年で、6本のギターとベースを完成させた。店内には、自作のギターも展示していた。
朝吹さんはほぼ毎日店舗につめてくださって、お客さんを迎えていた。トークや、ライブのイベントも行った。約10年前、朝吹さんは脳梗塞になり手が動きにくくなったのだった。演奏ができなくなった朝吹さんはギターづくりに向かい、結果としてそれが効果的なリハビリになったという。つまり、ギターづくりと詩の創作が同時に進行した。そうしてできた詩が、場をつくり、人びとが集った。
お客さんは、実際に朝吹さんに会って、朝吹さんと言葉を交わして、本を読み、本の背景を知る、ということに価値を見いだしてくださった。この5年間、店舗を続けられたのは、一冊の本から派生する体験や学びが求められたからだと思っている。リアルな場所でしか得られないものが、現在、より価値を増しているということだろう。本を取り巻く環境が変わるにつれ、本屋の役割や立場が変わる。言い換えれば、人が本屋に求める価値も変わってきている。私にとってもまた、そうである。
文:森岡督行(「森岡書店 銀座店」店主) 編集:BAKERU
ロゴデザイン:LABORATORIES イラスト:西武アキラ