XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年4月20日から23日の放送では、家電ブランド「BALMUDA(バルミューダ)」が提供する体験を紹介した。同社は、自然界の風を再現した扇風機「The GreenFan」や最高の香りと食感を実現するトースター「BALMUDA The Toaster」などの人気商品を展開。デザインはもちろん、新たな視点で開発された機能で、生活者に豊かな暮らしを提供している。
放送では、代表取締役社長である寺尾玄さんが会社設立前から持ち続ける原点や各ヒット商品に込めた思い、どのような体験を生活者に届けたいと思っているかを伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
五感で感じる体験、そのすべてが満たされる家電を提供したい
――20代で音楽に明け暮れていたという寺尾さんですが、どのような経緯でバルミューダ設立に至ったのでしょうか。
バルミューダ全体のクリエイティブや私自身の創作活動は、自分が何かに感動して、それを人に共有したい、人にオススメしたいということに尽きますね。
多くの企業は、ビジネスを始める前に市場を分析して自分にできることと掛け合わせて商品やサービスを作り始めます。ただ、最先端のプロダクトで世界中を虜にするAppleやパタゴニアなどは好きなことをやっているようにしか見えなかった。それって、「ロックバンドと同じだな」と思ったんです。バンドメンバーが集まって出てきた音を、自分たち自身がすごく良いと思う。「だからこれを他の人にも聴かせない?」というバンドの原点に近いなと。
当時、Webサービスを展開する経営者が増えていましたが、私はモノづくりがしたかった。形や重さがある商品の力を信じていたんですよね。ロックバンド時代には果たせなかった「お客様に感動を届けるということにチャレンジしたい」と思ったのが起業の理由です。
――「お客様に感動を届ける」という価値観の中で生まれるプロダクト。実際にバルミューダの商品を通して提供する感動とは、どのようなものなのでしょうか?
家電の個性のつけ方には、さまざまな手法があります。最初に私たちが作ろうとしていたのは「美しい家電」。美しさによって、「従来の家電よりも使うときの喜びや感動を感じてもらいたい」と、当初は考えていました。
その後、トースターを作り始めたあたりから、美しさのみではない「体験価値」に重きを置くようになったんです。体験って、五感で感じるものの統合ですよね。目で見て、耳で聞いて、においを嗅いで、味わって、触って。そのすべてが満たされる家電を通して、「人々に素晴らしい体験を届けたい」という思いが、現在のバルミューダが持つ価値観です。
自然界の風を再現する――The GreenFanが生まれるまで
――最初のヒット商品となった扇風機「The GreenFan」。従来の扇風機が作り出す風とは別物の、自然界の風を再現する商品が生まれたきっかけを教えてください。
私はエアコンが苦手で、夏は扇風機を使っているのですが、ずっと不便な道具だなと思っていました。風に当たり続けるのが嫌なので首振りをオンにすると、逆にこちらを向く一瞬しか涼しくない。外に吹いている大きな風が、部屋の中を吹き抜けてくれたらいいのにと思っていたんです。「本当にできないのかな」と考え始めたことが、最初のきっかけでしたね。
――その自然の風を実現しているのが、バルミューダが開発して特許も取得した二重構造の羽根ですよね。この羽根づくりのアイデアは、一体どんな体験からひらめいたのですか?
町工場の職人さんたちに「扇風機の風を壁にぶつけて使うと、風が柔らかくなる」と教えてもらったのをきっかけに、風を自動的に何かにぶつける方法を考えたんです。
そんなとき、たまたまテレビで30人31脚を見かけたんですね。スピードの違う子どもたちが、脚がつながった状態で走ると遅い子を中心に崩れていく。それを見たときに思い付いたのが、速度の違う2種類の風を同時に送り出してぶつけ合う、二重構造の羽根でした。
試作品を大急ぎで作って回してみたら、明らかにいつもの扇風機の風と違う。いろいろと計測して、風の広がり方や風速の変化が自然界の風に近いことがわかりました。その数字を見て、あらためて「自然界の風を作り出すことができた」と自分たちで思えましたね。
「体験して感じた価値は、知識よりも上位にくる」
――自分が不便だなと感じた従来の扇風機から、体験そのものを変えてきたんですね。トースター「BALMUDA The Toaster」を作るときは、より「体験価値を重視するようになった」とおっしゃっていました。その考えにはどのように至ったのでしょうか。
なぜ私たちの扇風機の人気が出たのかを考えると、やはり体験なんですよ。省エネ性能という機能も売りのひとつでしたが、その数字や知識だけではきっと売れなかった。「風が気持ちいい」と身体で感じられたから、直感的に価値が理解され、支持されたのだと思います。
体験して感じた価値は、知識よりも上位にくる。自分自身でも感じていたし、お客様の反応を見て確信しました。私たちが作るべき価値は、五感で感じられる良さをフルに体験できること。そう考え、キッチンシリーズから本気で「体験価値」に向き合い始めましたね。
――BALMUDA The Toasterは、どのような体験価値を提供しているのですか?
シンプルですが、「おいしいパンを食べる」という素晴らしい体験です。私が17歳のときに体験したことが原点になっています。当時、スペインやイタリアなど地中海沿岸を一人旅していて。初日にやっと辿りついたスペイン、ロンダの広場。疲れ切った私が入ったのは一軒のベーカリーでした。そこで買った小さなパンをかじった瞬間、涙が溢れてきたんです。この小さなパン屋での体験を通して体感した“食べることの素晴らしさ”を、「より多くの人に届けたい」という思いが、BALMUDA The Toasterの商品に込められています。
もうひとつは「作る楽しみ」です。キッチン道具としては作ることをより簡単に正確にできることが基本的な価値と思うのですが、私たちは作るときの楽しさや使う嬉しさも提供したい。そのために、デザインから一回一回のドアの開け閉めの動作音までこだわりました。五感でインプットされるすべての情報を私たちが目指すクオリティにし、当社の商品としてお届けする。お客様に「キッチンって良い場所」と思ってもらえたら嬉しいですね。
「絶対に作らない」と決めていたスピーカーに込めた思い
――2020年4月には新商品のスピーカーを発表されました。ミュージシャンをしていた寺尾さんが作り出した、この「BALMUDA The Speaker」について教えてください。
ミュージシャンだったころから、やっぱり「生演奏にまさる音楽体験はない」と考えていたので、スピーカーだけは絶対に作らないと決めていたんですよ。でも、「そんな自分だからこそ作れるスピーカーができた」と、今は思っています。
多くの音響機器というのは、“良い音”を出そうとして作られていると思うんですね。でも、多くのミュージシャンは“良い曲”を聴かせたいんですよ。だから、上から下まできれいな周波数カーブが出るスピーカーよりも、曲の魂が乗っていて、生っぽく聞こえるという再生装置ができないかなって。このスピーカーで曲を聴くと、もう惚れ惚れするぐらいボーカルが前に出てきますね。もう何百回も聴いているはずの好きな曲も、これで聴いたときにはあらためて感動しました。なぜかというと、ボーカルがすぐそこにいるから。
また、もうひとつの大きな特徴は音楽に合わせて瞬く光です。まるでライブステージを再現したような、臨場感を持たせようと試行錯誤しました。「Beat」「Ambient」「Candle」の3パターンがあり、シーンによって使い分けができるようになっています。
――BALMUDA The Speakerを通して、どんな体験を届けたいと考えていますか?
アーティストが本気になって、ものすごく苦労をして生み出した数々の素晴らしい曲を、もう一回聴いて感動しましょう、というシンプルなメッセージですね。曲ってすごいです。3~4分で人生まで変えることもある。私も、いろいろな曲に助けられて生きてきました。その素晴らしさを、私たちにできるベストな方法で届けられたらいいなと思っています。
KARTE CX VOXの過去の配信は「ラジオクラウド」のアプリから聞くことができます。
アプリをダウンロードの上、こちらのリンクもしくは、アプリ内で「KARTE CX VOX」と検索してください。