XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年7月6日から7月9日の放送では、都市と農業をつなげる事業を展開するアグリメディアのCXについて紹介した。全国の遊休農地や遊休地を使った、サポート付き貸し農園「シェア畑」は、都市部の住民を中心に気軽に野菜作りが楽しめる農園。コロナ禍で「自然のある暮らし」が注目される中、人気が急速に高まっているという。
放送では、アグリメディア代表取締役の諸藤貴志氏に、シェア畑のサービスを作ったきっかけや人気の秘密、農業に対する人々の認識の変化、今後の展開を語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
プロのサポート付き、手ぶらで家庭菜園ができるシェア畑
――事業の柱であるシェア畑は、どのようなサービスなのでしょうか。
全国100カ所ほど運営しているレンタル農園で、初心者でも楽しく野菜作りが楽しめるサービスです。現地では「菜園アドバイザー」という指導員から、苗の植えつけ方や育て方、肥料のあげ方などの指導が受けられます。野菜作りに必要な道具や苗、肥料などもそろっているので、現地に行くだけで家庭菜園が気軽に楽しめる場所です。
この事業を始める前に貸し農園や市民農園の利用条件を調べたところ、道具を自分でそろえたり、野菜作りを自分だけで一から学んだりする必要がありました。この条件が、家庭菜園の初心者にとって高いハードルになっているのではないかと感じたんです。
家庭菜園をやりたいけれどできない方々のニーズをしっかり捉えたら、より多くの人に野菜作りを楽しんでもらえるんじゃないか。そう考えて、シェア畑を開発しました。
――手ぶらで畑に行けてプロに教えてもらえる環境なら、家庭菜園を始めやすいですよね。このサービスを始めるにあたり、どんな下準備やリサーチをしましたか。
まず農家さんや農地を300件ほど回って現地調査をしました。それで見えてきたのは、使われていない農地が都市近郊に相当数あるという現状。この遊休農地が有効活用できることを示すことができれば、農家さんから農地を提供してもらえるはずです。
農地を確保したら、次は農業委員会で許可を得る必要があります。この手続きのハードルが高く、最初の1カ所目、2カ所目は苦戦しました……。しかし、少しずつシェア畑が増えていくにつれて認知度も上がっていき、「アグリメディアになら農地を任せてもいいんじゃないか」と、シェア畑の導入相談を徐々にいただけるようになりましたね。
――シェア畑を利用するユーザーは、どのような方が多いのでしょうか?
当初は地域住民などの個人に使ってもらうことを想定していました。実際、その顧客層が多かったです。今は企業からの引き合いも増え、社員交流の場や取引先との農業体験イベントなど、福利厚生や交流ツールとしても利用されています。保育園や小学校の子ども達が、野菜作りを楽しみながら学ぶための場としても活用されるようになりましたね。
家庭菜園を行う人は2.3倍も精神面の健康レベルが高い
――シェア畑が多くの方から支持されるようになった理由は何だと思いますか?
従来の「農業体験」は遠い場所まで出かけなければいけないものが多かったのですが、シェア畑なら自宅の近くで体験できる。これが支持されるひとつのポイントだと思っています。
その上で、どんな初心者でも野菜作りができるよう、菜園アドバイザーのサポートが受けられることが、最大の魅力だと思います。特に、都心部は広くて解放的な空間があまりないのもあり、人気が高まっています。東京には現在30カ所以上の農園があり、世田谷や杉並、練馬エリアに加えて、江戸川区や足立区エリアには広い農地も提供しています。
――都心の人々にとっては、野菜を作ることが日々のリフレッシュにつながりそうですね。
そうなんです。2019年6月から東京大学農学部と共同で、「家庭菜園は健康にどれだけ影響があるのか」というテーマで調査を行いました。その結果、家庭菜園を行っている人は、やっていない人の2.3倍も精神面の健康レベルが高いという結論が出たんです。
その要因は、3点あると考えています。1つ目は、土を耕したり苗を植えつけたりする農作業は体を動かすので、その運動がストレス発散につながっていること。2つ目は、野菜や自然と日々触れ合うことで、リラックス効果を得られること。
そして3つ目は、畑を通じて人とのコミュニケーションが生まれること。家族同士で「こんな野菜が採れたよ」と話したり、畑でできた友人や地域の方とのコミュニケーションが生まれたりすることが、健康レベルの高さにつながっていると分析しています。
――新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「外出の自粛」が求められるようになりました。その中で、シェア畑に対するニーズは変わってきていますか。
昨年比の2倍くらいの問い合わせがある状況ですね。特にまちづくりをする鉄道会社やデベロッパーから、多くの相談をいただいています。自宅の近くで「農ある暮らし」をする価値が見直され、その魅力がより多くの人に認知されていくのではないかと思います。
郊外農地や親子での「非日常体験」で、野菜を好きになる
――生活に根付いた「農ある暮らし」が加速するかもしれない。その一方で、農業に「非日常体験」を求める人も多そうですよね。
はい。「もっと自然のある場所に行きたい」という利用者や、郊外農地を活用したいという農家さんからの相談も多いです。そこで、神奈川県の伊勢原市や足柄上郡の大井町など都心より少し離れたところには、野菜作りが楽しめる施設も用意しました。
例えば、大井町では「里山シェア」という非日常体験を提供。利用者は畑のオーナーになり、普段の世話は現地スタッフに任せ、行けるときはレジャー感覚で訪問できます。野菜を作るだけでなく、隣接する直売所で野菜を購入したり、近くの温泉に入れたりと、さまざまなサービスが利用できるんです。野菜作りの後に温泉で汗を流すのは格別な体験ですよ。
――他にも体験を重視されたサービスは展開されていますか?
2019年夏には、親子で参加できる野菜作りプログラム「ベジトレ」を実施しました。親子で野菜の植えつけをして、収穫し、加工して食べるところまでを体験します。
このプログラムは野菜そのものや栄養について学べるよう、栄養士の方にプログラムを作っていただきました。複数回にわたって野菜作りを楽しんでもらうことで、野菜がより好きになったり、食べられない野菜が食べられるようになったりする「食育」につなげています。
プログラム終了後にアンケートを取ったところ、「子どもが野菜に興味を持つようになった」「以前より野菜を食べるようになった」という声をいただき、満足度の高さがうかがえました。シェア畑でも「自分が野菜作りに関わったことで、嫌いだった野菜が好きになった」という声を多くいただきます。今後もこういったプログラムを続けていきたいですね。
教育や求人など、あらゆる領域で「農ある暮らし」を広める
――今後のサービス展開についてはどのように考えていらっしゃいますか。
教育の中に農業を組み込もうというアイデアから、八王子にある東京ウエストインターナショナルスクールさんと共同で「オーガニック・ガーデン・プロジェクト」を6月から始めました。学校の横に専用農場を作り、土作りから種まき、収穫まで、子どもたちが一年を通して有機栽培に関わっていくプログラムです。
野菜作りを通して子どもの知的好奇心を刺激することや、体を動かして皆で共同作業できることなど、このプログラムにはさまざまな魅力が詰まっています。これまでも保育園、小学校、中学校などさまざまな教育機関にシェア畑を使っていただいていますが、子どもたちの探求心や好奇心を引き出すうえで、教育と農業は非常に親和性が高いと思っています。
――他には、都市と農業を結ぶ求人サービスも手がけていますよね。
全国の農家さんと農業に従事したい人材をマッチングするWebサイト「あぐりナビ」を運営しています。現在4000件以上の農家さんに利用されています。
全国の農家さんは慢性的な人手不足。農業規模を拡大したい、現状維持すら難しいので人員を確保したいというニーズがあります。一方で、農業に興味を持つ若い人材が実は年々増えていて、毎月2000人ほどの若者がアグリナビに登録している状態です。これまでの登録者数は6万人を超えており、現在も毎年20~30%ほど登録者数が伸びています。
――農業の価値そのものの捉え方が若者を中心に変わっているのかもしれないですね。
そうですね。新型コロナウイルスの感染拡大による影響もあり、農業の価値は改めて見直されていくと思います。非日常の体験をしたい、自宅の近くで野菜を栽培したいといった生活者のニーズに応えながら、私たちは「農ある暮らし」を世の中に広げていきたいですね。
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