XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年3月30日から4月2日の放送では、容量120mlの小さな水筒「POKETLE(ポケトル)」を紹介した。「pocket」×「little」×「bottle」というネーミングで、業界にこれまでなかったコンセプトを打ち出したPOKETLEは大きな反響を呼び、累計120万本も売れる人気商品となった。2019年の『日経トレンディ』ヒット商品ベスト30にも選ばれている。
放送では、開発したDESIGN WORKS ANCIENT代表取締役の小林裕介氏に、POKETLEを考案したきっかけや人気の理由、開発後に生まれた環境問題への思いなどを伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
ポケットに入れられる、漏れないコップとしての位置付け
――POKETLEはどのようなコンセプトで作られた商品なのでしょうか。
「ポケットに入れられる極小サイズのミニボトル」です。2018年11月末に、6色展開で発売を開始しました。当時、ステンレスボトルの日本最小サイズを、最初に打ち出したブランドです。
POKETLEを持っているというのは、漏れないコップを常に持ち歩いているという感覚で、「安心」という状態になるのですよね。ウォータースポットを見つけたら、いつでもつぎたせる。ボトルというより、この「漏れないコップに近い感覚」というのが受け入れられている理由だと思います。
――ミニボトルというより、持ち運べるコップ。その発想の転換が話題を呼んだのですね。開発の中で意識されたポイントはありますか?
当社は家庭用品の雑貨を10年ほど扱っている中で、最終的に好まれるのは、使用後の手入れも含めて「シンプルなもの」という実感がありました。そのため、POKETLEでもよりシンプルなもの、洗うときの手間が省けるもの、そしてポケットに入れやすく邪魔にならない形状にしようということで、このシンプルな形状に行き着きました。
――発売後、小売店や生活者の方々の反応はどうでしたか。
今までにない商品だっただけに、発売当初の小売店の反応は半信半疑でしたね。ところが実際に販売スタートしてみると、想定していた以上に反響がありました。初年度の目標販売数は3万本から5万本と設定していましたが、発売から1カ月でこの数字を超え、1年間で80万本ほど販売されたんです。現在(2020年4月時点)は、120万本ほど売れています。
ふと気づいたニーズ、「500mlペットボトルは飲みきれない」
――蓋を開けてみたら大ヒットだったPOKETLE、開発の経緯を教えていただけますか。
きっかけは2018年の春に東京へ出張に行ったことでした。私は出張のとき500mlペットボトルのお茶を買う習慣があり、その日も京都駅から新幹線に飛び乗るときにお茶を購入したんです。車内で少し飲みますが、商談の間に飲むために買っていたのです。ただ、それでも500mlのお茶は少し重いなと感じていました。さらに、商談先ではお茶やコーヒーをいただくので、真夏のように暑い状況でもないと、ペットボトルは飲まずに持ち運び、ホテルへ帰ったときにはまだ中身が3分の1や半分ほど残っていることがよくありました。
そのまま冷蔵庫に入れずに寝てしまった日がありまして、残ったお茶を持ち運ぼうとしたのですが、衛生面が気になって「もったいない」と思いながらも、ホテルに置いていきました。その出張中に、ふと「元ラガーマンで体の大きい自分が500mlペットボトルを飲み残すなら、体の小さい女性はもっと飲みきれないのでは?」とはっと気付いたのです。そこからリサーチを始めました。
――リサーチはどのように?
実際に飲まれている場面に遭遇した場合には女性が持ち歩いているボトルを観察したり、コンビニなどの売り場ではどのようなサイズが展開されているかを一日をかけて観察しましたね。市場のニーズと、実際売られている物を見て回って、「このニーズを満たす商品はない。チャンスがあるかも」と感じ、その日にターゲット設定や商品の方向性を詰めました。
最初のターゲットとして考えていたのは、毎日30分から1時間かけて出社する都内のOLの方。コーヒーメーカーやウォーターサーバーがある企業も多いので、出社までの1時間以内に、いかにコンパクトに軽く持ち歩けるかということだけを考えました。缶コーヒーでも一度に飲み切るのはしんどいなと感じていました。すでにある飲み物で、一度に飲み切れる量の商品は何だろうと考えたとき、思い浮かんだのが120mlの栄養ドリンクだったんです。「これだ!」と思い、今のサイズ感になりましたね。
絶妙なサイズ感が、シニア層の女性やママたちの心も掴んだ
――ボトルのシンプルさに加えて、POKETLEというネーミングも印象的ですよね。
競合の多いボトル業界に後発で参入するので、何か特徴的な要素を作り、小規模な企業だからこそニッチなニーズを突こうと意識していました。「ポケットに入れられるほど小さい物を作る」というコンセプトから、「ポケット」「リトル」に「ステンレスボトル」をドッキングさせて「pocket x little x bottle = POKETLE」というネーミングにしたんです。
――実際に販売してから分かったことや、予想外だったことはありますか?
驚いたのが、OLの2倍以上もシニア層に購入されたこと。シニア層の女性はPOKETLEのようなミニボトルを探していたそうで、「やっと発売したのね」という反応を多くいただきました。なぜなら、シニア層は重たいものを嫌うのと、量の多いドリンクは必要なく、常備薬を飲むための少量の水分があれば事足りるからです。
また、常に荷物の量が多くなってしまう、赤ちゃんのいるママさんにも好評でした。公園などのちょっとした外出の際に粉ミルクを作るため、POKETLEに白湯を入れて持ち運ぶんだそうです。荷物が多い中で、さらに重いものを持つということに抵抗感があったそうで、その需要に応えられたようです。
環境目線での取り組みも、ユネスコの会議でPOKETLEを配布
――予想外だったニーズの他にも、POKETLEで新たな共感が生まれたと拝見しました。
そうなんです。当社は「Only The Necessary(必要な分だけ)」というブランドフィロソフィーを掲げており、POKETLEのヒットがこの理念を波及させました。その結果、「必要な分だけ」という考えに、共感してくれる企業さんが多いことが分かったんです。
もともと「持ち運びやすいボトル」というコンセプトでスタートしたPOKETLEですが、これだけの反応があるならば、環境目線でもっとできることがあると考えました。特に今注目されているSDGsとか、環境に対して何かをやらないといけないという機運もある中で、何から手をつけていいか分からない企業さんも正直多くいらっしゃるみたいなんです。そのとき、POKETLEが掲げる「必要な分だけつぎたす」という言葉を知って共感し、「コラボをして一歩踏み出すきっかけにしたい」というお話をいただけることが非常に増えました。
――環境目線での取り組みとして、実際におこなわれた事例はありますか?
2019年12月に京都で開催されたユネスコ(国連教育科学文化機関)の国際会議で、コラボをさせていただきました。会場にウォーターサーバーとコーヒーメーカーを設置し、世界中から来場した方々にこうお伝えしたんです。
「京都市の国際会議では、ペットボトルを活用した飲み物は配布しません。その代わり、お手間ですがPOKETLEを配布するので、自分たちでつぎ足しに行ってください」と。
私が提案した案だったのですが、世界的なイベントで実現して嬉しかったのを覚えていますし、世界中から来てくださった方々にも高い評価をいただくことができました。今後もさまざまな企業や自治体と連携し、継続して環境目線の取り組みができたらと思っています。
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