SNSやメールで、気軽に贈り物ができる「ソーシャルギフト」。横ばいが続くギフト市場で、この領域が急進中だ。とくに若い世代を中心に、ごく自然に普段使いされはじめている。ギフトがコミュニケーションのひとつのかたちだとしたら“ソーシャル”を冠したそこには、人々のどんな思いが宿っているのだろうか。
(この記事は2022年12月14日(水)に発売された『XD MAGAZINE VOL.06』より転載しています)
小川安英(おがわ・やすひで)
ギフトモール オンラインギフト総研 所長。京都大学卒業後、1998年株式会社リクルート入社。「リクナビ」「じゃらん」の商品企画責任者などを経て、リクルートホールディングスFinTech推進室室長、リクルートマーケティングパートナーズ取締役、リクルートファイナンスパートナーズ代表取締役などを歴任。ギフト領域におけるイノベーションを目指し、2020年に株式会社ギフトモールに参画。
「住所を知らずに贈れる」価値
2012年に22億円だった市場規模が、現在2,400億円(2021年度見込値)*1にまで成長。今この瞬間も伸び続けている注目市場がある。“ソーシャルギフト”市場が、それだ。市場調査を行う矢野経済研究所によると、そもそも国内のギフト市場全体は10兆1,040億円(2021年見込値)*2。
コロナ禍で冠婚葬祭の機会が減ったこともあり、“熨斗”をつけて贈るようなかしこまったフォーマルなギフトは著しく縮小している。一方で誕生日やちょっとした記念日などに贈る気軽なギフトはむしろ伸びているという。
「後者の身近な人に贈る気軽なギフトの好調を下支えしているのが、ここ数年で新たに登場した“ソーシャルギフト”と考えられます」とギフトモール オンラインギフト総研・所長の小川安英氏は言う。
*1|(株)矢野経済研究所「商品券・ギフト券/eギフト市場に関する調査(2021年)」2021年7月27日発表
注:eギフトはIDやQRコード/バーコードなどを読み込むことでギフトを受け取ることができるすべての法人・個人によるギフトサービスを指し、発行金額ベースで算出している。
*2|「ギフト市場に関する調査(2021年)」2022年1月28日発表
注:個人・法人における贈り物や進物などを対象とし、中元・歳暮需要を含み、小売金額ベースで算出している。
ソーシャルギフトとは、SNSやメールなどを通してギフトが贈れるサービスの総称だ。そのタイプは大きく2つに分かれる。贈り手が受け取り画面のURLを送信、受け手側がそのURLのリンク先に届け先や日時を入れると受け手にモノが届くタイプがひとつ。もうひとつは、商品をレジで受け取れるバーコードなどを贈り手が購入して送信、受け手が来店した店舗のレジでそれをかざして指定のモノを受け取るタイプだ。
オンラインギフト総研が2022年6月に全国の20~50代の男女2,400名に実施したアンケート調査によると、すでにソーシャルギフトの利用経験者は8.7%。「いずれ利用したい」という意見を合わせると、50.7%にまで膨れ上がる。
いずれにしてもスマホとSNSの普及、店舗や物流のデジタライゼーションが進んだからこそ生まれた急成長サービス。そして、大きな特長は「住所を知らなくともギフトが贈れる」ことに尽きる。
小川氏「人がモノを贈る理由は、感謝やお祝いなどの気持ちを伝えるコミュニケーションの延長にあります。この“住所を聞かずとも気軽にモノが贈れる”ソーシャルギフトのスタイルは、変化してきたコミュニケーションのかたちにとてもフィットしているのではないでしょうか」
ソーシャルギフトで増える、幸せの数
小川氏が言うコミュニケーションの変化。その代表に、親しい間柄の友人でも「住所を知らない相手が増えた」ことがある。かつては年に1度の年賀状が欠かせず、友人・知人の住所は便宜上控えてあったが、若い世代を中心に、今や季節の挨拶はSNSやメールにとって変わられたからだ。
小川氏「かなり親しい友だちや同僚でも、最寄り駅までしか知っていない人がうんと増えました。プライバシーの意識も高まり、気軽に住所を聞きづらい面もありますよね。それでも誕生日や結婚祝い、出産祝いなどの記念に相手の手もとにギフトを贈りたい局面がある。そんなときにメールアドレスやSNSのアカウントさえわかれば贈れるソーシャルギフトの利便性は、際立ちます」
もうひとつ、SNSによって住所はもちろん、名前や年齢、性別すらも知らない友人が増えたことも、ソーシャルギフトの活況を後押ししているようだ。趣味や好きな有名人などでつながるSNSコミュニティに参加する人は多い。特に今の10~20代前半のデジタルネイティブの世代は、リアルな友人同様、あるいはそれ以上にSNSでつながった友人に対して、心の距離を近く感じやすいといわれる。
小川氏「我々がZ世代に向けて実施したアンケート調査でも調査対象の6.5人に1人が、SNS上でだけ知っている友人にギフトを送った経験があった。これまでは生まれづらかった関係性の相手への贈り物が、ソーシャルギフトによって新たに掘り起こされたともいえそうです」
新たなギフトスタイルという意味で、ソーシャルギフトによって「100円程度の少額のギフトを贈る人」が増えたのも、独特だ。オンラインギフト総研が20~50代のソーシャルギフト利用経験者に実施した別の調査では、「ソーシャルギフトを利用したいと思った理由」に『気軽なお礼、プチギフトとして使えるから』と答えた人が46.8%と半数近くを占めて、第2位だったという。
小川氏「バーコードなどを提示して店舗で受け取るタイプは送料がかからないので、特に少額なプチギフトが人気です。ギフトモールでも100円台のコンビニのロールケーキやアイスがとても売れています。『さっきは仕事を手伝ってくれてありがとう』『ノートを貸してくれて助かった』などの気軽なお礼とともに贈る。そんな方が増えています」
ちなみに前出のアンケート、「利用したいと思った理由」の第1位は『サプライズになるから』だったというのも、面白い。郵送と異なり、メールなどでタイミングを推し量りながらギフトを贈れるため、「誕生日のちょうど0時を回った瞬間にLINEでソーシャルギフトを送る」という利用者が多いという。
小川氏「これまでは『サプライズでギフトを贈ろう』と思っても住所を聞く時点で、ネタバレになるリスクがありましたからね(笑)」
もっとも、ソーシャルギフトの使われ方をひもとくうち、コミュニケーションの“かたち”は変わっても、その“本質”が変わらないことも見えてくる。感謝を伝えたい、喜んでもらいたい、こころの距離を縮めたい―。他者と和やかな関係を築きたいという、私たちの強い願いが変わらずあることだ。
小川氏「先にあげたZ世代向けの調査でもソーシャルギフトの利用率が高い人ほど『生活満足度が高い』と相関関係が見て取れました。家族や友人と接点が多いことにもつながるので、当然といえば当然かもしれませんけどね。ただプチギフトが増えたように、若い世代を中心にソーシャルギフトによってギフトを贈り、贈られる人が新しく増えているのなら、これからもっと和やかで、幸福にあふれた世の中になっていくのかもしれませんね」
取材・文/箱田高樹
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