XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年7月13日から16日の放送では、作詞作曲家で、ボーカルプロデューサーの岡嶋かな多氏について紹介した。岡嶋かな多氏は、三浦大知、King & Prince、ジャニーズWEST、安室奈美恵、TWICE、BTS、家入レオといったアーティストの楽曲制作を手がけている。
放送では、岡嶋氏に制作時のエピソードや音楽制作における秘訣を伺った。なお、今回はMCの別所哲也さんがお休みした変わりに、アーティストのTENDREさんが参加している。
思いのこもった作品をプロが表現し、多くの人に届く幸せ
――最初に、岡嶋さんが楽曲制作のキャリアをスタートしたきっかけを教えてください。
岡嶋:最初はシンガーソングライターを目指してオーディションを受けていたんです。そこである作曲家の方に声をかけていただき、裏方として歌を歌ったり、歌詞を書いたりするようになりました。嬉しいことに、初めて提供させていただいた、Soweluさんのシングルがブレイクスルーになった作品です。まだ渋谷でアルバイトもしていたころでした。出勤時に偶然、スクランブル交差点のビジョンで自分が書いた曲のミュージックビデオが流れて。そのときは号泣しましたね。もう本当、人目もはばからず泣きました。
楽曲提供に対して、最初は戸惑いがあったんです。でも表現のプロの方たちが、自分の思いのこもった曲を歌い、表現し、何百万人に届いていく。それ以上の幸せはないな、とある日気づいて。それ以来、裏方に徹して良い作品を届けていこうと覚悟が決まりましたね。
――TENDREさんも楽曲プロデュースを行っていますよね。
TENDRE:岡嶋さんのお話を聞いていて、僕も今泣いてしまいそうになりました。本当にちょっと泣きたい。これまでの出会いを思い出して流れた涙もあったのかなと思います。音楽だけではないと思いますが、仕事はやっぱりご縁があってこそ。ちょっとした出会いから、「よかったら曲書いてもらえませんか」と、曲作りにつながっていくと思うので。
――作り手の思いが、一つひとつの楽曲に込められていますよね。岡嶋さんが作詞作曲で参加した三浦大知さんの『EXCITE』は、どのような思いで制作されたのでしょうか。
岡嶋:この曲は、『仮面ライダーエグゼイド』(テレビ朝日系列)の主題歌に使われています。テーマが「医療とゲーム」と聞いていたので、その世界観を歌詞とサウンドで意識しつつ、一度聞いたら覚えられるよう意識して作りました。また、子どもっぽくするのではなく、三浦大知さんの雰囲気にもばっちり合っていくように書かせていただきました。すごくプレッシャーを感じていて、曲を書きながら緊張で少し手が震えていたのを覚えています。
リリース後は、普段あまり反響をいただかない方から多く感想をいただけました。「息子が大好きで、よく歌っているよ」とか、「一緒に見ているママが大好きで、次披露されるのを楽しみにしてるね」とか。こうした声をいただけるのは本当に嬉しかったですね。
――TENDREさんは、楽曲を作るときにリスナー側の立場も考えるのでしょうか。
TENDRE:そうですね。こういう層の人に聞いてもらいたいと思うことはもちろんあります。J-POPはいろいろな形式があるので、それも意識しながら、「自分はこういう音楽の、この感じが好きなんだ」と、バランスを見て作ることを楽しんでいますね。
スペシャリストが集まり、楽曲を制作する「コライト」の現場
――シンガーソングライターやアイドル、K-POPグループの訳詞など、さまざまなタイプのアーティストの楽曲を手がける岡嶋さん。タイプの違う楽曲を作るうえで、どのように自分の引き出しを増やしているのでしょうか。
岡嶋:人と話すことが大好きなので、とにかくいろいろな方に会って、話を聞くことを心がけています。会話で出たちょっとしたひと言や印象深いエピソードが、曲作りのヒントになったり、テーマになったりするんです。
あとは、時間が許せば海外に行き、その地域でどんな曲が流れて、どのように皆さんが楽しんでいるかも観察したり、情報収集したりしています。メモをとるときもありますが、何となく脳みその中の戸棚というか、図書館のような部分に入れておいて。必要なときに「あれ? 何だったっけあの言葉」と思い出すようにしていますね。
――脳みその中の戸棚に、引き出しがある。TENDREさんはいかがですか。
TENDRE:僕も同じようなことを考えていました。人と話すことで自分の考えを認識したり、アウトプットにつながったりすることもあります。あとは、仲間と一緒に音楽を聞くこともよくて。好きな音を共有する中で、自分との違いが見えて発見が多いんです。こうしたインプットとアウトプットを繰り返す中で、引き出しが増えていく感覚がありますね。
――岡嶋さんは、世界の音楽制作で主流となっているコライト(共作)も多くされています。スウェーデンで参加されたというコライトキャンプの体験を教えていただけますか。
岡嶋:コライトキャンプは、自分の人生観が変わるぐらい、まるで雷に打たれたような体験でした。朝9時に集まり、チーム分けをしたらミーティングを行い、そこから曲を書いて、夕方ごろまでに作り上げます。そこからレコーディングを始めるので、終わるのは深夜の2~3時。でも、出来上がった嬉しさでみんなと飲みに行って。朝方に帰って少し寝て、またすぐ次の日のミーティングが始まるんです。キャンプ中はそれを毎日続けました。
それぞれのスペシャリストが得意分野をぶつけて、曲作りをしていく。一人だと行き詰まってしまうことが多いのですが、プロが集まるとアイデアがどんどん出てきます。その一連のン作業がすごく楽しかったですね。コライトはこれからも続けていきたいです。
――TENDREさんは、コライトをやられたことありますか?
TENDRE:コライトキャンプというものがあることは知らなかったのですが、僕もいろいろな方とコライトさせてもらうことが多いです。ソロの場合は孤独を感じることも多いんですが、その孤独を感じるからこそ、突き詰められるものもあると思います。コライトになると、ソロの時に突き詰めてきたものを誰かと共有しながら別の作品を作るので、自分にはない新鮮なものをたくさん取り入れられるのです。まさに今、主流になっていますね。
――一人ひとりの経験を違う角度から見るというのは面白いですね。
TENDRE:そうですね。「愛してる」を書くにしても、その角度が人によって全然違う。そういう角度を知り、いろんな表現を広げていくことができるようになります。
信じて楽しむ。プレッシャーの中でよりよい作品を生み出す秘訣
――岡嶋さんは少女時代、TWICE、赤頬思春期といった韓国アーティストの作品にも参加されています。もともとの歌詞がある作品に、どう日本語の詞をつけるのでしょうか。
岡嶋:レコーディングのときに使えるちょっとした言葉や挨拶の韓国語は分かりますが、翻訳までは難しいので、翻訳者がいて、その訳を受けたり自分で翻訳ツールを使ったりしながら、アーティストさんがイメージしていたことを推測して作ります。
ただ、日本語は言葉が多いので、すべて詰め込もうとすると言いたいことが言い切れなくなってしまうんですね。なので、「ここが一番大事」という部分を抜き出し、語感を損なわないよう気をつけています。独特の節回しや、韓国語特有のあの可愛さが、楽曲にはとても大事。そこを壊して言葉やイメージ先行でいくと、独り善がりになってしまうような気がするんです。時間はかかりますが、何度も何度もアイデアを出して進めています。
TENDRE:日本語は言葉が多く、言い過ぎてしまうことは結構ありますね。英語は一つのワードだけで解釈や言葉のリズムが作りやすいのですが、日本語は長く言わないと説明できなくなる部分も多い。そこを汲んだうえで、韓国語の歌詞を考えられるのはすごいですね。
――続いて、BTSの作品に参加したときのことも教えていただけますか?
岡嶋:コンペを通過してから、チームのみんなと何度も何度も修正をして、より良い作品になるよう進めていきました。強い使命感とプレッシャーを感じていましたね。しかし同時に、楽しむことも忘れないよう意識し、自分たちを信じてひたすら制作に励みました。作家が書いていて「楽しい」と思えていないと、良いものは生まれないと思っていたので。
リリース後は世界中のファンの方から、熱量がこもったメッセージが毎日のように届きました。これはなかなか経験できないこと。BTSさんはダンスも歌も本当に最高なので、毎回パフォーマンスを見るのが本当に嬉しいですね。
音楽が持つ可能性を、多方面のクリエイティブで活かしたい
――次は「SNS」をキーワードに話を伺っていけたらと思っています。岡嶋さんは楽曲制作をするうえで、SNSに影響を受けることはあるのでしょうか。
岡嶋:SNSを通じてファンの方とつながることが、最近は特に多いと感じています。個人的なメッセージをいただくこともありますね。私が作品作りをする理由は、光が見えなくなっている人に、何か光を届けたいと思ったことがきっかけにあります。なので、「曲が全然できない、どうしよう」と考えているときにメッセージをいただくと、頑張れるきっかけになったり、本当にやっていて良かったと思えたりしますね。
先日、子どもが産まれた報告をしたとき、「育児に奮闘しているときに、自分が書いた曲に励まされた」というエピソードを書いたんです。そうしたら、同じ経験をした方からたくさんメッセージを多くいただいて。「育児中、音楽に励まされている方ってこんなにいるんだ」と、驚きました。新しい気付きができるのは、本当にSNS様々だなと思っています。
――TENDREさんは、SNSでのコミュニケーションは、どのようにされてますか。
TENDRE:ダイレクトメッセージは少ないのですが、対話の場としてうまく活用するようにしています。ファンの方が対等に反応してくれるので、自分の創作につながることが多いんですよね。SNSで発信すると、「私はこう思います」とか、「すごくよかったです」とか、もしくは反対の意見とか、いろいろな意見が飛び交いますよね。ミュージシャンにとって、SNSは大事なツールになってきているなと思ってます。
――最後に、岡嶋さんは今後、どのようなビジョンを描いているのか教えてください。
岡嶋:引き続き、良い音楽をたくさん届けたいと思っています。同時に、音楽を作ったり、歌詞を書いたりするものだからこそ気付ける視点で、より多方面な領域のクリエイティブのお手伝いをしてみたいです。例えば、公園の設計や新しい生活スタイルの提案もできるかもしれません。音楽や言葉が持つ可能性を、いろんな方と探求していけたらと思っています。
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