XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年8月31日から9月3日の放送では、Nature Innovation Groupが展開する傘のシェアリングサービス「アイカサ」を紹介した。「傘を持ち歩かない生活」をコンセプトに、24時間70円で専用のスポットから傘を借りることができるアイカサ。2018年にサービスをリリース以降、今では関東を中心におよそ700カ所で利用可能となっている。
放送では、広報の加藤薫氏に、傘をシェアするサービスができるまでの経緯や環境の負荷も考えて作られた傘の仕組み、アイカサが浸透することで生まれる価値を伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
口コミで広まった「傘をシェアする」ことの便利さ
――「傘をシェアする」という考え方は、どのような思いから生まれたのでしょうか?
代表の丸川が2015年にマレーシアの大学に通っていたころ、東南アジアではシェアリングサービスが活発になっていて。国内はまだそのようなサービスは出たばかりだったので、これから流行ると考えたことがアイカサが生まれるきっかけとなりました。日本は雨が多いし、ビニール傘の消費も多い。丸山も傘を持ち歩くのが苦手で、忘れて何度もコンビニで買っていたこともあり、2017年に「傘のシェア」という構想に至ったんです。
最初は鉄道会社や大手企業との提携を模索していたのですが、「傘を貸し出す」こと自体が浸透していなかったため、ほとんど門前払いで断られ続けました。そのうち小さな飲食店などで導入してくれるところが現れて、何百社と掛け合ったなかで50店舗の設置場所が決まり、ようやく2018年の12月からサービスを始めることができました。
――最初はなかなか浸透しなかったアイカサ、広がった理由は何だったのでしょうか。
地道なSNSでの発信が届いたり、ユーザーさんの口コミが増えていったりしたことが大きいです。登録がスマホアプリからということもあり、使ってみたいけど操作が複雑かもという不安の声も最初はありました。しかし、ユーザーさんの発信が増えるにつれて「自分も使ってみよう」と思う人が増え、「一度使ってみると、とても便利だ」という声もたくさんいただきましたね。
同時に設置スポットも増えていったので、そのぶん利用者が増え、口コミも増えていった形ですね。20~30代の方を中心に、Twitterの口コミ経由で広まった印象があります。
利便性だけではない、環境の負担を考えたサステナブルな傘
――傘をシェアして使うことには、利便性ともう一つ、大きな意味があるそうですね。
はい。日本では毎年1億2,000~3,000万本の傘が消費されています。中でもビニール傘は約8,000万本が消費され、その数は世界でナンバーワンの消費量とも言われているんです。1人が何本も傘を所有し、忘れたらすぐに買うことができるのは便利ではありますが、それだけゴミが増え、環境に負担をかけることにもつながります。
傘をシェアすることが広まれば、1本の傘を何十人、何百人で使えます。今までのように買ってすぐ使い捨てるのではなく、雨が降っているときだけ使って、止んだらまたスポットに返して自由に行動ができる、というような循環が生まれるといいなと思っています。
――環境への負担を考え、アイカサでは傘自体にもこだわりがあるのですよね。
アイカサの傘は、サエラさんが作っているサステナブルなもので、骨や表面を取り替えることができるのが特徴です。普通のビニール傘だと壊れたらそのまま捨てるしかないところを、この傘では壊れても修理できるのでゴミを出さずに使い続けることができます。
また、一般的な傘は骨部分に鉄が使われ、ビニール部分との分解が非常に困難でなかなかリサイクルされない現状があります。この傘は鉄を使っていないため、処分する場合にもリサイクルされる仕組みになっています。
細かいデザインにも配慮しました。傘の先を平らにして安全性を高めたり、取っ手部分にシリコンのゴムを入れて、傘を置くときに滑り落ちたりしないよう工夫しました。
各鉄道会社とのコラボを加速、駅にアイカサが増えた理由
――アイカサの利用料金はどのように設定されているのでしょうか?
料金については、他に事例がないので立ち上げのときに迷いました。どのような料金設定だったらビジネス的にも問題なく、ユーザーさんも使いやすいか考えて、利用料として24時間あたり70円と設定しました。24時間を超えた場合は1日ごとに70円がかかりますが、借りっぱなしでも同月内420円を上限にストップする仕組みも取り入れています。
また、ヘビーユーザーの方には使い放題プランとして、1ヶ月利用してもしなくても280円の格安プランがあります。例えば、最寄り駅や会社にアイカサのスポットがあって、月に何度も使う方は、こちらの定額制をご利用いただいていますね。
――最近では各鉄道会社と連携して、アイカサのスポットを全国に増やしていますよね。
いろいろな場所にスポットを広げていくなかで、一番使われるのが駅だということがわかってきました。大きな理由として、行動の分岐点、もしくはハブとなる駅に設置することで、ユーザーさんがとても便利に使えることがあります。
鉄道会社さんにとっても、落とし物のトップ5に必ず傘が入ることが課題になっているんです。傘をなくしても引き取りに来る方はほとんどいなくて、年間何万本も破棄となり、その処分代を鉄道会社さんが負担しています。ユーザーさんの求める利便性と、鉄道会社さんの持つ課題観が一致したことで、駅でも徐々に広げられるようになりました。
いずれは海外にも進出へ、世界中で使い捨て傘の削減を
――シェアリングサービスの傘を通して実現できる「傘を持ち歩かない生活」。ユーザーにはどのような新しい変化や体験を提供しているのでしょうか。
一番は身軽になることですよね。アイカサは、みなとみらいや上野などの観光エリアで特に需要が高く、新規ユーザーさんが多いです。1日中傘を持ち歩くのではなく、雨が降ってきたときだけ一時的に傘を借りて、晴れたら返す。荷物が少しでも減ることで、活発に移動できたり、少し多めに買い物ができたり、身軽に行動できると喜ばれています。
特に小さなお子さんがいる親御さんにとって、ベビーカーを押しながら、子どもの荷物と傘を持ち歩くというのは非常に不便ですよね。アイカサを利用することで、晴れているときに子どもの手をしっかりと握れるのは、安全面でも貢献できていると思います。
―――最後に、アイカサの新しい取り組みや今後の展開について教えてください。
昨年から環境省さんと一緒に、熱中症対策として日傘の導入を進めています。昨年は1種類でしたが、今年はUV90%以上カット、遮光、遮熱、晴雨兼用の傘を4種類を作っていて、男女ともにご利用いただいています。今年は特に、ウイルス対策でマスクをして熱がこもりやすいことが問題となったので、日傘を使っていただく方が多くなりました。
今後の展開としては、都内の全駅にアイカサの設置を進めていきたいですね。地方都市にも広げていって、いずれは日本で成功したシステムとして海外にも進出することで、世界中で使い捨て傘を削減していけたらいいなと思っています。傘の消費が世界一の日本で成功したら、海外でも成功できるんじゃないかと思っています。
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