XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年9月21日から24日の放送では、プロが通う料理道具店「釜浅商店」を紹介。釜浅商店は明治41年に創業し、包丁や南部鉄器、フライパンなどを販売している。2011年にはリブランディングを行い、プロ以外の客層にも商品の体験価値を提供している。
放送では、釜浅商店がリブランディングやリニューアルに込めた思い、専門店だからこそ得られる体験価値などを、4代目の熊澤大介氏に語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
良い道具の本質を伝えるため、新たに生まれたコンセプト
――最初に、明治から続いている釜浅商店の変化について教えてください。
釜浅商店は、プロの方向けの料理道具を販売する専門店です。しかし、時代とともにお客様もだいぶ変わり、今では一般の方や外国の方も多くいらっしゃるようになりました。そのため、最近はプロ以外の方にもわかりやすい提案の仕方や見せ方を心がけて販売しています。
――2011年に行ったブランドコンセプトのリブランディングでも、プロ以外の方に向けた提案の仕方や見せ方を意識されたのでしょうか。
そうですね。“良い道具”にはちゃんとした理由がある――そんな意味をこめて、料理の「料」の字を「良」に置き換えた「良理道具」を、ブランドコンセプトにしました。
自分たちの指針になる言葉について意見を出し合う中で、僕が「料理道具」という言葉を頻繁に出したそうです。便利グッズやキッチンツールでなく、料理道具屋なんだと。
一つで何役もできる便利な機能はないかもしれませんが、昔から廃れずに残っている道具には理由があります。道具の本質を理解して、伝えたい。それは自分たちが代々行ってきたことで、今後も一番大事にしたいと、話し合う中で明確に見えてきたものなので、そうした思いをプロの方以外にも届けられるよう、ブランドコンセプトを作りました。
丁寧な暮らしが普及する中で、「プロの商品」の需要が増加
――ここ数年で働き方が変化し、今年は新型コロナウイルスの影響で自宅にいる時間が増えました。日常生活に求めるものも変化しているように感じます。
「時間に余裕があるときには、いい道具でしっかり料理を作りたい」といった丁寧な暮らしをしたいと考えている方が、ここ数年で多くなっていると思います。そういう中で、プロが使う物を使ってみたいと思われる方も増えているんじゃないかと思いますね。
包丁やまな板、鍋など我々が扱う商品は、安価な物でそろえようと思えば可能です。対して、釜浅商店には値段が張る物が結構ある。しかし、そこにはプロの仕事に通用する耐久性、機能性を兼ね備えているという、ちゃんとした理由があります。丁寧な暮らしをしたい方が増える中で、プロが使う物に触れたい方が増えたような気がしています。
――丁寧に作られた良い物を使いたい、という需要に応える場所が釜浅商店なんですね。一方で、時代の流れによって、商品の見せ方や届け方も変えてきたと伺いました。
そうですね。例えば、30~40年前に父がデザインした、南部鉄器の「すき焼き鍋」があります。名前の影響からか「すき焼きにしか使えない」と思われてしまい、売れ行きが落ち気味だったときがありました。しかし、昔からオーブンウエアとしてグラタンを作ったり、鉄板代わりにお肉を焼いたり、色々な料理に使うことができるんです。
そこで、名前を「南部浅鍋」に変え、ギフトにも使えるような見栄えのいいパッケージも作り、レシピブックを写真付きで入れて販売しました。すると、うちの人気商品になったんです。商品自体は変わっていないのですが、提案の仕方を少し変えただけで、お客様に喜んでもらえることが分かってから、見せ方や届け方を工夫するようになりました。
愛着が生まれ、信頼関係を築く「道具を育てる」ということ
――道具との付き合いを通して、お客様に届けたい体験価値は何と考えていますか?
料理道具との付き合いは、まず選ぶところから始まります。ご自身の手で触れて重さを確かめたり、手のなじみ具合を感じたりして、インスピレーションを得る。数ある中から選んだということは、何か感じるものがあったんだと思うんです。
特に、料理道具は手に持って使う物ですから。ピンときた物と出会い、触れて、いざ家に迎え入れることから始まります。そういう思いで選んだものなので、きっと大切に、丁寧に扱ってくれると思うんですよね。ちょっと大げさかもしれないですが、こうした体験を通して「生活が豊かになること」を少しでも後押しできたらと、いつも思っています。
――良い料理道具は、暮らしのデザインにつながる可能性も持っているんですね。
はい。例えば、フライパンはフッ素加工品が便利で一般的によく使われていますが、使っていくうちにどうしてもフッ素が剥がれてしまう。すると買い替えが発生してしまいます。それに対して、中華鍋のような鉄のフライパンは、使い込んでいくと、どんどんいい道具に育ちます。購入時に「ならし」という作業をして、使い込んでくうちに油がよい具合になじんでいき、くっつきにくい、さびにくい、とても使いやすい道具になるんです。
使い続けるとだんだん愛着も湧きますし、愛着が湧いてくれば、より大事にしようと思いますよね。「他の人になんか絶対貸したくない」という気持ちにもなってくると。ちょっと大げさに言うと、道具と自分との信頼関係も築くことができる。そうすると料理もどんどん楽しくなります。私たちは、このことを「道具を育てる」と呼んでいます。
手に持って、よく聞いて選べる専門店ならではの魅力
――今年8月には店舗のリニューアルも行いました。どういった点をポイントにリニューアルされたのでしょうか。
「よりわかりやすく、より手に取りやすいお店」を一番に考え、実際に持って選んでいただけるスペースを倍以上に広げました。ゆっくりと落ち着いて、お客様の話も丁寧に伺いながら、本当にオススメできる物を提案する、そんなスペースになっています。
店頭では包丁を研いでいます。どんなに切れる包丁でも、使っていくうちに必ず切れ味は落ちてしまう。そこで手入れをしていくうちに、だんだんと自分になじんだ包丁に育っていきます。その過程を感じていただくために、店頭で行っています。
――最後に、合羽橋の店舗で料理道具と出会う、その魅力を教えてください。
プロの方が横で買い物をされている、その話を小耳にしながら、ご自身も選べることが魅力だと思います。専門店だからこその話もできると思うので、合羽橋に来たらどんどんお店の人に聞いてみてください。いろいろ出てくるはずです。
やり取りの中で本当に合った商品に出会う。実際にご自身の手で持って選んでいただけることは最も大事です。恥ずかしがらずに聞いて、手に持ってみてもらえると嬉しいです。
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