2020年11月20日にオンラインイベント「新時代のD2Cブランドの作り方」が開催された。同イベントには、クリーンビューティスキンケアブランド「SISI(シシ)」を展開するSISI代表の澤田実加氏、パーソナルスムージー「GREEN SPOON(グリーンスプーン)」を展開するGreenspoon代表の田邊友則氏、ファッションブランド「coxco(ココ)」を展開するcoxco代表の西側愛弓氏の3人が登壇。
ブランド立ち上げの背景や、D2Cを選んだ理由などを語った。また、モデレーターはMakuakeクリエイティブディレクター/R&Dプロデューサーの北原成憲氏が務めた。
大切なのは市場性よりも「原体験」
北原:本日モデレーターを務めます、Makuakeの北原と申します。まず最初に、皆様のブランド紹介をお願いします。
澤田:外資系消費財メーカーを含め、約10年ほどブランディングやマーケティングに携わったあと、今年の3月にSISIを設立しました。私たちは「SISI」を、「製品やサービスを通じて自分を思い大切にできる習慣をつくるブランド」と定義しています。ストレスと共存する女性の悩みに寄り添い、美容という観点から問題解決できるスキンケア製品の提案を行っていきます。
SISIがこだわっているポイントは3つあります。ひとつは、天然由来成分を主原料としつつも、「天然由来成分100%であることが正解ではない」という考え方に基づいて製品設計をすること。2つ目は、スキンケアのラインをもたず、一つひとつがユニークな驚きをもたらすようなスポットアイテムを展開していくことです。
そして最後が、「クリーンビューティ」の考え方を大切にすること。クリーンビューティの定義は、我慢して環境に良いことをするのではなく、まずは「好き」や「かわいい」といった感情から入り、気づいたら地球に優しい習慣ができているというものです。
田邊:GREEN SPOONは、「定額制パーソナルフード」を展開しています。(第一弾に出した)スムージーブランドの印象が強いかもしれませんが、あくまで「健康な生活を支えるウェルネスブランド」であり、11月からは「パーソナルスープ」の販売も開始しています。
カラダの悩みと生活習慣に関するパーソナル診断によって、ひとりひとりのカラダや生活習慣に必要な栄養素を特定し、200種類以上の野菜などから配合した全15種類から最適なスープを選ぶことができます。
ブランドづくりでは「僕らがどんな世界を作りたいのか」が重要かなと思っていまして、「自分を好きでい続けられる人生」をコンセプトに、”食べる”という行為からそれを達成しようと挑戦しています。「楽しい食のセルフケア習慣を身に付ける」ことで、自分のことを大切にする時間が生まれ、その実感が「自己肯定感の高い人生」につながっていく。そのことをお客様にお届けしたいです。
西側:coxcoは「服のかたちをしたメディア」として、シリーズごとに社会課題を設定し、その課題に基づいた服作りを試みています。大量生産された服が安く手に入るようになった今、私たちは従来の生産や消費の在り方に疑問を抱き、「人や地球を想いながら何を着てどう生きるか」をひとりひとりが「自分ごと化」する必要があると考え、今年5月にブランドをローンチしました。
Vol.0は、年間100万トンとも言われる「廃棄衣料問題」をテーマにしたシリーズ。そして今私が着ているのは、Vol.1の「廃棄残布問題」をテーマにした新商品です。未使用のまま倉庫で眠っていた、日本製の上質なサンプル生地を再利用して作っています。
「coxco」というブランド名は、「Cocreation(共創)」と「Communication(意思疎通)」を掛け合わせた言葉です。ひとりではより良い社会をつくれないので、皆でチームになり、ムーヴメントを起こしていきたいと考えています。
北原:では今回のテーマに移りますが、ブランド立ち上げのきっかけについて、皆様に伺わせてください。
澤田:私の父は物を買うことに厳しくて、小さい頃、なかなか欲しいものを買ってもらえなかったんです。そんな中、母の化粧品が並ぶ洗面台は華やかで、8歳の私はそこに夢を感じていました。2018年に、ひょんなことから当時勤めていた会社でD2Cブランドを始めるというお話をいただいたとき、子どもの頃の記憶が蘇り、「いつか化粧品の仕事に携わりたい」と抱いていたことを思い出しました。
スキンケアブランドの立ち上げは大変でしたが、どんどん夢中になっていきました。そしてちゃんと自分の力でやってみたいと思い、SISIを立ち上げました。
北原:西側さんと田邊さんはいかがですか?
西側:私はもともとファッションが好きだったんですが、ファッション産業による過剰生産・大量消費・大量廃棄というサイクルが環境に影響を及ぼしていることや、労働問題に負荷をかけていることを、ドキュメンタリー映画で知ったり、海外を旅するなかで肌で感じたりしました。それで、「ファッション×社会課題」というテーマがずっと自分の中にあったんです。
田邊:ぼくは以前、一人旅で様々な国を2カ月ずつ滞在して回っていたんです。そのとき、日本と海外では、健康に対する意識が全然違うなと感じました。ぼくが出会った人たちは、食べるものをすごく気にしていたし、ジムに行くのも当たり前。それらの習慣により、カラダだけでなくココロまで豊かになっている印象でした。
その後、サイバーエージェントで働いていたとき、あまりの忙しさに健康を気遣える余裕がなくて、「こんなときでも簡単に楽しく健康を気遣えるサービスはないか?」と考えたことがGREEN SPOONの始まりです。
北原:ブランドを立ち上げるとき、まずは「そこに市場性があるか?」を考える方も多いと思いますが、皆さんに共通しているのは、ご自身の原体験がベースになっているところですよね。
田邊:やっぱり「こういう世界を作りたい」という気持ちがないと、人を動かすことはできないし、応援者も募れないと思うんです。
D2Cのメリットと、苦労した点
北原:他の選択肢もあったなかで、なぜD2Cを選ばれたのでしょうか?
西側:私はデザイナーでもないですし、服やブランドを作ることよりも、「ファッションで社会課題を解決する」がやりたいことでした。そのビジョンを掲げて、様々な人を巻き込みながら課題解決していきたかったんです。なので、結果的にD2Cになったというのが正直なところです。Makuakeでは「サポーターが一緒に製品開発できるリターン」なども設けました。いろいろな方面から意見をヒアリングできるのもD2Cのメリットだと思います。
田邊:D2Cを選択したのは、想いや「実現したい世界」を伝えやすいことと、あとはぼくの得意領域だったこと、というのが理由です。ですが、正直D2Cにこだわってはいません。良いものを作って多くの人に届けたい。その手段にはいろいろあるはずで、今はD2Cという形を取っていますが、そうじゃない未来もあると思っています。
北原:実際にD2Cブランドの立ち上げを経験されて、大変だったのはどんな点ですか?
田邊:とにかくやることがメチャクチャ多いんです製造、物流、カスタマーサポートはもちろん、メディアを作ったりコンテンツを作ったり、直接届けるためにしなきゃいけないことがたくさんあります。たとえば製造ひとつとっても、今回スムージーとスープで合わせて200種類以上の原材料を使ったんですけど、それぞれの仕入れ先を探すだけでも大仕事でした。
澤田:本当におっしゃる通りで、D2Cといえばデジタルで軽いものと思われがちなんですけど、一種のメーカーを作るようなプロセスを、少人数でこなさなければならないところに難しさがあります。
ビジョンや使命感が「羅針盤」になる
北原:それでも困難を乗り越えられた理由って、何だと思いますか?
澤田:私はシンプルに、お客様がいるから。製品を楽しみに待っている方、喜んでくださる方がいるのは、モチベーションに繋がります。
田邊:ぼくは2つあって、ひとつは作りたい世界のビジョンが見えているからブレないこと。もうひとつは、仲間の存在です。一緒に会社を立ち上げた2人の存在と、いろいろな協力者の存在が原動力になっています。
西側:私は、これが生きる使命だからかなと思っています。ファッションで社会問題を解決するのが夢であり、自分の人生のミッションだと思っているので、大変なことだとは感じません。まだ世の中にないからやろうという思いです。
北原:ありがとうございます。ぼくはブランドというのは、「世の中に刻まれた記憶」だと思うんですね。ビジョン、ミッションというみんなが付いていきたくなる羅針盤を掲げて、そこに紐づいた良い記憶が製品やサービスを通じて世の中に積み上がっていくことでブランドができる。みなさまがご自身の原体験をきっかけに、明確なビジョンや使命感をもたれているからこそ、それに共感した人々の心が動いて、実際に製品を手に取ったときに記憶として残るんだと思います。
それと、皆さまのビジョンが意思決定の羅針盤にもなっていて、たとえばブランドを作り上げていくうえで何か迷ったことがあっても「その選択はビジョンの実現に向かえている選択なのか」と立ち返って考えることができるんじゃないか、と。
作りたい世界があって、それを羅針盤に「良い記憶」を世の中に積み重ねていくことが、「D2Cブランドの作り方」として重要なのかな、とみなさまのお話から感じました。
執筆/中村洋太