XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年11月9日から12日の放送では、家庭用の低温調理器「BONIQ」を紹介した。低温調理とは、食材を密閉し、温度をコントロールしながら調理する方法だ。2017年にクラウドファンディングで誕生したBONIQは、累計で10万台以上、出荷されているという。
放送では、製造・販売を手がける葉山社中 代表取締役の羽田和広氏に、販売のきっかけやBONIQを活用したコンテンツ作り、今後の展望などを語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
「自分で作ってもこんなにおいしくなる」低温調理の可能性
――最初に、低温調理器を販売しようと思ったきっかけを教えてください。
海外の展示会で商品発掘をしていたときに、低温調理器を見つけたことが、最初の始まりでした。サンプルをもらい、使い方を調べて初めて、「低温調理」という言葉自体を知ったんです。低温調理はもともとフレンチの調理法の一つで、以前から高級レストランやホテルといった現場で使われていました。しかし、機会を導入するのに1台数百万円もするものがほとんどだったので、それを家庭用にしたものが海外で広まりつつあったのです。
いただいたサンプルで実際に肉を調理して食べてみると、「自分が作ったものがこんなにおいしくなるのか」と感動したんです。そして、「間違いなく日本でも広まる」と思いました。国内における低温料理は、鍋に温度計を入れ、ガスを消したりつけたりして、60℃近辺を頑張って保つマニアックなシェフくらいしか実践していなかったからです。
――BONIQは2017年にクラウドファンディングで誕生しました。クラウドファンディングで商品の発表や資金調達を行った理由は何だったのでしょうか?
「応援」というスタンスのお客さん多く集められることが、クラウドファンディングの大きなメリットだと思ったからです。クラウドファンディングで商品を買ってくれる方は、商品が届くかもわからない状態で、長文のストーリーを読んだうえで購入してくださる方々。単純に安いから、流行っているから買ったわけではありません。スタートアップのメーカーにとっては、すごくありがたい存在です。クラウドファンディングで反響があれば、その後の販売活動でもしっかりと伝えていれさえすれば、日本中に広めていけると思いました。
最初は、海外製の低温調理器を仕入れて販売しようと思っていました。しかし、電圧などの違いがあり、基本的に日本の仕様には合いません。日本の仕様で法律的な申請をしてクリアしなければいけないというハードルがあること、生産ロットが数千台で、かつ海外のメーカーから仕入れるため、原価がすごく上がってしまいます。おそらく最終的な販売価格は、BONIQの倍以上になってしまう。そのため、最終的には自社で作ることを決めました。
いかに無駄なものをなくせるかを考え抜いたデザイン
――BONIQの特徴である、丸みのあるシンプルなデザイン。そのデザインコンセプトは、どこから発想したのでしょうか。
私はAppleの製品がすごく好きなんです。今までの日本のデザイン方法は、機能を限界までアドオンしていったものをベストと考えるやり方。対して、Apple創業者のスティーブ・ジョブズは、不要なものをなるべく排除し、排除できなくなったものを完成体と考える。全く逆の志向です。その考えに共感し、いかに無駄なものをなくしてくかを考えました。
サイズ感は初代の商品が平均的です。進化版の「BONIQ Pro」と、クラウドファンディングで新しく発表した「BONIQ 2.0」は初代よりも30%以上サイズを小さくしています。
初代の商品を販売したときに、ネットで買われた方から「思った以上に大きかった」という声を多くいただきました。日本の方はコンパクトな商品が好きということを知り、BONIQ Proではサイズを小さく、性能はパワーアップさせたものにしました。
――実際に利用したお客様からはどのような声がありましたか?
病気で糖質制限が課せられ、お肉などのたんぱく質を多めに取らなければいけないといった方々から、「こんなにお肉がおいしくなるなら食べ続けられます」といった反応が多くありました。高齢のおばあちゃんから、「私はお肉が本当に大好きなのだけど、歯が悪くて食べられなくなっちゃったんです。けれどBONIQで調理したお肉だったら食べられるから、すごく感動して、今電話しています」と言われたときも、嬉しかったですね。
低温調理した料理は、食材に不要な味を加える必要がありません。お肉も塩こしょうだけで十分おいしくなる。柔らかく、肉汁の流出が少なく作れるので、すごく味わい深いです。健康的な視点でも余計な添加物を入れなくてよく、塩分も余計に摂取しない。食材が一番おいしい状態で食べられるので、日本人にも合う調理法だと思っています。
レシピサイトやイベントで低温調理器の新たな使い方を提案
――BONIQでは購入後のユーザーのために、専用のレシピサイトを設けていますよね。
弊社で提供しているのは、定期的なレシピと動画です。レシピは海外の低温調理で作った料理を調べ、それを日本風にアレンジしたもの。海外でフレンチの勉強をして、帰国後にシェフとして働いていた方にお手伝いいただき、レシピを開発しています。
動画のクオリティーにも非常にこだわり、低温調理のことを「カッコいい」と思ってもらえるようなコンテンツを作っています。レシピ動画として成立させるだけでなく、マイクにこだわって音声の質も良くし、見ているだけでも楽しんでいただけるようにしました。
また、定期的なユーザーさんとのイベントも開催しています。今はコロナの影響で開催できていませんが、「こういうスタイルで低温調理をライフスタイルに取り入れています」と発信してくれる方とパートナーシップを組み、来ていただいたお客さんに対して、ダイエットや身体づくり向けといった低温調理器の新しい使い方を提案してきましたね。
――コロナ禍での外出自粛期間、BONIQは大きな役割を果たしているそうですね。
家でご飯を食べざるを得ない環境になってしまった中で、家でもレストラン並のクオリティーの料理が食べられる、低温調理というジャンル自体のニーズが上がりました。また、低温調理器を使うと手間がかからないので、家事の効率化もものすごく進みます。
1個メインディッシュを、お肉なり何なりをほったらかしでテーブルの上で作れば、ガス台を副菜作りのために使えます。食卓を飾る料理の栄養バランスを整えられ、作っている人も、1品よりも2~3品作れたほうが手抜き感もなくて良い。この気持ち的なニーズも補える側面が低温調理器にはあり、レシピサイトのほうも毎月倍々でPVが伸びています。
BONIQによって「健康的な新しい食習慣」を提供したい
――2017年にクラウドファンディングを始めてから、販売台数は累計10万台以上となりました。これからの低温調理器市場の動向についてどのように考えていますか。
“まだ10万台”ですね。日本の世帯数は、2000万世帯以上はあるじゃないですか。炊飯器やトースターは誰でも持っていますが、低温調理器はまだほとんどの人が持っていない。お肉のたんぱく質がおいしく摂取でき、家事も楽になります。健康需要が上がるほど、低温調理器に対してのニーズはまたどんどん高まると思います。市場はまだまだ大きいです。
いま注目しているのが、アスリート向けの活用方法ですね。アスリートも栄養管理がすごく重要ですし、たんぱく質の摂取量を大事にされています。一流アスリートだと料理人さんをつけられますが、一流にいく過程でも食トレが大事になってくると思います。そういった方々に対して、調理スキルは必要なく、自分で栄養マネージメントができるようにアプローチをしていて。それも考えると、低温調理器の市場は限りなく大きいと思っています。
――最後に、BONIQの今後の展開について教えてください。
各拠点で食事を出しているデイサービスなどの施設でも、低温調理をした料理が出せれば、お年寄りの方に必要なたんぱく質が、おいしく摂取できることにつながります。ここは注力していきたいと思っている部分で、今シェフの方と一緒に動いています。
僕らが販売するのは低温調理器ではなく、新しい食習慣です。健康へのニーズが高まる中、低温調理器は健康的な食習慣を達成させるためのツールの一つとなります。BONIQによって健康的な食習慣を実現してもらうことが、私たちの提供したい価値だと思っています。
KARTE CX VOXの過去の配信は、Spotify、Apple Podcasts、Google Podcastsのほか、「ラジオクラウド」のアプリから聞くことができます。ラジオクラウドはアプリをダウンロードの上、こちらのリンクもしくは、アプリ内で「KARTE CX VOX」と検索してください。