XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年1月18日から21日の放送では、インターネット書店「漫画全巻ドットコム」、マンガ配信サービス「スキマ」、マンガイベント「マンガ展」などを展開するTORICOの体験価値をご紹介。
漫画全巻ドットコムは、漫画を1巻から最終巻まで全巻まとめ買いでき、最短翌日にはユーザーのもとに商品が届くサービスだ。2006年に中古漫画をまとめ買いできる通販サイトとしてスタートし、現在は新刊を中心に電子書籍も扱うインターネット書店となっている。
放送では、漫画全巻ドットコムを立ち上げるまでのストーリーや漫画やイベントが生み出す体験価値について、TORICO代表取締役社長の安藤拓郎氏に話を伺った。
「全巻一気読み」の趣味が生み出したビジネスの種
――最初に、漫画全巻ドットコムが生まれた経緯について教えてください。
TORICOは、もともとスニーカーのメーカーとして起業しました。1年間ほど続けましたが、なかなか売上は上がらなくて。次のビジネスを考えなければと思っていた中で、たまたま個人的な趣味であった漫画の全巻一気読みが事業に結びつきました。
僕は、ほぼ毎週のように漫画を全巻一気読みしていました。ただ漫画を全巻そろえるのはすごく大変で、本屋を何軒も回らなければなりません。当時、そんなWebサービスはなかったし、僕みたいな趣味を持っている人が少なくとも全国に100人くらいはいるんじゃないかなと思い、漫画をまとめて買えるサービスを作ってみたんです。思いついてから2週間ほどで立ち上げましたが、サービス開始当日に売上が立ったので、「これはニーズがあるんじゃないかな」と思いましたね。
――漫画を全巻まとめて読みたいというニーズは、想定以上の大きさだったと伺いました。
はい。「『読みたい』と思って注文すると、翌日には漫画が全巻届いて朝から読み始められる」。これが理想だと思っていたので、バラで売らず「全巻」にこだわりました。
当初は売れると思っていなかったので、在庫ゼロでスタート。商品が売れたら自分たちで古本屋を回って集めていたので、一日数件までだったら何とかなりましたね。しかし、一日で十数件、多いときは3桁と対応する数が増え、朝に集める作品をリストアップして1日中、古本屋を回り、夜にかき集めた全巻を出荷する毎日でした。最初はスタッフ2人でやっていたのですが、徐々に3人、4人、5人と増えていき、それでも全然人が足りなかったのを覚えています。
「全巻一気読みできる楽しさ」が、お客様の喜びに
――利用したユーザーからは、どのような声が届きましたか?
私たちのもとに届くのはクレームが多かった一方で、何割かは「朝から晩まで漫画を読めて楽しかったです」「週末に読む漫画が楽しみで、今週も乗り越えられそうです」といったお便りをいただくこともありました。まさに、僕が週末にやっていた全巻一気読みをユーザーの方々も楽しんでいると思い、うれしくメールを読んでいた記憶があります。
今はほぼ新品しか扱っておらず、注文すれば大体入荷するので、漫画を探す作業からは解放されています。当時は大変でしたが、すごく楽しかったですね。宝探しをするような感覚で、いろんなお店を回ってようやく見つけた喜びは、なかなか味わえないと思います。今はシステマチックに入荷していますが、昔を知っている人からすると少し寂しいかもしれませんね。
――漫画全巻ドットコムが扱う商品は、中古漫画から新刊、電子書籍へと広がりを見せています。そこにはどのような理由があるのでしょうか。
注文の量に対応できなくなって新品に切り替えたのですが、当時は手軽に安く買えることが魅力で、お客様が購入してくれているのではないかと想定していました。中古から新品に変えると当然値段も上がるため、当初はお客様が減るのではないかと心配していました。
しかし、実際には一瞬減ったものの、数カ月後には中古を扱っていたときの売上をどんどん超えていきましたね。値段が安いことよりも、まとまって漫画が読める楽しさにお客様は魅力を感じてサービスを使ってくれたのだと思いました。新品を販売して売上が伸びていく中で、今後を見据えたときに早い段階から電子書籍も扱い始めました。また、今はリアル店舗を東京と大阪に2店舗構え、漫画に関連したイベントも開催しています。紙や電子、リアル店舗など販売の提供の仕方を問わず、漫画の楽しみを伝えられる会社でありたいと思っています。
3つの体験を提供できることが、相乗効果を生み出す
――リアル店舗は、Webサービスを始めるのとはまた違ったリスクがあると思います。どのような意図があって始められたのでしょうか?
そうですね。領域を広げるごとに競合が増え、さまざまな会社と競争になります。自社サービスの幅を広げ、かつブラッシュアップし続けていくは、単に紙の漫画だけを売っていたときに比べて大変な作業です。しかし、リアル店舗を持つことで、「紙でこういうことをやって成功したから、イベントでも応用してやってみよう」「イベントでこういうお客さんがいたから、紙で実現したら、もっと喜んでくれるのではないか」など、それぞれのサービスに相乗効果をもたらしブラッシュアップできると考えました。紙と電子書籍、リアル店舗と3つのサービスを自社で持っていることは私たちの優位性にもつながっているので、事業を拡大してよかったと思っています。
東京と大阪にあるリアル店舗では現在、月に大体2作品の漫画を選び、作者を呼んでサイン会を行ったり、作品をイメージしたコラボカフェや原画展などを開催したりしています。作品をリアルで感じてもらえるような場所として、大きな反響をいただいていますね。
――イベントでは、サービスを提供する側にとっても新しい発見があったそうですね。
多くのお客様に漫画全巻ドットコムをご利用いただいていますが、こちらからは全くお客様の顔が見えないんです。リアルイベントを開催することで、お客様のリアルな存在が分かります。先生を呼んだときに、その場で泣きだす方も結構いらっしゃって。そういうのを見ていると、私たちとしてもイベントを組んだ価値を認識することができるんです。リアルでしか感じられない感動がお客様にあって、その場を提供できる喜びが私たちにある。イベントを始めて本当に良かったと思います。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年4月~6月まではリアル店舗を完全に閉鎖しました。7月以降に再開し、席数を減らして予約制を取りながら再開しましたが、お客様の熱量がすごく、どんな作品のイベントを組んでも熱烈なファンの方々が来て、楽しんでいただいています。今後も感染予防に気をつけながら、続けていきたいと思っています。
海外でもイベントを開催し、世界中の方に漫画の面白さを
――新型コロナウイルス感染拡大による巣ごもり需要の拡大とともに、漫画全巻ドットコムの売上も大きく伸びたとお聞きしました。どのような需要があったのでしょうか。
コロナが騒がれ始めてから、紙の漫画は分かりやすく売上が伸びています。当然ながら、旬の作品が売れていますね。しかし、10年、20年前の名作も今まで以上に売れてきていているんです。リモートワークの影響で使える時間が増えたことにより、過去の名作や学生時代に読んでいた作品、子どもの頃に読んでいた作品などをもう一回読み直す流れが起きました。これまで漫画から離れていた人が、もう一度読みはじめているのではないかと思います。
また、家族みんなで漫画を読む需要も増えたのではと考えています。親が昔読んだ漫画を子どもに読ませてみたり、旬な漫画を親が子どもと一緒に読んだり、家の中で回し読みするシーンが増えたと思います。みんなで読んだり、繰り返し読むために紙の漫画を買う需要が高まったのではないでしょうか。
――最後に、漫画全巻ドットコムの今後の展開について教えてください。
以前は、外国人の方もイベントに多く来てくれていました。「このイベントのために日本に来た」というお客様が毎回必ずいて。しかし、今はコロナの影響で渡航が難しくなっています。今後は私たちが海外に進出し、現地でイベントを行いたいと思っています。
漫画やアニメは世界中で人気です。しかし、言語の壁が大きい。外国人の方に好きな作品のグッズを買ってもらったり、原画を見てもらったり、先生に来てもらうなどの場を海外に持つことができれば、世界中の方がたとえ日本語が分からなくても漫画を好きになるチャンスを作れるのではないかと思っています。情勢をみながら、イベント事業の海外展開は取り組んでいきたいですね。
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