XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年12月1日から3日の放送では、レストラン業界で注目を集める気鋭のレストラン「Kabi」のCXを紹介。2017年11月にオープンした同レストランは、コペンハーゲンの1つ星レストラン「Kadeau」で修行を積んだシェフの安田翔平氏と、メルボルンの「NORA」でソムリエを務めていた江本賢太郎氏によって立ち上げられた。フランス料理に日本の食材や発酵文化をかけ合わせた新たな日本料理を提供し、話題を集めている。
放送では、安田翔平氏にKabiが提供する独自の体験価値や今後のビジョンなどを伺った。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
日本の文化をかみ砕き、独自のスタイルで表現を
――もともと国内外の有名店で経験を積まれてきた安田さんですが、日本でレストランをオープンするまでにはどのような経緯があったのでしょうか。
もともと僕はフランスに住んでいたことがあり、父もフランス料理に携わっていました。フランスがとても身近な存在だったので、東京や大阪などさまざまな都市にもフレンチレストランはありますが、最初はフランスでシェフになろうと思っていました。
しかし、デンマークのレストランで1年間働いた経験も含めて、あらためて日本を外から見たときに「僕がフランス料理をする意味はない」と気が付いて。そのとき、日本の文化を表現できるレストランが作りたいと思ったのが、Kabiの始まりです。Kabiは日本料理と謳っていますが、「日本の文化をかみ砕いて表現するレストラン」という意味を指しています。
――Kabiはお店に入ったところから体験が始まっており、目黒の築90年を超える古民家をベースに、日本文化を感じられる空間を提供しています。その中でも、Kabiが提供する食体験の一つが、店名の由来にもなっている発酵食だとお伺いしました。
はい。僕はいつもさまざまな発酵をしているのですが、それをみた知り合いが「カビキン」を提案してくれて。外国人の方でも読めるように「Kabi」という名前になったんです。
発酵は食材のうま味を引き出すために行うのですが、今では僕から切り離せられない作業となっています。日本にも発酵文化がありますが、デンマークも保存食がベースとなっており、酢漬けや塩漬け、くん製などがあることを知り、のめり込んでいきました。そうした経緯もあり、Kabiでは発酵させたものを調味料として使うことにフォーカスしているんです。
特に鹿みそや発酵させたトマトジュース、グリーンピースジュース、マッシュルームジュースなど日本で使われていない発酵食を使っています。食べたことのない味を作れてうま味が増しますし、これが「KabiはいつもKabi味だね」と言われる理由かなと思っています。
食材の旬にあわせ、1ヶ月半ごとに新しいメニューを提供
――Kabi味という体験を生み出す原点になっている大きな要素として、食材へのこだわりがあると思います。11~12月にかけては、どのような食材を提供しているのでしょうか。
11月末からは、根菜類の甘みを意識した料理を作ろうと考えています。葉物やかぶ、にんじんなどは、11月末になったら寒さに耐えようとして、甘みが増すからです。
基本的に、野菜は自然栽培やオーガニック栽培をしているところでしか買いません。例えば、群馬の嬬恋村に安田嶺さんという自然な野菜しか作らない方がいます。畑に行ってもどこに野菜が生えているのか分からないほど草が生い茂っているのですが、そこから採れたての野菜を仕入れています。冬はすごくて、地面が固まっているので土ごと野菜を収穫して、リュックに入れて店舗まで持ってくるんですよ。まさに「採れたて」なんですよね(笑)。
――こだわりの食材を仕入れて提供する料理には、どのような工夫を施していますか?
四季をイメージして、基本的には3カ月くらい同じメニューを提供しています。3か月の中でも、1か月半ぐらいで10品ほどメニューを変えています。なぜなら、同じメニューを提供したとしても、最初に使用する野菜と、後半で使用する野菜とで全然味が違ってくるからです。
例えば、10月に始めたメニューを12月まで提供し続けたら、旬の食材の味わいが全然違います。旬の野菜のおいしさを一番表現できるのは、1カ月半だけ。これは魚も同じです。だから、1カ月半が経ったら、旬を生かせる次の料理に変えないと、野菜に失礼だと思っています。
大人から子どもまで、もっと気軽に訪れられるレストランに
――食材の旬にあわせて1か月半ごとに料理を変えると、そのぶんメニューの開発も大変になると思います。どのようなところからインスピレーションを得ているのでしょうか。
音楽が多いですね。僕は、アンビエントミュージック(環境音楽)やテクノミュージックが好きです。アルバムで曲を聞いたり、DJがライブしているところを見たりしながら、食材をリストアップしています。必要なパーツを一つひとつ集め、頭の中で組み立てていくのが僕の基本です。温泉などの自分がリラックスできる場所で、いつも考えていますね。
料理でアートを表現しようとは全く意識はしていませんが、1つのコースでストーリーを完結できるように作っています。1皿ごとにもストーリーはありますが、1つのコースをすべて食べ終わったら、さらに大きなストーリーがあるイメージで作っているんです。
――食を通したストーリーをより多くの人に体験してもらうため、さまざまな工夫もされているんですよね。その一つが毎年夏に行われている「Summer Kabi」とお伺いしました。
Summer Kabiはコースの価格を半分ぐらいにし、通常よりも気軽に来ていただけるような形で毎年夏に開催しています。行きたかったけれどお金に余裕がないという方をはじめ、若い料理人やDJ、アーティストなどにもレストランに来てくれたらと思い、始めました。
――お子様連れの来店への取り組みもされているんですよね。
はい。日本におけるフランス料理の文化理解は、ネクタイをして、ジャケットを着なければならないのが一般的です。「ザ・高級レストラン」といった感じで、海外であれば問題ないのですが、子ども連れだと入りづらいし、中にはNGなところもあります。
僕自身も子どもがいて、外食にも行きたい。そんな思いから、Kabiは子どもたちが来店しても全く問題がないようにしています。お客様のなかには「Kabiに行きたいんですけど、子どもがいて..….」と言いにくそうにおっしゃる方もいるのですが、「大丈夫ですよ」といつも言っています。そうしたことで、いろんな料理を子どもに食べさせたいと考えるご両親が子どもと一緒に来店してくれて、「うれしい」と言っていただけることも多いですね。
語り継がれてきたものから学び、自分らしい料理を再構築
――Kabiはオープンから3年が経ち、2020年2月には日本橋にも出店しました。こうした成長の中で、安田さんは今料理に対してどのような思いを抱えているのでしょうか。
Kabiをオープンしてから、少しずつ自分自身の料理がやっと分かってきて、最近気付くことが多いなと思っています。新しいことに取り組んできた3年だったのですが、もう一度日本の伝統や昔のフランス料理のテクニックを勉強し直すときだと感じています。
今まで語り継がれたものは長く変わっておらず、そこには意味があります。それを取り入れることは非常に大事だと感じているので、もう一度勉強してベースを作り直したいなと。
――自分の料理のかたちが見えてきたからこそ、あらためて伝統を大切にしたいということなんですね。今後のビジョンについては、どのように考えていますか?
僕自身は、Kabiをそれほど長く続けるつもりはありません。山梨か長野に移住して、畑を作ったり、動物を飼ったりして、泊まれる場所を作りたいと考えています。
なぜかというと、僕は料理人なのですが、野菜から作りたいという思いがずっとあって。東京に何店舗かあるオーガニック専門店に必ず行くようにしていますし、旬の食材を食べることは体にすごく良いし、理にかなっているからです。夏はきゅうりやトマトを食べて、体を潤し、夏バテ防止をする。食材で、すべてが決まってくるんです。もしスーパーに行くとしても、「旬の食材を買ったほうが体は喜ぶのではないか」と僕はいつも言っています。だから、料理を作るなら、今後は野菜も自らの手で作りたいと強く感じています。
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