2008年7月にiPhone3Gが国内で発売されてから10年が経った。「電話を再発明する」というiPhone発表時のスティーブ・ジョブズの言葉通り、スマートフォンは確かに電話の役割そのものを変え、様々な前提を塗り替えていった。
この10年の変革は、スマートフォンとともにあったといっても過言ではないだろう。
前編ではスマートフォンを中心としてこの10年で大きく変わったこと、それを振り返ることで10年という期間で世の中の前提がどの程度変わってしまうのかを確認し、後編ではこれからの10年で何が起こるのかを考えていきたい。
フィーチャーフォンからスマートフォンへ
まずは、それまで主流だったフィーチャーフォンからスマートフォンへシフトしたのがここ10年の出来事であることを確認しておこう。総務省が世帯におけるスマートフォンの保有率を発表し始めたのが2010年で、この時点では9.7%だったが、これが2017年には75.1%まで増加している。(参考:通信利用動向調査)
2010年にはほとんどの世帯にフィーチャーフォンが普及している状況だったが、そこから若い世代を中心にスマホシフトが進み、いまでは50代までの年代の大部分がスマートフォンに移行している。
最新の2017年のデータでは、6歳から59歳まではインターネットを最も利用する端末がスマートフォンとなっており、パソコンをも超えている。
ニールセンによれば、18歳以上の各年代で1日当たりのスマートフォンの利用時間は3時間を超えており、いかに日常的に接するデバイスになっているかがわかる。
この10年でもっとも新たにユーザーの時間を奪ったデバイスであると言えるだろう。
インターネットが本当の意味で常時接続になった
前述の通り、インターネットを利用する端末はスマートフォンがパソコンを上回る状況になっており、インターネットは自宅や会社のパソコンで利用するものから、どこでも利用できるものに変わった。
基本的にスマートフォンは常時インターネットに繋がっているため、利用者はリアルタイムで情報を取得できるようになり、移動しながらニュースをチェックする、調べ物をする、商品を購入するなど、ちょっとした隙間時間にも用事を済ませることが可能になった。
細切れにサービスとユーザーとの接点が生まれる「マイクロモーメント」という事象や、テレビを見ながらや食事をしながらスマートフォンを利用する「ながらスマホ」といった行動が新たに生まれた。
リアルタイム性の高いSNSの普及
インターネットが常時接続できるようになったことで、SNSの利用頻度は格段にあがった。2008年に日本に上陸したTwitterは、その性質からリアルタイムに情報を発信する代表的な存在として、広い世代に利用されるようになった。
生活者は感動した時や最悪の体験をした時に、即座にシェアするようになり、インパクトのあるエピソードは広く拡散される構造ができあがった。企業の不祥事が発覚するケースも散見され、“一億総メディア時代”というキーワードも生まれた。
さらに、災害時には電話などが繋がりにくくなった際に、SNSで無事が確認できたといったケースも生まれ、インフラとしての役割を担うようにもなっている。
クラウド化・コンテンツのデジタル化
サービスのクラウド化が進んだ10年でもあった。インターネットにどこからでもアクセスできるようになったほか、回線が高速になったことで、データをローカル上に保存しておく必然性が薄れた。また、複数のデバイスを使い分けるマルチデバイスが一般的となり、データをどこかで一元管理する必要性も出てきたことで、クラウド化が一気に進んだ。クラウド上で複数人で編集できる共同作業もいまやあたり前だ。
インターネットが高速になったことで、ストリーミングでも十分に視聴できるようになったことから、「Netflix」や「Spotify」といった、映画・音楽のサプリクション系サービスも普及が一気に進んだ。
無料会員も含めた数字だが、「Netflix」は、1億2,500万人(2018年第1四半期末)、「Spotify」は1億4,000万人(2017年6月)の会員を誇り、これまでのテレビやケーブルテレビに変わる存在となった。
また、コンテンツのデジタル化が進んだことで、本を買う、CDを買う、ビデオを借りるという行動が激減した。
電子マネーによるキャッシュレス化
国内においてここ数年でキャッシュレス化を牽引する存在となっているのが電子マネーだ。なかでもJR東日本が展開する「Suica」をはじめとした交通系電子マネーが幅広い層で利用されており、2018年7月には月間2億件を超える利用があった。(交通機関を含まない加盟店での数字)
当初は、改札や駅の売店などでしか利用できなかったが、ここ数年で全国のコンビニをはじめショッピングセンターや、家電量販店でも使えるようになっているほか、iPhoneのApplePayやGoogle Payでも利用可能になったことで、スマートフォンさえあれば財布もカードケースも必要ないという状況が生み出され、キャッシュレス化を推進する要因となっている。
キャッシュレス決済での支払金額における比率は現在もクレジットカードが18%ともっとも高い割合となっているが、少額決済でもキャッシュレスが用いられるようになった点は、電子マネーが切り開いた部分となる。
経済産業省が2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を発表しており、2025年までに現状国内で18.4%の割合であるキャッシュレス決済を40%程度まで引き上げる目標を掲げており、将来的には80%を目指すとしている。
様々なデバイスの役割をスマートフォンが奪う
スマートフォンという名前でありながら、もはや電話としての役割は極めて小さいものといえる。これまであった市場の一部もしくは大部分をスマートフォンが奪った領域がある。
代表格がデジタルカメラで、その他にも音楽プレイヤー、テレビ、紙の本、ゲーム機、時計、ボイスレコーダー、計算機、ライト、電子辞書、カーナビなどなど、大小含めて様々なデバイスの役割を奪っていった。
これがたった10年の間の出来事と考えると、劇的な変化だったといえるだろう。
以上、この10年で起こった変化について整理してみたが、様々な前提が変わったことが改めて実感できたのではないだろうか。
後編では、さらに進むキャッシュレス化、モノがインターネットに繋がるIoT、自動運転車など、これからの10年に起こることを考えていく。