XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2021年3月4日から3月6日の放送では、クラフトビールのメーカーであるヤッホーブルーイングのCXを紹介した。同社は「よなよなエール」をはじめ、「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「僕ビール君ビール」など、個性的な製品の製造・販売を手掛けている。
放送では、同社代表取締役社長の井手直行氏に、創業の経緯やクラフトビールが世の中に普及していくまでのストーリー、今後の展望などについて語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
「アメリカで飲んだ個性的なビールを日本でも広めたい」
――最初に、ヤッホーブルーイングがクラフトビールを始めたきっかけを教えてください。
当社の創業者であり星野リゾート代表でもある星野佳路が、留学していたアメリカで初めてクラフトビールを飲んだ際、「なんだこの個性的な美味しいビールは」と衝撃を受けたことがヤッホーブルーイングの始まりです。当時のアメリカでは日本より10年ほど先に酒づくりに関する規制緩和が行われ、大手以外のビールやクラフトビールが出始めたときでした。
日本に帰国し、家業のホテル業を継いだ後もその時の感動を忘れられず、「いつかアメリカで飲んだクラフトビールをつくりたい」と思っていたそうです。その後、日本でも酒税法改正をきっかけに小規模醸造所でビールがつくれるようになり、ヤッホーブルーイングができたという経緯になります。
――創業の年にできた初のクラフトビールが「よなよなエール」だったんですよね。
はい。「よなよなエール」を販売した97年は地ビールブームの影響もあり、「面白い」と多くの方に手にとっていただけて。飲んだ方には「ビールじゃないみたい」「ビールでフルーティなものもあるの?」と、珍しい味を好意的に受け止めていただきました。
しかし、ブームが去ると、一部のファンの方には変わらずに好評だったのですが、クラフトビールが普及するほど時代が追いついておらず、売れなくなってしまったんです。それでも味は変えず、品質を良くする努力は続けていました。少しずつ生活者のニーズが多様化する中で、個性的なビールも注目されるように。販売してから24年たった今、加速度的に『よなよなエール』のような、個性的なビールも受け入れられるようになりましたね。
8年連続の赤字から、ネット販売で起死回生の一手を
――今は身近になりつつあるクラフトビールですが、浸透するまでには多くの試行錯誤をされていたそうですね。
実は開業から8年間連続で赤字だったんです。ブームが去るとどこも取り扱ってくれなかったこともあり、最後のチャンスだと思って、販売の軸をインターネット通販に切り替えました。もともとネット販売はしていましたが、私が担当になり仕切り直しをしたんです。
ネット上での販売がきっかけで、全国のビールファンの方に当社のビールを届けられるようになり、少しずつ人気が出てきたのです。まさに起死回生、最後の打ち手がやっと当たったことになります。ネットで購入してくださったお客さまが、「このクラフトビールを扱ってほしい」とスーパーに声をかけてくれたり、お手紙を書いてくれたりしたことによって、取り扱いをしてくれるスーパーも出てきました。そして、競争が一番激しいコンビニでも置かれることになり、だんだんとクラフトビールが身近な存在になりつつあると思います。
――試行錯誤をされる中で、大切にされてきた思いや言葉などはありますか?
当社のミッションである、「ビールに味を!人生に幸せを!」という言葉を大切にしてきました。この言葉は、もともと「よなよなエール」単体のキャッチコピーだったのですが、私が社長に就任した際、会社全体のミッションにしたんです。
ピルスナーというビールの種類しかなかった日本で、もっと個性豊かで苦味や香り、さまざまな味わいのビールを提供することで、文化を変えていきたい。これが「ビールに味を!」につながっています。また、ビールファンにささやかながら幸せをお届けしたいという思いから、「人生に幸せを!」としました。
コロナ禍でのオンラインイベントは、のべ1万人が参加
――2013年には、都内に「よなよなビアワークス」というリアル店舗もオープンされました。なぜリアル店舗を出店しようと思ったのかを教えてください。
「よなよなビアワークス」は、ヤッホーブルーイングのビールだけを扱う公式ビアレストランで、現在都内に8店舗あります。オープン当時は、クラフトビールを扱う飲食店がほとんどなかったんです。飲食店のビールは一社がほぼ独占する形で契約するのが通例。私たちのような小さなメーカーのビールは、なかなか扱ってもらえない。そこで自分たちのお店を持って、クラフトビールをお客さまに提供し、少しずつ広げていくしかないと思いました。
店舗を出店したもう一つの理由は、お客さんと直接コミュニケーションできる場やイベントの開催ができる場所が欲しかったからです。ネット上でお客さんとやり取りをしたり、ファンイベントの開催もしたりしていましたが、お客さんが安心して来れる場所がほしいという気持ちがずっとありました。スタッフも直接ファンの方からビールの感想を聞いたり話したりしながら交流できると良いなと思い、「よなよなビアワークス」を作りましたね。
――2020年はコロナ禍で世の中の情勢も変化し、なかなかオフラインでのイベントが難しかったと思います。そのような中で、どのような取り組みをされたのでしょうか?
オンラインでのイベント開催をしました。本当は、春に軽井沢のキャンプ場を貸切って2週間、合計2000人のイベントを行う予定でした。コロナ禍ということもあり、リアルでのイベントは中止。そのかわり、同じ日時で初めて「よなよなエールの“おうち”超宴」という大型のオンラインファンイベントを開催したんです。初めての試みだったので、オンラインでも私たちの気持ちが伝わるか不安だったのですが、のべ一万人の方に参加いただきました。ビールを飲みながらクイズ大会をしたり、ミュージシャンの方にも登場いただいたり、色々なコンテンツを盛り込んだイベントは非常に満足度も高く、喜んでいただけたようでした。
オンラインだと気軽に参加でき、リアルとは違い、遠方の方にも楽しんでいただける。そんな機会を作れて、思っていた以上の反響もあったので、開催して良かったと感じています。
ノーベル平和賞を取れるくらい、ビールで幸せになる人を
――2020年度、イノベーションにより高い収益を実現している企業に贈られるポーター賞を、受賞されました。どのようなことを評価され受賞にいたったのでしょうか。
ポーター賞のWebサイトには、ブランドへのロイヤルティを高め、伝道師ともなる熱狂的レベルでファン顧客との関係を長期的に築いたとレポートしていただきました。また、100人に1人が強く共感することを目指した製品展開を評価いただいたと思っています。
ビール市場というのは、大手さん4社がほぼ独占しているんです。次にシェアが多いのはオリオンビールさんで、市場のシェアは1%弱。100人に1人、私たちのビールを支持してくれたらシェア1%になり、オリオンビールさん並になるんですよね。
最初から大人数の人に届くビールを狙うのは、やはり難しい。それならば、100人に1人刺さればいいと思い、ターゲットを絞って戦略的に販売を続けました。それが結果的に、100人に1人にとどまらず、より多くの方が支持してくれることにつながったと思います。
――最後に、ヤッホーブルーイングの今後の展望について教えて下さい。
目標として掲げているのは、「日本のビール文化を変えたい」ということです。今までの価値観を変えるようなビール文化を作っていきたい。まずは「よなよなエール」以外のクラフトビールもスーパー、コンビニなどで手軽に買える世の中にしたいです。
海外への輸出にも力を入れているので、世界にもっと当社のビールが進出し、ノーベル平和賞を取れるくらい、ビールを飲んで幸せになってくれる人が増えたらといいなと思います。
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