XDを運営するプレイドが、J-WAVE(81.3FM)の『TOKYO MORNING RADIO』内で放送※していた「KARTE CX VOX」。プロダクトやコンテンツ、イベントなどの誕生ストーリーや仕掛け人の思いを紐解き、「顧客体験(CX)」の意義をともに考える番組だ。
2020年12月28日から31日の放送では、老舗刃物メーカー「貝印」のCXを紹介した。貝印は創業から112年、日本を代表する老舗刃物メーカーだ。新型コロナウイルスの影響でおうち時間が増える中、工夫に飛んだコンテンツを発信し、ユーザーに支持されている。
放送では、広報宣伝部マネージャー齊藤淳一氏やクリエイティブディレクター鈴木曜氏に、自粛期間中の取り組んだ動画コンテンツの配信や、社会に問題提起した広告キャンペーンの展開、環境へ配慮した新商品の展開などについて語ってもらった。
本記事では、放送内容をまとめ紹介していく。
「#貝印おうちチャレンジ」で、おうち時間を楽しく
――2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、おうち時間が増加した中、貝印はどのようなサービスを提供したのでしょうか?
齊藤氏:おうちの時間を楽しく豊かにするためのコミュニケーション施策として、「#貝印おうちチャレンジ」という企画を実施しました。弊社のキッチンツールや理美容はさみの使い方動画、その道具を使った体験動画をYouTubeやSNSで発信したんです。
たとえば、砥石の使い方を紹介した動画では、家に砥石はあるけれど使い方がわからない、おうち時間が増えたから砥石を使ってみたいというニーズがあると考えて制作。「驚くほどよく切れるようになった」というような反響をいただきましたね。
切れ味が良いモノを使うと料理が楽しくなって、料理をする生活自体も豊かになると思います。そういう一端を刃物も担えるのではないか、と色んな活動を始めました。
――#貝印のおうちチャレンジでは、他にどのような企画をおこなったんでしょうか。
齊藤氏:オンライン上に美容室をオープンする「オンラインヘアサロン」も実施しました。美容師さんに貝印の散髪用はさみを使っていただき、おうちで簡単にできるハウツー動画をYouTubeで公開。トレンドの髪形の作り方や、前髪を整える方法、耳の後ろなど切りにくい部分をピンポイントで切る方法など、10種類ほど制作。ほとんどがセルフカットの企画なのですが、お子さんの髪を切るというものも実践してみたんです。実際に美容師さんのお子さまに出演いただいて散髪したところ、とても好評でした。
私も1歳と6歳の子どもがいるので、その動画を見て子どもの髪を切りました。とてもわかりやすかったですし、子どもとのコミュニケーションにもつながる体験でしたね。
バーチャルヒューマンを起用、新たな広告戦略も
――2020年夏には、バーチャルヒューマンを使った新たな広告戦略も実施されました。
齊藤氏:2020年8月より、「#剃るに自由を」をテーマにした広告キャンペーンを実施しました。「ムダかどうかは、自分で決める」というメインコピーと、女性モデルが脇毛を見せているビジュアルを駅構内や電車、SNS、雑誌などで発信。「剃毛がもっと自由にあってほしい」という思いを込めて、今回のキャンペーンをさせていただきました。
この女性モデル、実はCGを使ったバーチャルヒューマンなんです。体毛に関する悩みや固定観念に対してお客様同士でいろんなことをディスカッションしていただくため、なるべく真っ白いキャンバスを用意しようと、バイアスのかかっていないバーチャルヒューマンを起用しました。
――この広告にはどのような反響がありましたか?
齊藤氏:「よくぞ言ってくれた」「広告を見て涙が出た」という声が届きました。女性の脇毛は剃らなくてはいけない、男性のすね毛は残しておくべきといった見えない圧力や社会の目にプレッシャーを感じる方が多くいらっしゃったということがわかりましたね。
コンプレックスに対する過激な広告がWeb上を中心に多いですが、見直す動きも出てきています。たとえば、Yahoo!さんの広告では規制が強化されましたよね。私たちとしても、こうした流れとともに社会的に意義のある施策が実行できたと感じています。
古くから息づく「DUPS」を胸に、新しい製品を開発
――続いて、2020年秋に発表された新商品について、貝印のブランディングを担当する、クリエイティブディレクターの鈴木曜さんに伺います。
鈴木氏:11月8日の「いい刃物の日」に、2021年4月22日に発売予定の「紙カミソリ」を発表しました。1枚の紙が折り紙のように折られていて、そこに金属の刃をついているという、新しい体験ができるカミソリとなっています。貝印は使い捨てカミソリの国内No.1ブランドですが、最近は環境負荷の問題も叫ばれるようになりました。そこでお客様に新しい選択肢をご提示したいと、今回の商品化に至っています。
通常の性能の高いカミソリに耐久性は劣りますが、清潔に1日1日使っていただけて、分別の機能に特化しました。カミソリは水場で使うので紙との相性は良くないのですが、耐久性良く使っていただけるように、素材から工夫しました。剃るという行為を通じて、自分が環境問題に取り組んでいるという実感を伴う体験ができるのではないかと考えています。
――貝印商品の開発やブランディングで、大切にしていることを教えてください。
鈴木氏:貝印が提供できるのは、切るという行為の先にあるベネフィットだと思っています。切れ味が鋭い方がおいしい料理が提供できたり、より鋭く剃れたりした方が爽やかな暮らしに役立つ、といった体験の提供を重視してデザインしています。
貝印は、「DUPS」を開発の基準として貫いています。デザイン性(Design)、独自性(Unique)、特許(Patent)、安全(Safety)&物語性(Story)があるということです。この基準は古くから重要な概念としてあり、社内に根付いている考え方かなと思います。
タイのスキンケアブランドとのコラボ商品も販売
――2020年には、海外ブランドとのコラボ事業も展開されましたよね。
鈴木氏:はい。タイのスキンケアブランド「THANN」とコラボした商品をプロデュースさせていただきました。男性向けにはカミソリや爪切り、洗顔などをセットにしたもの、女性向けにはハンドケアに特化した爪切りや爪やすり、ハンドクリーム等をセットにしました。
貝印の、切るという行為の先にある体験や時間を提供していくという考え方をさらに昇華する形で、もっと上質に、自分と向き合う時間を大切にしてもらいたいという気持ちを込めて、今回、スキンケアブランドとのコラボレーションをデザインすることで、新たな挑戦をしようと考えたんです。
――異業種とのコラボレーションを通して見えてきた可能性と、これからの貝印の展望について鈴木さんはどのように考えていらっしゃいますか?
鈴木氏:インターナショナルブランドとのコラボは老舗の貝印として新しい取り組みだと思う一方で、やはり各々グローバル企業であるので、できることが限られてくるという事象はどうしても出てきます。ただそういった垣根を超えて、複数のブランドで価値を作りこんでいくことは、お客様の体験として非常に良いのではないかと考えています。今後も模索していきたいです。
社会も消費者心理も刻一刻と変わるため、そのときに良かったモノやコトが翌年にどうなっているのかわからなくなっています。その時々に最適な体験価値をお客様に提供していくため、今も大切にしていますが、よりスピード感を上げて様々なことに取り組んでいきたいです。
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