コロナ禍は私たちのライフスタイルを大きく変えたが、「買い物」もまたその一つだ。オンラインショッピングのより一層の普及に伴い、「試して買う」という新たな消費行動のかたちも広まりはじめている。
その変化を牽引する国内プレイヤーの一つが、「どんな製品も買わずに試せる」と掲げる家電お試しサービス「Rentio(レンティオ)」だ。カメラや家電、ベビー用品などを購入前に自宅でお試ししてから、本当に自分に合った商品を購入できるサービス。カメラや家電を中心に3,000種類以上の製品を取り扱っており、在庫は12万2,000点以上に及ぶ(2022年7月時点)。
同サービスを運営するレンティオは、2015年4月にレンタル事業をスタートして以降、カメラレンタルを中心に着々と事業規模を拡大していた。コロナ禍をきっかけにカメラのレンタルニーズは激減したものの、家電購入のデジタルシフトが進んだことによる、メーカーと消費者双方からの「お試し購入」へのニーズ増大に対応。かねてより目指していたという、家電お試しレンタルプラットフォームへと一挙に変貌を遂げ、現在の累計注文数は69万件を突破した。
一体、Rentioは私たちの消費行動をいかにして変えているのか?
消費者の後悔はもちろん、不透明な消費者のニーズ、目まぐるしいモデルチェンジによる大量生産・大量廃棄の問題……これらをすべて解消しうるRentioは、消費者、メーカー、社会、そして運営元であるレンティオと、「四方よし」を実現してくれるかもしれない。私たちの買い物の常識を変えつつあるRentioの裏側に迫るべく、レンティオの代表取締役社長・三輪謙二朗氏にインタビューした。
「買わなくてよかった」をなくし、「本当に良いモノ」と出会える
生活の中で使うモノなのに、買ってからしか、生活の中では試せない──誰もが「買い物なんだから当たり前」と思っている常識に「新しい選択肢」を加えてくれる点に、Rentioの特徴はある。
例えば、ルンバ。Rentioでは、最新モデルのルンバを、1ヶ月1,980円で借りられる「おためし1ヶ月コース」を提供している(2022年7月現在)。お試しして必要ないと思えば、返却すればよい。
「ルンバは本当に必要なのか?」と議論する前に、月2千円足らずでレンタルして一度試してみることができる。さらに、別のルンバも試して、もっと便利なモデルを入手できるかもしれない。
三輪氏「Rentioのおかげで、購入するか悩んでいた家電を、納得してから買えるようになったと喜ばれます。『ムダなものを買わずに済んだ』という声も多いのですが、最近では『本当に良いものを見つけられた』という声も増えました」
三輪氏が語る「ユーザーの声」のうち、前者の「買わなくてよかった」はわかりやすい。取材に同行したXD編集部員からは「最近買い替えた掃除機が、思っていた以上に吸引力が弱くて少し後悔している」「Rentioで借りていた床拭き掃除機『ブラーバ』を満足して使っていたが、引っ越し先の家が絨毯の床で使えなくなった。買っていたら後悔するところだった」との声もあった。Rentioが提供する価値がよくわかる好対照な事例だろう。
だが、後者の「本当に良いものを見つけられる」とは、どういうことだろうか。三輪氏はルンバを例に語る。
三輪氏「Rentioでは、ルンバを8機種扱っています。そして、レンタル後の購入希望率は、高価な上位機種のほうが高いんです。つまり、お試しした結果、ユーザーは『値段は高いが良い』製品に満足している。
『よくわからないからとりあえず安いものを』と下位モデルを買って不満を感じるのではなく、少し高いけど『買って良かった』と思える製品で満足できるのが、買い物の本来あるべき姿ですよね」
また、冒頭でも触れたように「生活の中で試せる」ことも大きなポイントだ。例えば、家電量販店で髪のドライヤーを買う時に、私たちは一応はその場で試して購入する。だが、実際にお風呂上がりに使ってみると、自分の髪質に合わなかったり、使い勝手が悪かったりする。しかし、Rentioでいろいろなモデルを借りてみれば、自宅でいちばん使いやすいものがわかるのだ。
もう一つの例として、三輪氏は「売れ筋集音機器 自宅で聞き比べセット」を挙げる。テレビの音を大きくしなくても、手元のスピーカーで離れた場所からテレビを楽しめる「集音器」は、自分の生活シーンに適しているかが重要な製品だ。住環境による聞こえ方の差異や、音質、使い勝手等で好みが分かれるため、実際に使ってみなければ判断が難しい。だが、人気のあるモデルは20,000円以上することもある。
しかし、Rentioの聴き比べプランでは、売れ筋の集音器を少し試すだけなら、比較的安い価格で3つセットで借りられる。それにより、いちばん自分に合った集音器を選ぶことができるのだ。
“途中でやめられる分割払い”という革新的なビジネスモデル
さらに、Rentioでは「レンタル」と「買う」という概念がなめらかに繋がっていることも特徴だ。レンタルしている家電をもし気に入った場合、返却せずそのまま購入できる。
例えば、ルンバを月額1,280円でレンタルしていたとする。もし、そのままルンバを借り続けて、商品ごとに設定されたレンタル月を超えると、手元の商品がそのまま自分のものになる。支払いが自動的に終了し、所有者がレンティオから自分に移る仕組みだ。
レンタルして気に入らなければ返却し、気に入ったらそのまま返さないで自分のものにする。もしくは、レンタル途中でマイページから「返さずこのまま購入する」ボタンを押し、追加料金を払って自分のものにしてしまう。通常の店舗やECサイトでの買い物は「お金を払ってモノを手に入れる」感覚だが、Rentioでは「すでに手元にあるレンタル品が、そのまま自分のものになる」と、より購入という行動を意識しない顧客体験が生まれる。
加えて三輪氏はこのシステムが、昨今の「家電のニッチ化」と相性が良いと語る。
三輪氏「10年から20年前は、冷蔵庫や洗濯機、テレビ、クーラーなど、どの家庭にもあるような家電が売れ筋商品でした。しかし、最近はホームベーカリーや360度カメラ、自動調理鍋、ロボット掃除機など、一風変わった家電が人気を集めています。
ホームベーカリーで本当に簡単にパンが焼けるのか。自動調理鍋を使ったら、どれだけ料理が簡単になるのか。実際に使ってみないとわからないじゃないですか。こうした商品の良さを知るためには、試さなければ無理だと思います」
一見ニッチで魅力が想像しづらい製品も、使ってみれば感動するかもしれない。だが、使うかわからない段階で数万円もする家電をいきなり買うのはハードルが高い。そうしたモノでもRentioがあれば、生活の中で気軽に試せるのだ。
例えば、映画を観る家庭用プロジェクターは、「家で使ってみないとわからない」商品の一つだ。同席していた編集部員は「初めてプロジェクターを買った時、比較的安い製品を買ったら映像の質が低くて見づらかったため、結局あまり使わなかった。でも、ちょっとハイエンドな商品に買い換えてみると、驚くほど映像が綺麗で頻繁に使うようになりました」と自らの体験を振り返る。
Rentioでは、近年話題のプロジェクター「popIn Aladdin」が人気。買うと6万円以上するため、消費者からすれば購入のハードルが高い商品だ。だが製品の質の高さに定評があるため、三輪氏は思い切って月額500円で貸し出したところ、多くの人がそのまま返却せず購入したそうだ。
こうしたRentioのビジネスモデルの根幹には、自分たちの利益よりも顧客の満足を突き詰めるスタンスが感じ取れる。
三輪氏「正直にいえば、月額定額制の上限や「そのまま購入™」といったシステムを設けるよりも、サブスクリプションサービスとして借し出した期間分お金を支払ってもらう仕組みの方が、利益が出るはずなんです。でも、それはお客様のためにならないので、私たちはやりません。
Rentioは、いわば『途中でやめられる分割払い』です。10万円する製品を、一括払いで購入するのはお財布に優しくない。だったら、毎月2,000円ぐらいずつ払ってもらって、使わなくなったら返却してもらえば、ユーザーは損なく使えるはずですよね」
大量生産・大量廃棄に「待った」をかける?Rentioが実現する「四方よし」
ここまでRentioがいかにして「買い物」に革新を起こしているのかを見てきたが、気になるのは、製品の作り手であるメーカーとの関係性だ。
レンタル、シェアリング、サブスクリプション……「購入」以外のサービス形態は、メーカーにとってみれば、頭を悩ませる存在になりかねない。「レンタルで足りる」と思われれば、消費者が買わなくなってしまう可能性があるからだ。
かつてRentioも、メーカーから競合として見られていた。しかし、実のところメーカーにとってRentioは対立する関係ではなく、共生関係にある。
Rentioを通すことで「検討の結果、買わなかった」層にも買ってもらえる選択肢が生まれ、メーカーにとっての売り上げが結果的にアップするからだ。例えば、購入転換率(興味を持ってくれた人が実際に買ってくれる率)が3%の商品の場合、レンタル利用の機会を用意すると、購入数が4倍以上になるケースもあるという。
とりわけ、先程も指摘した「家電のニッチ化」はメーカーにとって頭痛の種になりやすい。メーカーが自信を持っている「一度使ってみれば感動する」製品も、「数万円するので買うハードルが高い」場合、家電量販店やECサイトにただ並べるだけでは、なかなか売れないからだ。Rentioが「レンタルからそのまま購入する」という流れを開拓したことで、メーカーにとって販売経路や手段が多様化したといえる。
加えてRentioを通すことで、メーカー側が予想もしていなかった売れ方につながるケースもあるという。とあるメーカーの「双眼鏡」を、印象深い例として三輪氏は挙げる。
三輪氏「この双眼鏡には、とても高性能な手ブレ防止機能がついています。バードウォッチングでの使用を想定した製品なのですが、Rentioではほとんどがアイドルのライブで使用するためにレンタルされています。アイドルが飛び跳ねていてもブレずに見ることができるので、評判が良いんです。
6万円の双眼鏡を1年に1回くらいしか行かないライブのためにいきなり買うにはちょっと勇気がいると思いますが、実際の使い勝手に満足して購入される方もいます。メーカーからは『Rentioのおかげで売れ出した』と言っていただいていますね」
幅広い層の人が手にすることで、口コミが集まることもポイントだ。お試ししたユーザーの声は、Rentioからメーカーに伝えられ、貴重な顧客フィードバックとなる。Rentioが「どこに満足したのか」などさらに深いアンケートを取ることで、メーカーは商品改善や宣伝方法の見直しに役立てている。
例えば、とあるメーカーの美容家電はユーザーからの評判が悪かったが、その理由は「手軽に使える」ことを売りにしていたため、使用感とのギャップが生まれていたからだった。Rentioはアンケートや口コミからその原因を発見し、「1時間ほどじっくり使うと高い効果が得られます」と売り出した。するとユーザーの満足度は改善され、利用継続率が向上。メーカーからも「売り方を変えるだけで販売数が伸びた」と喜ばれたという。
さらにRentioは、「古くても良い製品」があるのに新しい機種がどんどん登場する現状に「待った」をかける。SDGsにも「つくる責任 つかう責任」という項目があるが、近年、大量生産・大量廃棄を前提とした消費システムからの脱却は世界的なイシューとなっている。
三輪氏「家電業界では、性能がほとんど変わらない新機種が店頭に並ぶことがあります。メーカーの『どんどん新モデルを出そう』という意欲的な姿勢の表れだと思うのですが、旧機種というだけで価値が下がってしまうことも事実です。Rentioでは古い型も貸し出しますが、現役で十分満足してもらえる機種もたくさんあります。すでに良いレビューが付いて評判が良い機種があるのに、『数年前のちょっと古いモデルだから』と新しい機種に取って代わられてしまうのはもったいないですよね」
そうした背景から、展示商品や型落ち製品といった理由で処分されてしまう家電をRentioが買い取り、メンテナンスした上で、貸し出すという旧モデルの受け皿となるような取り組みも行っている。
そして、「試してから買う」という選択肢を提示したことで、本当に必要な人だけが手元に残し、不要になったら返却してまた別の人の手に渡っていく。そうした循環を生み出すことで、処分されてしまう不良在庫を減少させ、サスティナビリティにも寄与すると三輪氏は考えている。
このようにRentioの登場によって、消費者、メーカー、社会、そしてもちろんレンティオと、言わば「四方よし」が実現しているのだ。
レンタルサービスから、「お試し購入」サービスへの軌跡
冒頭で触れたように、Rentioは現在3,000種類/12万2,000点以上の在庫を取り扱っており(2022年7月時点)、累計注文数は69万を突破。着々と新しい「買い物」行動を広げている。
ただ、今でこそ「お試し購入サービス」としてユーザー数を伸ばしているが、創業当時は購入するケースは少なく、「レンタルサービス」としての側面が強かったと三輪氏は振り返る。Rentioはいかにして、現在の「四方よし」のサービスにたどり着いたのだろうか。
三輪氏「そもそもレンタルサービスのアイデアを思いついたきっかけは、友達の結婚式のために宴会芸用のグッズを借りたことでした。獅子舞とふんどし、サングラスをレンタルして、ある芸人さんのモノマネをしたら、これがしっかりウケまして(笑)。『買う』まで行かなくても、一度の体験にお金を払うのは面白いなと、レンタル事業に興味を持ちました」
また、ちょうどその頃、三輪氏自身に子どもが産まれたことも契機となった。
三輪氏「子どもの写真を撮りたいと思って一眼レフカメラを購入したのですが、子どもが外で活発に遊びはじめたら、全く使わなくなったんです。『これならレンタルでよかったな』と思いました。
同時に、『試してから買えたら良かったな』とも思ったんです。2015年の創業当初、ルンバやホームベーカリーなど、欲しいけど一度試してみたい家電がたくさん現れていまして。ですから、最初はレンタルサービスとして立ち上げましたが、お試し購入へのニーズも睨んでいました」
2015年の創業から約4年間は、GoProやTHETAなど、一時的にカメラやその関連機器をレンタルするという使い方が多かったという。ただ、「レンタルサービス」として着々と売り上げを伸ばすのと並行して、メーカーの在庫をレンタル用にたくさん買い取って取引実績をつくり、メーカー在庫を預けてもらう仕組みを提案するなど、徐々に共生関係も築きはじめる。
三輪氏「売り上げが伸びてきたタイミングで各メーカーを訪問し、『レンタルではなくてお試しなんです』『試してから買った方が良いですよね』とアピールしはじめたんです。そうしたら、賛同してくれるメーカーが、少しずつ増えはじめました」
そして、メーカーとの共生関係を強め、「お試し購入」サービスへと変貌を遂げることになった大きなきっかけが、コロナ禍だ。
三輪氏「生活者は家電量販店に行きづらくなり、購買行動がECサイト中心へと劇的に変わりました。一方、メーカーは既存の店舗による販売ルートの効果が薄くなり、売れ行きに不安を感じはじめた。『レンタルで試してもらって、それで売り上げが伸びるなら……』と、メーカーはRentioを積極的に支援してくれるようになりました」
専用の梱包用段ボール箱も開発。Rentioを支える、地道なサービス改善の積み重ね
コロナ禍に際して高まった、ユーザーとメーカー双方からのニーズにRentioが応えられたのは、「レンタルサービス」時代からユーザーに向き合い、オペレーションの改善を地道に繰り返してきたからこそだ。
問い合わせやクレームに真摯に対応できるよう、メンテナンスやクリーニング担当のスタッフを本社で雇用。一つひとつの商品のやり取りや問い合わせに対して、丁寧に対応しているという。
三輪氏「清掃から顧客対応まで、すべて自分たちで担当していますね。例えば、ルンバは返却されるたびに、専門のスタッフが一つずつ分解してクリーニングしています。問い合わせ内容は製品によって多岐にわたり、今では大人気のホットクックも、最初は『鍋から変なニオイがする』などとクレームが多かったんです。そのたびにスタッフで集まり、ニオイがしないクリーニング方法を独自開発するなど、地道に改善を重ねてきました」
返却のUXにもこだわってきた。現在のRentioでは、注文履歴から「返送する」ボタンを押すとQRコードが発行され、それをコンビニで見せると簡単に返送できるシステムが整っている。
とりわけ、梱包は多大な労力を要する作業だ。メーカーが販売時に用意する箱は、家電を戻すことを想定してつくられていないことが多い。例えば、とある掃除機は「箱に戻せなくて返せず困った」というレビューが多発。社内での議論の末、「誰でも簡単に掃除機を段ボール箱に戻せる」専用の段ボール箱を独自開発した。
「レンタル」サービス時代にはじまる着実な改善の積み重ねがあったからこそ、「お試し購入」サービスは花開いたといえよう。現在でも組み立てが複雑な家具を、組み立てた状態のまま発送・返送するサービス開発など、サービスの地道な改善は続く。その先に三輪氏が見据えるのは、ミッションに掲げる「新しい消費行動をつくる」だ。
三輪氏「本当は、すべての製品を2週間2,000円くらいで借りられるようにしたいんです。そうすれば、ユーザーはいろんな商品を手当たり次第に試せるようになりますよね。すると、もっと良い商品にたくさん出会えるようになる。Rentioをもっと普及させて、良い商品が残っていく世の中を実現していきたいと思っています」
Rentioは、私たちが日々当たり前にしている「買い物」のあり方を大きく変えうるサービスだった。家電や家具、衣類まで、「レンタルで試してから買うことが当たり前」という考えが常識になる日は、案外遠くないのかもしれない。
執筆/石田哲大 撮影/須古恵 取材・ 編集/小池真幸